表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底使ちゃん(山小屋編)  作者: 平カレル
2/3

底使ちゃん(山小屋編)02

「私は、底使ちゃん」

底使ちゃんは土間に立ったまま、部屋の中心でうずくまっている男に言った。

「そう」

男は短く答えた。

底使ちゃんは前置きもなく首を小さく傾けて口を開いて訊いた。

「あなた、一人?」

その言葉を聞いた瞬間男はびくりと体を大きく揺らした。

底使ちゃんはずっと答えを待つように傾けた首をそのままにじっと男を見た。

男は一度下を向いて、決心するように顔を上げて答えた。

「ちょっと前まで一緒にいた奴がいた。ここに来る途中で置いてきたけど」

「それはどうして?」

底使ちゃんは続けて抑揚なく尋ねた。

「足を怪我して歩けなくなったんだ」

「そう、かわいそうにね」

底使ちゃんは本当はそう思っていないような口ぶりで言った。

「そういうときは置いていくんだ。山のルールなんだよ」

男は言った。

そのルールは底使ちゃんは知らなかった。

だけれど、山でなくても他人を置いていく人は多いように思った。

だからそれは山のルールと言わなくてもいいような気がした。

男はまた頭を膝の間に押し込んでガタガタと震えている。

「怖いの?」

底使ちゃんが訊いた。

その声でまた頭を上げた男の顔は、困ったような怯えているような顔だった。

震えている自分を見て、寒いのか、ではなく怖いのかと聞かれたのか。

男はそう考え、底使ちゃんにはすべてを見透されているように思ったのだ。

実際に底使ちゃんはそこまで見通すことはできない。

それができたら底使ちゃんは底使ちゃんをしていない。

男は観念したように口を開いた。

いや、実際のところ一人では耐えられたなかっただろう。

雪山で遭難した際に、やっていけないことはずっと自分だけで考えるということだと男は知っていた。

考える、ということは本当に体力を使うのだ。それこそ、死に至るほどに。

「素敵な服ね」

底使ちゃんが言った。自分の黒い外套を一度揺らした。

「これだとスカートがめくれるの」

「恋人が選んでくれたんだ」

「そう」

「今、俺が置いてきた男の、恋人がね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ