大学入試センター試験
平岡俊は夢見る受験生!
あれからマニがどうなったかわからない……。目が覚めたその日は……センター試験当日だった。
大学入試センター試験
そして――朝が来た。1月の第二土曜日……今日は――センター試験当日だったのだ。
昨日の夜からの大寒波で、東京でも早朝から雪が降り積もり、電車、バス、かなり広い範囲で交通麻痺が起こっていた。
試験会場には無事到着できたのだが……試験に集中できるはずがなかった。
「俺は全部できたぜ!」
意気揚々と告げる博也は、マークシートを全部塗りつぶせたのと、試験がよくできた意味を取り違えているだけだろう。めでたい奴だ。
たが、僕は、実際に塗りつぶせなかった問題まであった……。
散々な出来だった――。
試験二日目が終わり、沈黙の夕食――。
親父が口を開いたのは、肉じゃがを食べるためではなかった……。
「私立になんか行かせる余裕はないからな。大学が無理なら、あきらめて就職しろよ」
大声を上げて怒っているわけでもなかった。本心なんだ。
「何度も言わなくても分かってる――」
今はただ……、親の言うことは、うるさいだけだった――。
「――俊! 大学は絶対に行って卒業しなきゃ駄目! ――お父さんみたいになるわよ!」
その一言で、――親父の表情が急変した。
「なんだと――! もう一回言ってみろ!」
「何回でも言うわ――! あなたの稼ぎが少ないから私がパートに行かないといけないんでしょ!
俊には必ず大学に行ってもらって、惨めな思いをさせたくないのよ!」
「――俺が惨めだと!」
テーブルを思いっきり叩いて立ち上がると、――親父は無言でリビングから出て行った。
母もそれから何も言わず、夕飯を食べ終わると、食器を流し台に乱暴に突っ込み、片付けもせずにリビングを出て行った。
一人テーブルに残り、無言で御飯を食べる……。
何の味もしない。ただ、食べるだけの行為を繰り返す。
大学受験――そんなもの……家族が喧嘩をしてまでしなくちゃいけない重要なことなのか?
マニとはその日以来――つながらなかった……。
義眼を外されてしまったのか――?
義眼が充電できないのか――?
考えれば考えるほど悪いことしか思い浮かばない。
惑星ナガツキは、予定では長い冬に入ってしまう。
マニとつながらないと、何も分からない。何も手につかない――!
「マニー!」
何度名前を叫んだだろう。
あの日以来……母は僕の部屋に入ってきたりはしなかった――。
「じゃあ志望校変えないの?」
「ああ、うちは経済的に余裕がないから、私立なんて無理なんだ」
寝不足と絶望。
センター試験の結果が分かった翌日、塾を上がる階段が肉体的にも、精神的にも……キツかった――。
「お前、一人っ子だろ。どこでもいいから行かしてもらえばいいじゃないか」
センター試験の結果が僕よりよかった博也からは、なんか……余裕を感じて腹立たしい。
「全国の一人っ子を敵に回すようなこと、言うなよ」
一人っ子になりたくてなった子なんていないっつーの。
「うちの親父は住宅ローンは払えても、子供の学費や遠くでの生活費なんて払えないのさ――」
「……大丈夫かよ。D評価だろ」
「死ぬ気で勉強するさ」
マニ達の命がけに比べれば……受験戦争なんて――。
命がけの戦争なんかじゃないのさ――。
センター試験は散々だったが、この日、いいことがあった。
いつもの時間に、やっとマニとつながったのだ。




