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俊とマニ

平岡俊ひらおかしゅんは夢見る受験生だった。

 あれから半年が過ぎようとしていた……。

 俊とマニ

 

 あれから半年かけて、マニとのことや惑星ナガツキのことを小説にまとめ、小説大賞に応募したが、

 ――落選した。

 一次選考すら通過しなかった。


 ネットでも公開したが、誰も読んでくれなかった――。

 当たり前かとも思うが、まだ他に方法はあるはずだ。――決して諦めたりなんかしない。


 博也に殴られたあの日から、死のうなんて思わなかった――。

 僕は夢を見ていただけで、何一つやり遂げていないからだ。


 ネットで公開していた小説に、感想が二件だけ書き込まれていた。

『リアリティがないな。全然。大学でも行って、文章力をつけろ!』

『女の子は恋愛のドロドロした部分や、キュンとするようなドロキュンが読みたいのよ。それに、ライトノベルにバッドエンドなんて、ぶっちゃけありえないんだからね!』

 誰が書いてくれたか分からないが、――酷評だな。


 文章力がない――仕方ないか。

 ドロキュンって何だ……? ムズキュンなんてものを書いているわけでもないのに……。

 それに、夢を見て受験戦争に敗れた話が、ハッピーエンドなんかにできるわけがないだろ――。


 はあ~。ため息しか出ない。


 大学へ行って、自分がやりたいことの専門的な知識をつけないといけないんだ――。

 今更になって後悔している――。

 一年間はアルバイトと浪人をして、来年もう一度同じ大学を受け直すことに決めていた。

 親父は――最初からそうなると予想していたらしい。


 それに……大学に行くのは、マニとの約束の一つでもある。

 だから必ず達成しなくてはならないんだ――。

 

 ああ――目が疲れた。

 最近調子が悪い。パソコンのやり過ぎだ。暗い部屋でずっとパソコンばかりやっていると、すぐに目が疲れるようになっていた。

 目薬をさし、寝静まったリビングの冷凍庫から保冷剤を取り出し。タオルでくるんで目に当てて冷やした。


 パソコンには手直し中の小説が映し出されている。


 私も俊が大好きだよ――!

 ……って書き足す方が、文章としては面白いのかもなあ。


 恋愛ものの方が読んでいて面白いのは明白だが……真実を曲げるようで気が進まない。

 試しにキーボードで打ち込んでみる。


「僕はマニが大好きだよ。」

「私も俊が大好きだよ。■


 我ながら文章力のなさに、寒気すら感じる――。


 身ぶるいと同時に鳥肌がたった時だった……。



『んー、あれ、私、そんなこと言ったっけ?』


 ――?

 ――声が、

 ――今、声が聞こえた?


 ハッキリそう聞こえたが、――まさか!


「マニ!」

 部屋の中で大声で名前を叫んだ!


『……見せたいものがあるから、半年前みたいに来て。地球の夜中の2時……』


 マニの声だ!

 マニの声が聞こえたんだ!


「マニ! 待ってくれ! もう行かないでくれ――マニ!」


 そう叫ぶが、もう何も聞こえなくなっていた。

 書いていた小説から声が聞こえたような錯覚さえ覚えた。

 こんどは夢ではなく、パソコンの中から……妄想から……? マニが声をかけてきた気がした。


 ……また親から心配されるかもしれない。以前も何度か、怪しい薬物に手でも出していないだろうなと怪しまれた。一人部屋から突然の大声。――誤解されない方がおかしい。

 

 しかし――今のは……確かにマニの声が一瞬聞こえた!

 僕は疑うことなく声のとおり、半年前のように、2時前に眠ってみた……。



 あれから夢にすらマニは出てきてくれなかった。眠るのが怖くなり。辛かった日々。

 今日は、少しその恐怖から解放された気がしていた……。

 ……あの頃のあの感覚が再現してほしい……。



 また、マニがお風呂に入っているあの懐かしい空間に……つながってほしい……。



 ――。

 ――マニの視線につながった?


 起きてしまう衝動を、必死に深呼吸して抑える。

 息が苦しくなる。息を止めてはいけない。目から止めどなく涙が溢れだすのが分かる。


 ――焦らない。

 ……慌てない。

 ――それなのに! 必死で心を落ち着かせているのに!


 入浴している時間のはずだったのに……、ここは四角く広いリビングじゃないか!

 それに、夜のはずなのに……カーテンの外が明るい?


 鏡でマニの姿が早く見たいのに、鏡が見当たらない!

「どこにいるんだ! マニ! マニー!」  

『落ち着きなさいよ。ここにいるから俊も見えているんでしょうが! それに、まずは見せたいものがあるって言ったでしょ』

 また、怒られてしまった……半年ぶりだというのに、いきなり怒られてしまった……。


 ――懐かしいマニの声! 

 よかった! マニが生きていたんだ!

 でも一体、どうやって?

 あの計画は失敗したんじゃなかったのか?

 

 ふふっと笑ってカーテンを開けると、夜のはずなのに――、

「ま、まさか!」


 ――紺碧の青空――

 どこまでも広がっていた。



 膨張して歪んだ恒星ベテルギウスは、青白く光輝く小さな二つの恒星に姿を変えている!


『俊と別れたすぐあとだったの――、全てのエネルギーを失ってみんな凍結する恐怖に襲われていた時、急に超新星爆発が起こったの。ナガツキの全てのソーラーパネルがその衝撃で割れて粉々になって空を覆い尽くす無数の流れ星に変わった。星の最後を飾るような、声もだせない美しい光景だった――』


 空を覆い尽くすような――流れ星?


 パネルの破片が大気圏内で燃えて無数の流れ星に姿を変えたんだ。


『その空の煌きが終わりを告げた時に広がったのが、俊と見上げた懐かしい光景。青い空だったの。それと陽の光を注いでくれる二つの中性子星。互いの引力に引かれ合い、輝きながら回り続けるの。

 ――奇跡らしいわ』

 

 奇跡――


 いや、奇跡なんかじゃない!

 僕とマニがつながったから起こせた……奇跡だ。

「ああ、やっぱり奇跡だ。僕とマニがつながったことから、全てが奇跡なんだ!」

 夢じゃなく、奇跡だった。


 ――僕が信じたのは、夢なんかじゃなく――奇跡を信じていたんだ!


『ソーラーパネルを全て失ったから、それに頼りきっていた私達は混乱した。でも、毎日、光輝く中性子星が昇ると、生きていれば何とかできると確信できたの。エネルギー供給を少しずつ再開するのに半年かかって、やっと義眼が少しだけ充電できたの』


 だから、さっきは少しだけ声が聞こえたのか。

 以前とは違って、充電するエネルギーでも精一杯なんだ。


『うん、そうなの。みんな、空が青いってパニックになっていたわ。だからチャコネガルツ局長に笑いながら教えてあげたの。俊の星は空が青くて、逆に赤い空を見てパニックになっていたって』

「僕は……パニックなんて起こしてないって!」

 ちょっとビックリしただけさ。

 パニックを起こしていたのはマニの方だろと言ってやりたい。

『あの超新星の名前が、おもしろいのよ』

「名前? 恒星って呼んでただろ?」

 その考え方なら、超新星か二連星で問題ないだろう。

 ひょっとすると、惑星ナガツキでもベテルギウスと呼ばれるようになったのかも知れない。

『以前なら二連恒星で決まりだったと思うわ。でもせっかく二連星になったからこれを機に、名前を付けることにしたのよ。――それで、宇宙局長チャコネガルツが決めた名前が――』

 すうっと息を吸う。


『シュンとマニ!』


 ――!


「それって、僕達の……名前?」

『うん。宇宙局長が二つの超新星を見て、それしかないって――。私は恥ずかしいから、シュンだけでいいって言ったんだけど、局長が命名して誰も反対しなかったから決定されたの』


 星に二人の名が……つけられた?


 惑星ナガツキの人達には、これから何年――いや、何百年もその名で呼ばれていくのか?

 地球では呼ばれることのない名前……二連星シュンとマニ……。


『地球でも640年後にはベテルギウスが姿を変えて見えるから、二連星シュンとマニって呼ばれるかもよ~』

「そんなわけないって」

 苦笑してしまう。

 まてよ、もし僕の書いた小説が640年後に読まれたらあり得る! ……それこそが奇跡?


 いや? それは、ありえないか――!


『復興は急ピッチで進んでいるわ。私もナガツキのために宇宙局で研究する仕事を手伝うの。忙しくなるわ』

「ま、また会えるよね。こうして話はできるんだよね」

『うん。でもお互いの星のことを知り過ぎてしまうのは、お互いの星の進化を変えてしまうわ。だから、昔みたいに、ほんの少しだけ話をしましょう』

「え、ああ。そうだな」

 また寝不足で大学受験にも失敗してしまうからなあ。

『それじゃ、またね』

「あー、ちょっと待ってくれ」


 超新星爆発で昼と夜が逆さまになってしまったのだろうか? 

 だったら大事な事を聞いておかなくてはならない!

「そっちは、今、何時?」


 ……遠まわしにマニがお風呂に入る時間が聞きたいんだけどなあ……。


『――野蛮ね。相変わらずで私もすごく嬉しいけど、……内緒よ』


 内緒かあ――。


 仕方ない。24時間寝続けてみるか――。どこかでつながるだろう。

 ……それこそ夢の世界から帰ってこれないかもしれないな。


『もう、本当に野蛮ね。……発射してても知らないぞ!』

「な、な、何をだよ――!」


 顔が赤くなるじゃないか! いやいや、……新しいロケットの話かな? きっとそれだ……。


 聞こうとしたが、マニが右目の辺りを触ると、すう―っと辺りが暗くなってしまった。

『またね』

「マニ!」

 もっと話していたかったのに! ホントにいつもいつも――!


 それでも、また以前のように話せる安心感が温かく胸を包む。


 マニの惑星ナガツキが、滅ぶ直前で救われた。

 今日、熟睡できるのは、一体いつぶりだろうか……。


 泣きながら眠っていた……。


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