一口に「国語辞典」と言いましても
私達の普段の生活の中で、小説を読む時、小説を書く時、勉強する時など、国語辞典を使う機会はしばしばあると思います。そういった場合に、皆さんはどんな国語辞典を使っていらっしゃるでしょうか。また、なぜその辞典を選んだのでしょうか。
一口に「国語辞典」と言っても、出版社や編者の異なる様々な辞典があります。それらは当然、全く同じというわけではありません。それぞれの違いを理解した上で、お気に入りの辞典をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。でも、どれも似たような物だと、あまり意識していない方も多いのではないかと思います。
このエッセイでは、簡単にではありますが、主な国語辞典の特徴をまとめてみたいと思います。
なお、ここで取り上げるのは紙媒体の国語辞典についてのみで、インターネット上の辞典や百科事典、類語辞典などについては触れません。
・収録語数による分類
国語辞典は収録されている見出し語の数によって、おおまかに三種類に分けられます。
まず、語数が十万以下の「小型辞典」。この中には『岩波国語辞典』(岩波書店)、『三省堂国語辞典』(三省堂)、『明鏡国語辞典』(大修館書店)、『新明解国語辞典』(三省堂)などが含まれます。
次に、二十~二十五万語程度の「中型辞典」には、『広辞苑』(岩波書店)、『大辞林』(三省堂)、『日本語大辞典』(講談社)、『大辞泉』(小学館)などがあります。
そして、約五十万語の『日本国語大辞典』(小学館)のみが「大型辞典」と呼ばれています。
学生の時には、大体一人一冊は小型辞典を持って使っていましたよね。少し重いですが、持ち運びも比較的簡単です。一番馴染み深い辞典かと思います。
中型辞典は小型辞典と比べて語数が倍以上に増え、百科項目がより充実したものになっています。見た目にもかなり大きく、重量もあります。書籍版の中型辞典を所有している人はあまりいないかもしれません。電子辞書に入っていたりしますね。
意外と知らない人も多い大型辞典、『日本国語大辞典』の第二版は全十三巻あります。一冊では収まりません。見出し語の数は中型辞典の倍ほどで、方言なども多く掲載されています。
単純に収録語数で言えば、大型辞典が最も多く、小型辞典が最も少なくなっていますので、小型辞典で見つからない言葉であっても、中型辞典や大型辞典を調べたら見つかるかもしれません。
・語源主義と現代語主義
一つの語が複数の意味を持つのは珍しいことではありません。そういった場合にどんな順番で語釈を載せるかによって、国語辞典は二種類に分けられます。「語源主義」と「現代語主義」です。
語源主義とは、語源や言葉の成り立ちを重視し、語源により近い古い語義から掲載しています。それに対して現代語主義は、現代において一般的に使われている語義を最初に掲載する方法を取っています。
語源主義の辞典としては、大型の『日本国語大辞典』、中型の『広辞苑』などがあります。これらは古語も多く掲載しています。
現代語主義の辞典には、中型の『大辞林』、『大辞泉』などがあります。小型辞典の多くも最近はどちらかというと現代語主義の傾向があるようです。
言葉の成り立ちや語源を大切にしたいという方には語源主義の辞典がおすすめですし、実際にどう使われているかの方が大事だという方には現代語主義の辞典が合っているでしょう。
・その他、各辞典の特徴
『三省堂国語辞典』は新語を積極的に取り入れています。二〇一四年に発行された最新の第七版には、「ゆるキャラ」「ニーハイ」「ブラック企業」「スマホ」といった、最近よく使われている言葉も多数追加されました。
『岩波国語辞典』はすっきりと簡潔な語釈が特徴で、「この辞典を開いて読む時、偶数ページのある側を言う」とした「右」という語の語釈が有名です。かっこいいですね。
大型の『日本国語大辞典』には、方言や専門用語も多く収録されています。また、用例も豊富で、しかもそれらの用例は、その語(あるいは意味・用法)が使われている最も古い文献から取られています。もっと古い用例を見つけたという場合も無いわけではないようですが、いつ頃から使われている言葉なのか、おおよその目安になります。
独特な語釈で有名な『新明解国語辞典』は、しばしばメディアに取り上げられたりもする人気の辞典です。過去には『新解さんの謎』という本も出版されてベストセラーになりました。調べるだけでなく、読んで楽しい辞典だと思います。
よく話題になるのは「恋愛」の語釈で、特に第三版の「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒にいたい、できるなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・ (まれにかなえられて歓喜する)状態」というのはちょっとびっくりしますよね。第五版以降は少し表現が抑えられているようです。
また、個性的な語釈に注目が集まりがちですが、アクセントが載っているのも特徴です。
『明鏡国語辞典』は文法的な説明が詳しいという特徴があります。また、第二版には別冊で『明鏡 問題なことば索引』が付いており、「誤用索引」「敬語索引」「気になることば索引」の三つがまとまって一覧になっています。
個人的に今注目しているのは、二〇一六年十一月に発行されたばかりの『現代国語例解辞典』(小学館)の第五版です。国立国語研究所の日本語コーパスを活用して改訂しているそうで、コロケーション欄まであるとか。コロケーションって、ちょっとマニアックじゃありませんか。気になります。
最後に、どの国語辞典が良いとか悪いとか言うつもりはありません。国語辞典には個性があること、それぞれどんな特徴があるのかということを知って、必要に応じて使い分けたりするのが良いのだろうと思います。
ここで紹介したのはごく一部です。もし興味をお持ちの方がいらっしゃったら、Wikipediaの「国語辞典」のページに一覧表もありますし、国語辞典の選び方に関する書籍も出版されているようですので、そういった物も参考にされてみてはいかがでしょうか。
【主な参考文献】
Wikipedia内「国語辞典」ページ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E8%BE%9E%E5%85%B8)
沖森卓也(2009)「日本の国語辞典」(『中国21』愛知大学現代中国学会)(http://ci.nii.ac.jp/naid/120005821894)
勝田耕起(2004)「現代国語辞典の特色」(『総合人間科学 : 東亜大学総合人間・文化学部紀要』東亜大学)(http://ci.nii.ac.jp/naid/110006389936)
その他、各出版社の公式サイトも参考にしました。