表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

悪霊の憑依

平岡俊ひらおかしゅんは夢見る受験生!

 夢の中で出会える天女のような美人ホワニタマニ。友達の千絵は「それは受験に落ちた女の怨念」と心配する。そして鞄から取り出したものは……。

 悪霊の憑依


「おはよう」

「おはようって、まだ頭は起きてないわね」

 昼を過ぎていた。

 眠そうに起きる僕を横目に、母は出掛ける支度をしながら聞いてきた。

「昨日は何時まで起きていたのよ。ちゃんと睡眠時間はとれているの?」

「え? ああ。2時には寝たよ」

「ええっ!」

 母は慌てて両手の指を折り曲げて睡眠時間を数える。

「ひい、ふう、みい、よお……じゃあ10時間も寝てるじゃないの!」

 明らかに寝過ぎだ。でも質が悪い。ほとんど考えごとをしていて、深く眠れていない。

 マニのことを考えていたとは口が裂けても言えない……。

「寝過ぎよ! お母さんでも、もっと受験勉強してたわよ」

 コートを羽織ると、近くに立ててあったフローリングワイパーの柄の部分に当たり、カンと音を立てて倒れた。

「――レンジに冷やごはんが入ってるから、チンして適当に食べるのよ。それと、次の模試でまた順位が下がっていたら、お父さんが違う塾を探すって言ってたから、今の塾が良かったら少しは頑張りなさい!」

「分かってるって」

 ――早く仕事に行ってくれ。聞くだけウザったかった。

 倒れたフローリングワイパーを戻すことなく母は出掛けた。


 マニの顔が……目に焼き付いて離れなかった。


 外国人にもあんな整った奇麗な顔立ちの女性はいないだろう。

 アニメやゲーム、人間が思いつく理想の女性の顔……それは星が違っても、たどりつくところは同じなのかもしれない。

 人間の本能? 遺伝子上の最上級? もし人間の先祖の星があるというのなら……その頂点に立つ美の極致があるのかもしれない。地球上の女性よりマニはそれに近かった……?


 そんな考えごとをしながら卵かけご飯を作ろうとしたら――生ごみ受けの三角コーナーに卵を割り入れてしまい、殻をご飯の上に乗せてしまった!


 我ながら――やばさを感じた……。



 今通っている進学塾は、入試までの短期間で徹底的に詰め込む塾で、決して自分から行きたいと言った訳ではない。博也と千絵が通っているのと、家から一番近いのがその塾だったから、どうせ行くならそこがいいと言ったのだ。

 規模は大きくないが、狭い教室はどこも満員。受験に賭ける世間の意気込みが感じられる。エレベーターはなく、階段をぞろぞろ塾生が上がっていく。

 大手の進学塾に比べると、……かなり安いらしい。


「俊君、夢の見過ぎでノイローゼですって?」

 急にドキっとした。

 僕の口から千絵にそんな話をした記憶がないのだが、博也を見ると視線を素早く避けられた。

「それで寝不足になって勉強できないなんて……可哀そう」

「何言ってるんだよ。そんなことないって。昨日だってぐっすり寝たし――」

 10時間も寝ていたとはさすがに口にできない。 

「女の子の夢を見るって聞いたけど……」

 千絵の目が鋭く光る。


 博也の奴! どこまで喋ったんだよ――! あっ、また視線を逸らしやがった!


 千絵が鞄の中から何か細いクルクル巻いた紙を取り出して、

「それは受験に落ちた女の怨念よ。だから私、近くの神社でお札を買ってきたの」

「お、おフダ?」

 巻かれた紙を開くと、読めない字が腹を壊したミミズのように書かれている。

「千絵ってオカルト系女子だったっけ?」

「さあ? ……まあ、普通じゃないよな」

 普通じゃない。それには納得してしまう。一体その札をどうしろというのだろう――。

「これを今日はおでこに貼って寝てみて」

「ええ? おでこ? そんなの効果あるのかよ」

「絶対ある! 魔除けのお札よ! 俊君には悪霊が憑依しているのよ。だから順位も下がってきてるし、このままじゃ志望校に行けないわ!」

 必死にそう言う千絵が少し涙目になっていた。

「千絵……。分かった。ありがとう。今日はこれを……」


 ――おでこに貼って寝るのか――?


「千絵の気持ちが詰まってるんだから、ちゃんと貼って寝るんだぞ! おでこに……」

 気のせいか、博也は必死に笑いをこらえている……。

「貼るよ……。貼って寝てみるよ」

 千絵は明るい笑顔で、絶対だよっと念を押し、特進の部屋に戻っていった。


「ひ〜ろ〜や〜。お前、千絵に余計なこと喋っただろ――」

「ごめん! 千絵があまりにも心配してるから……つい言ってしまった」

 両手で拝むように謝る。

 ごめんで済んだら世の警察官が何人涙を呑むことか! っと言ってやりたかった。

「それでも、夢の女って言ったら、ちょっとホッとして、なーんだって言ってたぞ」

「え! そうなのか」

 たしかに……マニという名の彼女ができたと勘違いされる方が厄介だ。

 千絵にもらった札を指先にクルクル巻きつけながらそう考えていた。

「千絵って見かけによらず繊細なんだからさあ。お前もちょっとは気を配ってやれよ」

 あの千絵がか?

 男二人と卒業旅行に行きたがるような女子だぞ?

「女の子って元気そうに見えて、本当は無理してる時あるんだから」

 講師が入ってくると、博也は前を向いた。


 女子って誰でもそうなのか?

 ……いや、違うだろう。

 少なくともマニは……いつも偉そうだ。


 美貌が彼女をそうさせているのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ