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Chapter_Last 君と夢見た明日

 視覚、味覚、聴覚、触覚、嗅覚、これらは五感と呼ばれている。それを越える第六感は直感などの説明の難しい感覚、インスピレーションや勘、はたまた霊感を示すのが一般的だ。

 一部の者、幻想の大陸では人間を凌駕した能力を第六感と呼ぶ。

 そして第七感セヴンスセンス、七つの力を操る者のこと。幻想の大陸ではそれが一般論である。

 しかし外の世界にも第七感や第八感なるものも存在している、心の奥に繋がり世界と繋がると言われているが良くは分からない、聞いた話では第七感は世界の記憶と繋がることが出来ると聞かされた。

 世界は誕生から崩壊までの過去、現在、未来を全て“記憶”しているらしい。第七感はそこへ接続して世界を見透すとのことだ。

 本当かは分からない、諸説あるからもしかしたら間違っている可能性も捨てきれない。七の次、なんてものは途方もなく理解は出来なかった。

 調べれば調べる程にセヴンスセンスとはなんだったのかと考えている、罪滅ぼしのように自分の手の届く範囲で調べて、そして本を閉じた。

 気だるい。

 気分転換に空を見上げた。

 雲一つ無い空がそこに広がるが青一色でつまらない。

「護お兄ちゃん、何してるの?」

「……空見てる」

「それだけ?」

「……寝そべってる」

 不思議そうに覗き込む少女がいた。お兄ちゃんと言われたが、別に兄妹では無い。こいつと俺の関係は従兄妹だ。親父には妹さんがいて、その人の娘だ。名前は皆川真(みながわまこと)、長い髪、眼鏡を掛けていて中々の美人だ。

 確かもうすぐ高校生だったっけ。

「暇人だね。せっかく私の家に遊びに来たんだから話をしよ? 護お兄ちゃん世界中を旅したんでしょ? その話が聞きたいな」

「……面倒臭い」

「はぁ。何があったか知らないけど、いつもつまらなそうにして。……ま、いいや。話したくないなら」

 と言って部屋を出て行ってしまった。怒らせたかな?

 ここは従兄妹の家、俺はここに遊びに来ていた。二階建ての家で二階にあるベランダの窓を開け放ちそのまま床に寝そべっていた。

「……あれからもう一年か」

 幻想の大陸で俺が体験した数々の戦い、その中で大切な人を失った。金色の長くて綺麗な髪を持った彼女、清楚で優しくて可愛い彼女だった。

「エリス……」

 また思い出す、あの日々を。柔らかな笑顔、お日様の匂い、何もかも全てを。

 エリスが再生を行った後、目覚めると目の前に居たのはエレオスだった。そこで全てを聞いたんだ。

 エリスが豹変したのは演技だった事を。

『エリスはな、私を嫌いになって離れていって欲しかったと言っていた。そうしたら、君が悲しまないだろうからと。君が戻った時、本当は駆け出して抱き締めたかったと言っていた。でもダメだった、もしそうしてしまったらエリスは再生を行えない。未練が残ってしまうから。だからあえて君に酷く接したんだ。それがどんなに辛かったか、君は忘れないで欲しい……神代護』

 エレオスの言葉を思い出しながら俺は自分が恥ずかしくなっていた。エリス、俺はどこまでも馬鹿な男だったよ。エリスの気持ちを分からず、ただ泣き叫ぶガキだ。

 後悔してもエリスは帰ってこない。

 一年前は抜け殻だった、食事もせず、ただただ彼女を思って泣くだけのか弱い存在。今でも抜け殻だが、当時よりはマシになっていると思う。

 そのせいだろうか、何を見ても興味をそそられない。今の様に寝そべって空を一日中眺める毎日だ。剣の鍛練だってやって無い。だから一年前の俺が目の前にいて、戦ったら間違いなく敗北だろう。圧倒的なまでに。

 親父は一度抜け殻になった俺を日本に連れ戻して数ヶ月一緒に暮らした。久し振りの我が家はボロボロで、人が住める状況じゃなかった。だから従兄妹の家に遊びがてらお世話になっている。

 二か月前だったかな、親父は幻想の大陸に向かったんだ。元々親父は民族学者だったからな、その研究の為にまたあの地へ。

「……はぁ、エリス」

「そのエリスさんって方は護さんの大事な人かしら?」

 突然の声に驚き、声の方を見ると部屋の入口に女性が立っていた。栗色のショートの髪、口の下にあるホクロが印象的で美人だ。

 この人が親父の妹、皆川真美(みながわまみ)。旧姓では神代真美だったが結婚して名字を変えている。ま、当たり前の話だったな。

「真美さん」

「護さんが元気が無いのはそのエリスさんが恋しいからですか? 会いたくてしょうがないのでしょ?」

 エリスはもういない。真美さんは知らないから笑って話している。ま、話すつもりも無いし、悪気があって聞いて来たんじゃないから適当に返答するか。

「まぁ……そんなところです」

「ふふっ、若いって良いわね。そうだわ、こんなに良い天気ですもの、お散歩に行って来たら? 一日中寝そべっていたら身体に悪いですよ?」

「……そう、ですよね。じゃ行こうかな」

 せっかく俺を心配してくれているんだ、あまり乗り気では無いが、行く事にする。

 だるい身体を起こし、外へと出て行く。

「護お兄ちゃん出かけるの? 私と(しん)も付いてって良い?」

 真には弟がいる。名前を皆川心(みながわしん)、ほっぺたが真っ赤で可愛らしい男の子だ。確か小学校一年だった気がする。

「別にそこら辺をただ歩くだけだぜ?」

「良いじゃない。ねぇ心?」

「ぼく、みたいテレビがあるぅ。だからまことだけでいけばぁ?」

「そんな! 私、心と遊びたいんだよぉ! ……やっぱり護お兄ちゃん一人で行ってらっしゃい」

 真と心はけっこう年が離れていて、そのせいか弟を溺愛している。俺から見ても心は可愛いと思う程だからな。

 と言うわけで一人で散歩に向かう。

 ああ、面倒臭い。歩くのも。生きている事にも。

 一度は死のうと思った事もあったのだが、ショックが大き過ぎて死のうとする気力も無くなっていた。

「……堕落しちゃったな、俺」

 大切な人を失うってこんなにも辛いのか。本当に死んだのかすら実感出来ないまま、あの時に聞かされた時は本当にカラッポだったな。

 しばらく歩いていると公園を発見した。しめた、ベンチに座ってぼーっとしよう。公園のベンチに腰掛け空を眺める。

 元気良く遊び回る子供が変な目で俺を見ているが気にしない。

「……今日もやる気無しでぼーっとするだけ……か」

 何もかもがどうでもいい。俺はこのまま……。

「やっと見付けた!」

「……へ?」

 突然誰かの声が聞こえて来る。それは女の声だ。

 あれ? 聞き覚えがある様な気が。

「何だらしない顔をしてるのよ、それでもあの勇ましかった“マモ”なの! シャキッとしなさい!」

「え? ……お前は」

 そこにいたのは桜色の髪をツインテールにしている少女、真っ黒なコートを纏い、腰に手を掛けて目の前に立っていた。

「久し振りねマモ」

「ア、アリア!」

 アリア・シャルマンがそこに。

「全く、久し振りに会ったら何て情けない顔をしてるの? 前の方が男前だったわよ? ……それにしても日本ってとても賑やかなところね、小さい島国なのに活気に溢れてるわ」

「……な、何でここにいるんだよ……アリア」

 あの日が蘇る。アリアの泣き顔を思い出す。

 俺のエゴで傷つけたアリアの泣き顔を。だから何て話して良いのか分からなかった。

「それはマモに会いに来たから。でもその前に」

 痛みが走る。アリアの平手打ちが俺の頬に。

 痛い、凄く痛い。

「マモのパパから聞いてるわよ、抜け殻みたいになってるって。エリを失って悲しいのは分かってる、でもね、あなたがそんな風にしているってエリが知ったらどう思うの! エリを本当に好きなのならちゃんと前を見なさい。現実を受け入れなさい……弱い自分から逃げ出さずに戦いなさい。そうじゃないと……大好きだったマモを拒んでまで使命を全うしたエリが可哀相よ! シャキッとしなさい!」

 この言葉が一番痛かったと思う。

 最愛な人を拒み、使命を果たした。そんな彼女を今の俺は辱めてたんだ。

 いつまでもガキの様に泣いて、拗ねて。そんなんじゃエリスがやった事に泥を塗る様なもんだ。

 エリスに俺は大丈夫だと見せなきゃ。

 俺は一人でも大丈夫だと、笑っていられるって。

 エリスに心配させない様に俺が強くならなきゃダメなんだ。

「そうだよな。俺がしっかりして無いとエリスが悲しむよな? ごめんアリア、心配させて。それと……叱ってくれてありがとう。俺はもう大丈夫だ、……大丈夫」

 自分に言い聞かせる様に大丈夫と何度も口ずさむ。

「良し、良い顔になったわ! ……えっと、あたし謝る事があるの、あの時、マモはエリを失う事を恐れていた。だから一人で無茶をした。……あたしがもし同じ立場なら、同じ事をしてたと思う。マモは辛かったのに、それなのにあたしはさよならって言ってしまった、エリを選んだマモを見ていたくなかったから……あたし、嫌らしいね、マモはエリを選んだ事が嫌だったんだよ、だからあんなに酷い事言っちゃった……」

 涙を流しながらアリアは話し続ける。

「マモ、ごめんなさい。辛かったよね? あたし、マモの気持ちを考えないで自分の事ばかりだった……マモが辛かったって知ってたのに……」

「アリア、謝らなければならないのは俺の方だ。俺だって自分の事しか考えてなかったんだ。エリスを無くしたくないって思って周りが見えなくなっていた。だからアリアを傷付けた。何も気がついてやれなかった、アリアの気持ちを踏みにじった……だから謝る、あの日の俺を許して欲しい」

「あたしもごめんなさい。気持ちを分かってあげなきゃいけなかったから……だから、仲直りしたい」

「俺もだよ。済まなかったアリア」

「うん。これであたし達は元通りの友達ね! マモ、これからもそうあり続けて良いかな?」

 当たり前の様に「もちろん」と答えを返した。

 踏みにじってしまった思いを互いが謝る。また、アリアと話が出来る事が嬉しい。

「はい、じゃあ今の話はここまでね! 過去は過去なんだから」

 アリアらしいな。

「さてと、本来の要件を済ませ様かな」

 そうだ、アリアは何でここに来たのかが分かって無かったな。

 一体何をしに来たんだ?

「アリア、お前何で日本にいるんだ?」

「呼びに来たから」

「ん? 呼びに来たって、なんだよ?」

「言葉通りよ。あたしはマモを呼びに来たの。マモ、幻想の大陸に行くわよ!」

「な! 幻想の大陸に?」

「そうよ、あたしは頼まれてここにいるんだから」

「頼まれただと? 誰にだ?」

 まさか親父か? 何か向こうでトラブルでも合ったのか? そう言う事なら行かないとな。まだ親父にも謝って無いんだから。

「頼んで来たのはね……エレなの」

「エレオスがだと? どうして俺を?」

「それは……知らない。分からないけど呼んで欲しいって」

 エレオスが俺を呼んでいる? 何があったんだ。エレオスとはあの戦い以来だ、だから正直会うのが怖い。エリスの意志を守る為に立ちはだかったんだからな。

 自分しか考えてなかった俺が呼ばれるなんて。

「どうするのマモ、やっぱり会うのは嫌?」

「……嫌、行こう。許してもらえるかは分からないが、謝らなきゃ行けない。行くよアリア、幻想の大陸へ」

「うん! なら今から行きましょう!」

「今から? ……随分と急だな、長旅になると思うから食料とか色々調達しなきゃと思ってるんだが」

 何せ日本を飛び出て幻想の大陸まで行くのに数年掛かったんだからな。行き道が分かっていても相当長い距離になる。

「そんな必要ないわよ? だって日本には幻想の大陸に繋がる道があるんだから。あたしそこを通って来たのよ?」

「……は?」

 ち、ちょっと待て。て事は何か、何年も苦労してやっと辿り着いたのに、日本に道があっただと? 俺の苦労は何だったんだ。旅の途中、何度も死にかけたんだぞ?

「確かこう言うのって日本のことわざで……灯台下暗しだっけ?」

「ぬあああああああああああ! 貴重な俺の青春を返せーー!」

「ふふっ、マモらしくなって来た」

 酷い、酷過ぎる。

「だからマモ、早く行こう。ここからなら歩いて二時間のところにあるわよ」

「近い! 俺、何百、何千キロ歩いたと思ってるんだーー!」

 久し振りに大声を出したと思う。ありがとうなアリア、少し気が楽になったよ。

 でも、エリスの事は忘れない。嫌、忘れちゃ行けないんだ。

 真美さんに数日出掛ける事を告げ、俺とアリアは幻想の大陸へと向かう事に。向こうに行くのは久し振りだからな、緊張する。

「あ、ここよマモ! 道がある場所!」

「……本当にここなのか?」

 そこは絶壁の崖の上。下一面が森。山の中を進んで来たらこれだ。

「こんな近くにあったのに何で誰も知らなかったんだよ」

「魔法陣を発動させ無いと意味が無いの。ここはちょっと特種、魔法陣が二つあってね、それを同時に発動しないとダメなの」

「……で? 発動させたとして、どこに道は開くんだ?」

 と訊くとニヤリと嫌らしい笑いを浮かべる。

 嫌な予感がする。

「魔法陣を発動させたら後は簡単。飛べば良いのよ!」

「とぶ? とぶ……トブ……飛ぶぅ!?」

「落ちれば良いの! て言うかもう開いてるのよここ。だから……えい!」

 浮遊感が。アリアが俺の背中を押し、真っ逆様に落ちて行く。

「うぎゃああああああああ!」

「じゃああたしも!」

 アリアが飛んだ。

 やばい、やばい。下には森が、このままじゃ落ちる。死ぬ! そう思った時だ、下の空間が歪み、波打っていた。映像が映っているスクリーンが動いて画面を揺らす、そんな感じだ。

 その歪みに飲まれた。空間を飛び越えた先には何もない地平線が目の前に。

「あれ? ここはどこだ?」

「ここは崖の上。ほら後ろを見てよ」

 アリアに言われ後ろを振り向くとさっきよりも数倍高い崖が。下は海、あんなところに落ちなら間違いなく死ぬ。

「ここはね、魔法陣を発動させて飛び降りると向こうの崖の上に出るの。反対も同じ。飛び下りたのに上にいるって面白いでしょ? ちなみにここは幻想の大陸の一番端にある場所よ」

「そうか……じゃない! あんな目に合わせやがって!」

「あれ? マモ、もしかして怖かったの?」

「あ、当たり前だ!」

「あはは、そんなに怒らないでよ。さ、行きましょう。エレがいる聖なる場所はここから目茶苦茶遠いんだから」

「歩くのか?」

「まさか、大丈夫。あたしのアレで行くわ!」

 アレってなんだ? 取りあえずアリアの後について行くと、アレがあった。森林が広がる場所で木の影に隠してあったのは真っ黒なバイクだ。

「なるほど、これで行くんだな」

「そうそう。それじゃ行きましょう」

 アリアがバイクに又借りエンジンを点ける。

 ちょっと待てよ、俺が考えている事が本当なら……。

「何ぼけっととしてるの? 早く後ろに乗ってよ。出発出来ないじゃない」

「あ、ああ」

 後ろに座る。アリアとほとんど密着状態だ、緊張する。

 あ、アリアって凄く良い匂いがするんだな……って、何考えてるんだ。

「マモ、それじゃ落ちゃうわよ? しっかりしがみついて?」

「う! わ、分かった」

 腰に手を回し完全に密着。やばい、女の子にこんなに接近するなんて。

「じゃあ行くよ?」

「あ、ああ……」

 やはりバイクは速いな。こいつ運転上手いし、凸凹の道でも難なく進んでる。

 数時間が過ぎ、いよいよ七の一族が暮らす聖なる場所へとやってこれた。本当に久し振りだ。

「ふぅ、ついたわね。あーー疲れたわ、マモ、肩揉んで」

「後でな」

「意地悪。……やっぱりエレに会うのが怖いの?」

 そうだ。エレオスはエリスの気持ちを一番理解していたんだ、自分の意志を押し付ける俺なんか本当にガキだったんだ。

 俺は……。

「やっと来たか、遅かったな護」

 聖なる場所から親父が歩いて来ていた。親父には迷惑をかけたからな、謝らないと。

「親父、……あ、あの時は本当にごめん。ごめんなさい。俺は……」

「護、それはもう過去の話だ。自分の非を認め、謝罪したならわしはお前に言う事はない。……辛かったな、本当はわしはお前の味方をしてやるべきだったのかもしれない。だが、多くの命を犠牲には出来なかった。父親としてお前を助けてやれなかった事を謝る」

「親父……」

「ま、出来の悪い息子にしたのはわしだからな。出来の悪い、な」

「テメェ、出来が悪いって二回も言いやがったな? クソ親父!」

「親に向かってクソ親父だと? 何て事を言うんだクソ息子! こんなアホの親の顔が見てみたい」

「それはテメェだろうが! 鏡持って来てやろうか!」

 またこうやって言い合えるのも悪くない。親父はやはり偉大だ。

「はいはいそこまで! 喧嘩してないで早く行きましょう。もう見ていて飽きない親子ね」

「そうだな、こんなアホでマヌケな息子は放っておいて行こうか」

「な! ちょっと待て! 俺を置いて行くな!」

 先に進む。一年じゃ町並みは何も変わらないか。白石で出来た綺麗な町並み。でも、これを見るだけでエリスの顔が頭に浮かぶ。しばらく歩くと目の前に神殿が現れる。エリスが暮らしていたあの神殿。

 近付くに連れ、不安が大きくなって行く。エレオスと会ってまともに話せるのか俺は。

「あ! 神殿からエレが出て来たわ!」

 近付いて来る男が一人、金色の長い髪を持つ男。エレオス・アピュエース、無言のまま俺に近付き、目の前で止まった。

 なんて言ったら良いんだ? 俺がやった事は大変な事だ。こいつを倒してまで俺のエゴを貫いたんだ。膠着状態が続く、かと思ったが、緊張を崩したのはエレオスだった。

「相変わらず間抜け顔だな君は。一年経てば少しはマシな顔になるかと思えば、全然変わってない」

「……開口一番がそれかよテメェ、……エレオス、俺……」

「謝らないでくれよ? あの時は自分が正しいと思いぶつかった。例え間違っていたのであっても、それでも君が正しいと思う道だった筈。僕は負けたんだ。だから謝るな。僕を惨めにさせる気か? それにもう過去の話だ。……エリスだって君を恨んでないだろう」

「とにかく仲直りね! 良かった、良かった!」

「アリア、お前が話をまとめるなよ……じゃあこの話は終わりだ。で? 何で俺を呼んだんだエレオス」

「……中に入ろう。話はそれからだ」

 深刻な顔をしてエレオスが神殿へと進んで行く。一体何があったんだ? 分からない。あんなに深刻そうな顔、不安だな。

「あ、マモルさんお久し振りですっ!」

「え? リール! えっと……」

 神殿に入った頃にリールが現れた。リールにも悪い事をしてしまったから。言葉に詰まる。

「マモルさん、わたしは気にしてませんから。……大事な人ならわたしだって同じ事してたかも知れませんし、だから暗い話は終わりましょう」

「あ、ああ。……ありがとうリール……ん?」

 リールが何かを抱いている、白い布に包まれているな。

 あれ? これってまさか。

「リール、まさかそれって」

「はい、わたしとエレオス様の娘です! 名前はアリエルちゃんですっ!」

 腕の中に小さな命。可愛らしい赤ちゃんがスヤスヤと眠っている。金色の髪だ。そこはエレオスに似たんだろうな。

 そうか、エレオスも父親なんだな。

「どうだ君、可愛いだろうアリエルは」

「お前、親馬鹿だろ?」

「む、失敬な。僕は父親だぞ? 可愛がるのは当たり前じゃないか」

 そうだそうだと親父がエレオスに加勢。たく、父親同盟とでも呼んでやろうか。

 でも本当に赤ちゃんは可愛いな、指咥えて眠ってるよ。

「さて、先に進もうか。……神代護、今から君には喜びと悲しみを同時に感じさせてしまうと思う。本当は迷ったんだ、君を呼ぶべきかどうかを」

「喜びと悲しみを同時にだと? なんの事なのか分からないな。ま、今なら大抵の事は大丈夫だと思う。だから、教えてくれ、何故俺を呼んだのかを」

「……分かった。ならついて来い、神代護」

 エレオスの後について行く。何があるのだろうか? 辿り着いた場所を見て俺は驚くしかなかった。だってここは。

「エレオス、ここって……」

「……開けるぞ」

 そして扉は開かれた、中に入りながら見回す。

 その光景が瞳に飛び込んで来た。

 清潔なベッドに眠る、金色の長い髪を持った少女。

 俺が愛した少女がそこに。

「え? ……まさ、か、まさか!」

 直ぐに駆け寄る。静かな寝息をたてる少女。見間違えないか? 本当に目の前にいるのか? 指で少女の頬を突っ突く。軟らかい、本当に、本当に君は……。

「エリス……」

 ベッドに眠っていたのは俺が愛した大切な存在。

 エウカリス・アピュエースがここに。

 でも、エリスは自分の命を引き換えに世界を救った筈なのに。どうしてここに?

 嫌、考えるのは後だ。エリスが生きている、生きているんだ!

「エリス! エリス!」

 肩を揺すって起こそうとする。眠っているところ悪いのだけど、でも、どうしてもエリスを起こしたかった。

 本当に生きているのか確かめたかったから。

「う……」

「エリス! 起きたのか!」

「あうぅ?」

 エリスの瞼が開き、俺を見詰める。

 良かった、生きていたんだ、エリス!

「エリス、良かった、生きていたんだな、エリ……」

「あぁうぅ!」

 突然衝撃が走る。エリスが俺を両手で突き飛ばし、直ぐに起き上がってエレオスの後ろに隠れた。がたがたと震えながら俺を睨んでいる。

 エリス?

「ど、どうしたんだよエリス、俺だよ、護だ」

「あうぅ……」

 まだ震えている。近付こうと一歩足を踏み出すとエリスは涙目になり更に震える。

 どうなっているんだ、様子がおかしい。

「エレオス、エリスはどうしてしまったんだよ、それに……どうして生きているんだ」

「……エリスを発見したのは君が大陸を出て行って三日後だった。僕はちょうど秘密の場所にいたんだ。エリスを亡くして一人で泣こうとエリスの最後の場所へ。泣いた、ずっと泣いていたんだ。泣き疲れて気晴らしにそこらを歩いていた時だ、森の中で見つけた、エリスを。服も身体もボロボロで直ぐに連れて帰り介抱したんだ……」

 そう言ってエリスを見詰める。

「あう?」

「……目覚めたエリスは……無くしていたんだ。全て」

「無くしていた?」

「エリスはセヴンスセンスの力と記憶を無くしていたんだ、言葉を忘れる程の。もしかしたら記憶を無くしたでは無く、記憶そのものが消失したかもしれない。再生はあれだけの力だ、頭の中が全てゼロに成ったかもしれない。……これは推測だが、あの時、セヴンスセンスの再生を使った時、命の変わりに記憶と能力を失って助かったんだと思う」

 能力と記憶を失っただって? それじゃ俺の事を忘れてしまったのか?

「あうぅ、あうあう!」

「ん? どうしたんだいエリス」

「あうぅ」

「……そうか、どうやら君が怖いらしい。“初めて会った”者に心を開かないんだ。これでもマシに成った方なんだ、目覚めて僕を見た時なんか腕に噛み付かれたんだ」

 そんな、生きているのなら、エリスはようやく幸せに成れると思ったのに。巫女のしがらみが無い、普通の女の子として生きて行ける筈だと思えたのに。

 それに……エリス、本当に俺を覚えて無いのか?

「嘘だろエリス? 俺が分からないのか? 俺だよ、神代護、護なんだ」

「あぁうぅ」

 言葉も忘れたのか? 涙ぐむ瞳は真っ直ぐに俺を睨み、怯えている。そんな、そんな。

「エリス、俺を思い出してくれ!」

 そう言いながら近付く。すると顔を恐怖に染め、泣き出した。

「あうぅ! あう、あうううん! あうううん!」

「エリ、ス……」

「……やはり呼ぶべきでは無かったかも知れないな。ショックが大きいだろう? だからずっと悩んでいたんだ。もしかしたら君を見たら何か思い出すかもと思ったのだが……済まない、護」

 子供の様に泣きじゃくるエリス。俺を覚えていないなんて。

 なんだよそれ、エリスは世界の為にどれだけ大変な思いをしてきたか。

 世界の為に短い命を精一杯生きたのに。

 神様は酷い。どこまでエリスに酷い事をすれば気が済むんだよ、エリスが何か悪い事をしたのかよ。ちくしょう、何でこうなってしまったんだ。

 ちくしょう……。

「済まない、やはり……」

「嫌、呼んでくれてありがとうな。とにかく、エリスが生きている事は喜ばしい事だ。……ごめんなエリス、怖がらせたな?」

「あううっ、あう、あう……ぐすっ、あうぅ」

 ずっとエレオスの後ろに隠れて俺を拒んでいた。多分、これ以上ここにいたらエリスを怖がらせるな。

 そのまま部屋を出た。すると廊下にはアリアが待っていた。

「お前も知っていたんだな、エリスが生きていた事」

「うん。あたしは半年前に知ったわ。……マモ、大丈夫?」

「大丈夫だ、大丈夫。エリスは生きていた、俺が知っているエリスじゃ無いけど……エリスは生きていたんだ、それだけは喜ぶ事だ。アリア、悪いけど一人になってもいいかな?」

「う、うん」

 一人外へ。親父とすれ違ったが、一言も喋る事無く俺は外へ。

 親父も知っていたんだろう、気を使ってくれたんだな。

 当ても無くただ歩く。エリスを思いながら。どうしてエリスばかりがこんな目に。生きていた事は本当に嬉しいのに、なのにこんなのって無いよ。

「……エリス」

 気がつくと視界に映ったのは川だった。ここはエリスと別れる前の日に遊んだ川だ。ここにいるとあの時を思い出す。

「もう、俺の前で笑ってくれないのかよ」

 喜びと悲しみ、か。確かにエレオスの言う通りだったな。

 嬉しいのに、悲しい。俺はどうしたら良いんだよ。

「暗い顔をしているな、サムライの息子」

 唐突だったからビクッと身体が驚く。後ろから話しかけられた。そこにいたのはエリスとエレオスの父親、プセバデス・シシスだ。

「プセバデス」

「久しいな、我とお前が会うのはあの宿以来だな」

「……あの時は本当に済まないと思ってる、答えを言わないまま俺は一人勝手に」

「確かにお前は自分勝手だが、過去の事だ。それをいつまで言っても始まらないからな……咎める気は無い」

 少し心が軽くなった。まったく、俺って奴は情けない男だ。

 でも、プセバデスは何故俺を止めようとしなかったのだろうか。

「プセバデス、一つ訊いて良いか? 何で俺を止めなかったんだ? 極端に言えば俺は世界を滅ぼそうとしたんだ、それなのに」

「……我は言った筈だ、お前を咎める気は無いと。あの時、本当はお前にエウカリスを任せても良いと思った。我はエウカリスに父親らしい事を今まで一度もしてあげられなかった、だからお前が助け出せたならこの世界が滅び様とエウカリスを生かしたかった。幸せになって欲しかったからだ。我は最後の最後にエウカリスの父親としてお前の邪魔をしない様にした」

 父親としてか。でもプセバデスはエリスの為にヴァンクールに入り込んでエリスを危険にしない様に頑張って来たんだ。それ自体が父親として来た事だと思う。

「サムライの息子、神代護、我が思うにエウカリスは再生を行う最後まで死にたくないと強く願っていたのでは無いだろうか。その願いを神が受け入れ、命の変わりに記憶と力を失わせたのではないかと考えている」

 そうかもしれないな。でも、エリスが生きている事は嬉しいのに、嬉しいのに。エリスは俺を覚えて無い。

「エウカリスは子供に戻ってしまった様なものだ。……辛いだろうな、お前とエウカリスは愛し合っていたからな。あまり落ち込むな……と言っても無理かもしれないが」

「……プセバデスは辛くないのか?」

「我だって辛い。だが、現実を受け止めなくてはならない。……辛くない訳ないだろう」

 馬鹿な事を訊いてしまったな。辛くない訳無いだろうに。

 プセバデスは旅に出ていた筈なのだが、エリスが生きていると知り、戻って来たそうだ。

「何があろうとエウカリスを守ると決めた、あのような姿に成ろうとな。どんな姿でもエウカリスは我の娘なんだ……神代護、お前はエウカリスとどう歩む? それを考えておくんだ。共に歩むのか、それとも……」

 背を向けプセバデスは歩きだし、そのまま森の中に溶ける様に消えて行く。エリスとどう歩むか、か。俺はずっとエリスの側に居たい。だけど。

「エリスは俺を覚えて無い……」

 その場に座り川を眺める。魚の動きをただ目で追う、ただぼうっと見つめるだけだった。気がつけば夜になっていた、エリスを思いながらずっと動かずにこの川を眺めるばかりだ。

「……もう夜か」

 夜空を見上げる。不意にある事を思い出す。それは俺がフォルティスの修行を受けていた時の事、夜中に聞こえて来る歌声。エリスが夜風に吹かれながら歌を歌っていたんだ。

 あの夜二人きりで話をしたな。フォルティスのところでの二か月は本当に楽しかった。修行は辛かったけど、エリスが側にいてくれるだけでそんな事は些細な事になったんだ。

 あの優しい日々はもう無いのかな?

 視界がグニャリと歪んで行く。目に溜る涙が歪ませる。

「ぐっ……エリス、エリスゥ……」

 生きていて嬉しかったのに。

 また笑顔を見れると思っていたのに。

 ――この世界は残酷だ。

「俺はなんて無力なんだ……」

 頬を伝い落ちて行くものはそのまま地面に。地面に涙が吸い込まれた瞬間、後ろに誰かいる事に気がつく。

 振り向くと金色の長い髪を靡かせた少女、エリスが立っていた。

「……エリス、どうしてここに?」

「あうぅ?」

 首をかしげ、不思議そうに俺を見ている。そこにはエリス一人だけしかいない。エレオスがエリスを一人にするとは考えられない。もしかしたら神殿を抜け出して来たのか?

「あうぅ? あう!」

 俺が立ち上がるとビクリとして後ろに下がる。

 そっか、怖いんだな俺の事が。傷つける気は無いんだけどな、分かってくれないかな。

「エリス、こんなところに一人で来たら危ないぞ?」

「あう?」

「エレオスが心配してるぞきっと、だから……だから……あれ?」

 涙が止まらない。何度も拭いても、拭いても。

 なんだよ、俺ってこんなに泣き虫だったっけ?

 また腕で拭き取るが止まらない。止まらないんだ。

「ぐっ、うう、くっ……」

「あぁうぅ? あう……」

 エリスが一歩踏み出す。

 一歩から二歩、二歩から三歩とゆっくりと、しかし確実に近付いて来る。そうして手を伸ばせば触れられる距離に。

「あうぅ」

 顔を覗き込む、不思議そうに。そして彼女の右手が動き俺の頬に触れた。

 指で涙を拭い、右手はそのまま俺の頭を撫で始める。

「あーーう、あうぅ」

「……慰めてくれるのか?」

「あう!」

 よしよしと子供をあやす様に手が動く。「泣いたらダメですよ」と、エリスが言っている様だった。

 そのまま彼女を抱き締める、力一杯。

「あうぅ、あうあう」

「ありがとうエリス、慰めてくれてありがとう……エリス、俺はとんでもなく馬鹿な奴だった。エリスの気持ちを理解してやれなかったんだから。でもやっぱりお前が好きなんだよ、忘れてても良い、だから……もう一度ここから始めよう、俺はエリスを愛している、エリスと共にあり続けたい、ずっと……」

 ようやく答えが出たのかもしれない。忘れてても良い、忘れたのなら新しい記憶を。

 今から作って行けば良い、エリスとの明日を。

 君と夢見た明日を。

「エリス、これから始めよう。……俺の名前は神代護、護って呼んでくれ」

「あう? あうぅ」

「護だ、まもる」

 何度も名前を教える。もう一度俺の名を呼んでくれる事を願って。

 何度も、何度も……。

 エリスは困った顔をしながら俺の名前を聞いている。

「あーーうぅ……あうう、あうっ、あうあう……あうう、あ、うう、うゎうる、……あうっ……あう、るぅ、うぁるう、うぁもぉうぅ……まぁ、もぉ、るぅ……」

「エリ、ス、今、俺の名前を」

「まぁ、もぉ、るぅぅ……まもるぅ、まもる、まもる! あうっ! まもる! まもるぅ!」

 満開の笑顔を実らせ、彼女が俺の名前を。

 愛しくて、嬉しくて、彼女をまた抱き締める。

「エリス、エリス!」

「まもるぅぅ! みゃもるぅーー! まもるぅ!」

 今から始めよう、彼女との明日を。

 今からゆっくりと始めよう。もう、遮るものは無いのだから。


 



 

 

 二か月の時が過ぎた。


 エリスの側を離れずにずっと一緒に過ごして来た。もう俺を怖がる事は無い。逆にずっと俺の後ろを付いて来る程に好かれたと思う。

 記憶を取り戻したかは分からない。でも、今のエリスだって、前のエリスと変わらなく好きだ。

「あうぅ、まもるぅ!」

「ん、どうしたんだエリス?」

「えへへ、まもるぅ!」

 最近になって色んな言葉を話せる様になった、ごはんとかあそぼうとか少しずつ言葉を覚えていく。

 晴天の空、ここは聖なる場所の中央にある大きな広場だ、短い草で敷き詰められた地面は、寝転ぶと気持ちがいい。

 エリスは寝転んでいる俺の髪を触ったり、引っ張ったりして遊んでいる。

「あうぅ、うーー、まもるぅ、あう!」

「痛て! エリス、優しく触ってくれ、痛いよ」

「あうぅ」

「マモ!」

 遠くから声が。この声はアリアだ、あいつは自分の仕事を頑張っているそうだ。中々忙しくて会うのは二か月ぶり。

「着てたのか、久し振りだな」

「うん、久し振りね。エリも久し振り! 元気だった?」

「あう!」

 笑顔でエリスは答えた。多分、元気! と言ったんだと思う。エリスはアリアやエレオスなど、毎日会っている奴なら怖がらないが、やっぱりまだ人見知りで初めて会う奴は怖がってしまう。

「エリ、何して遊んでいるの?」

「あうっ、あうあう!」

「ふふっ、マモの髪で遊んでるんだ、じゃあたしも!」

「じゃってなんだじゃって! 俺の髪は玩具じゃないぞ! たく……あそうだ、今日だよなみんな来るの」

 実は今日、フォルティスやイデア達みんなが久し振りにここに集まる事になっているんだ。

 本当に久し振りなんだよな、みんなが集まるって。

 遠くから誰かがやって来る、それは親父とリリーだった。仲良く手を繋いでいるよ。実は親父はリリーを養子にしてしまった。だから親子になってリリーは俺の妹と言う訳だ。

「護、いつまで遊んでるんだ? みんな集まるのだから料理や酒の準備だ、せっかく集まるんだ、話だけじゃつまらんだろう」

「お兄ちゃん、おさぼりはメッ! だよ!」

「分かったよリリー。ふぅ、リリーには適わないな」

 親父は毎日楽しそうだ。剣の鍛練、第七の一族の調査、俺そっちのけでリリーと遊ぶ。ま、幸せそうだから良いか。

「あたしも手伝ってあげるわ、マモ、行きましょう」

「あうぅーー」

「あはは、もちろんエリもね」

「あうっ!」

 こうして料理やら何やらであっと言う間にみんなが集まった。

 懐かしい顔触ればかりだ。

 広場に机を並べ、その上に料理がセンスよく置かれている。それを中心にみんなでワイワイ騒いでいた。

「久し振りだなマモル、俺様を忘れては無いだろうな?」

「忘れてませんよフォルティス師匠。リヴァーレとエルマも元気そうだな」

「私達は君のおかげで楽しく暮らして行けている。感謝しているよ神代護くん」

 そう言ってリヴァーレとフォルティスが顔を見合わせて笑い合う。フォルティスは少し膨れたお腹をさすりながら笑っている。

 そう、フォルティスのお腹の中に新たな命が。

 もちろん父親はリヴァーレだ。

「正義の味方さん、エルマに新しい家族が増えるんだよ!」

「それは良かったな……なぁエルマ、やっぱり正義の味方さんを止めない?」

「えっへへ、絶対に嫌だ!」

 滅多に変な事を言うもんじゃない、後々後悔するから。ああ、恥ずかしい。

 フォルティス達と一緒にイデア達が暮らしていると聞いている。イデアとカーラにサージュだ。仲良くやってるのかな。

「イデア達と仲良く暮らしてますか師匠」

「ああ。イデア師匠は良くエルマを可愛がってくれる。カーラは未だに師匠と結婚したくていつもべったりだ。師匠も困り果てている。後はサージュだな、あいつな、どうやらエルマに惚れているらしい。いつもエルマを顔を赤くしながら見ているよ」

「私は認めないからな、エルマは私が守る!」

 さすがは妹命のリヴァーレだ。こりゃあサージュは大変だろうな。

「お兄ちゃん、何を認めないの?」

「エルマは知らなくていいんだよ? ほら、これ美味しいぞ?」

「そう? ……わぁ、美味しい!」

 笑顔がここに咲き誇る。

 噂の三人は向こうの席で騒いでいた。あれ、サージュがずっとこっちを観察してるな。あ、なるほど、エルマを見ているのか。

 イデアは料理を楽しんでいるのだが、横にはカーラが。本当にべったりだな。

「イデア様ぁ、あたいが食べさせてあげるよ。さぁ、あ~んしておくれ!」

「ううっ、カーラ、儂はな……」

「あ~ん、イデア様!」

 はは、大変だなイデア。

「フォルティス師匠、賑やかって言うより騒がしいんじゃ無いんですか?」

「ん? まぁな、うるさいぞ毎日……でもな、貴様らに会うまで俺様はあの森で一人だったんだ。だから今が溜らなく嬉しい。俺様は一人じゃ無いと思える。赤ちゃんだっている、俺様は幸せだよ。そうだろリヴァーレ」

「ああ。私も幸せだ。君とエルマが笑っていられる、それだけで幸せだ」

 本当に幸せなんだな。良かった、幸せそうで。

 しばらくフォルティスと話していたら俺に目掛けてハイハイしてくる赤ちゃんが。こいつはアリエル、エレオスとリールの子供だ。

「マモルさん料理の手伝いありがとうございましたっ」

 そう言いながらリールがアリエルを抱っこする。もう立派な母親だな。

「あうっ!」

 エリスがアリエルのほっぺたを指で優しくツンツン。可愛いみたいでいつもツンツンしている。微笑ましい光景だ。

「マモ、これ美味しいわね」

「アリア、それ俺が作った奴だ。旨いのか?」

「うんうん、美味しいわ!」

 俺の隣りでアリアが美味しそうに料理を堪能していた。

「……マモ、エリと幸せになるのよ」

「ん? アリア、今何か言ったか?」

「別に。それより……明日何でしょ出発は」

「ああ、明日だ。俺は明日……」

 今のエリスと暮らし始めて二か月。その中で俺はある考えが頭からはなれなかった。

 それは旅に出る事だ、エリスと一緒の旅に。

 ファントムとの戦いの時に俺はエリスに言ったんだ。戦いが終わったら外の世界へ行かないかと。エリスは行きたいと言っていた、笑顔で。あの時言っていた事は本当だと思う。

 約束をしたんだ、だからエリスと旅に出ようと思う。

 俺が生まれた場所を見て欲しい。あの時のエリスは見たいと言っていたから。

 それが終わったら世界中を回って冒険だ。

「寂しくなるな、マモとエリが居なくなるなんて」

「生きているならまた会える。時々は帰って来る、だから永遠の別れじゃないさ……な、そうだろエリス」

「あう? あうあう!」

「エレオスとプセバデスも賛成してくれたからな。俺にエリスを任せるって」

「そっか。きっと辛い事もあると思うけど、マモ、エリを放しちゃダメなんだからね? あたしの為にもエリと……幸せになりなさい」

「……ありがとう、アリア」

 桜色の髪が風で靡いている。アリアには本当に助けられて来た。傷つけた時もあったが、今では良い友人だ。

 ここにいるみんなだってそうだ。良い友人達だ。

 明日旅立つ、エリスと。

「そろそろ俺明日の準備をするよ。また後で来るから料理残しとけよ?」

「あたしがみんな食べちゃうから無理!」

「……太るぞ?」

「馬ーー鹿!」

 歩き出すとエリスが付いて来た、四六時中ずっと一緒だ。

 一生懸命付いて来る姿が可愛らしい。

「あうう、みゃもるぅ!」

「まもるだろ?」

「あう、まもるぅ!」

 ただ、トイレの中まで来るのはちょっと困るけど。

 神殿へと向かいエリスの部屋に入る。今ここで寝泊まりしている。エリスがまったく離れないからここになった訳だが、俺的にはいつもいられるから嬉しいけど。

 荷物をまとめる。着替えや当分の食料、寝袋を。

「あれ? 俺のパンツが一枚無いな。えっと……げ!」

 エリスが俺のパンツを握り締めてブンブン回して遊んでいた。

「あうあう!」

「ちょ、ダメだそれは!」

「あう! あうっ……」

 けっこういたずら好きなんだよな。前も大変だったな。風呂に入って体を拭かず、服を着ずに飛び出して俺の前にってのがあったな。そのまま抱き付かれた時はどうにかなりそうなほど動揺したんだよ。

 大変だけど、それでもエリスが好きだから苦にはならない。

 俺がずっと支える。ずっとな。

「……良し、これで終わりだ。後は明日を待つだけだ。エリス、みんなのところに戻ろうか? ……エリス?」

「あうぅ……」

「眠そうだな。エリス、寝て良いよ」

 そう言うとエリスは胡座を組んでいた太股に頭を乗せて直ぐに眠りにつく。スヤスヤと安らかな寝顔をしながら。

「……お休みエリス」

 とそこへエレオスが部屋に入って来た。エリスが寝ている事を知るとそっと歩く。

「やはり可愛いな、エリスは……どうだ、荷物はまとめたのか?」

「ああ、バッチリだ。後は明日を待つだけだ……エレオス、本当にエリスと一緒に行っても良いのか?」

「これはエリス自らが望んでいる事だ。……七の巫女の時は自由も無くただ閉じこもるだけの毎日だった。だがもうそんなしがらみは無い、エリスが望む事を叶えてあげるだけだ」

 そうだ、しがらみはもう無いんだ。エリスは自由なんだ。眠るエリスを二人で眺めた。

 もう放さない。放したくない。ずっと一緒にいる、絶対だ。

「神代護、エリスをよろしく頼む。これからは君が守ってあげてくれ。だがもしエリスを泣かせる様な事があったなら、僕は容赦無く君を叩き潰す。それだけは覚えていてくれ」

「ああ、分かった。だけど泣かせる気なんて無いからな。エリスと幸せになってやるさ」

「そうか。なら僕は何も言わないよ」

 そう言い残して部屋を出て行く。大切な妹を俺に託してくれたんだ、本当に有り難い。エリスの頭を撫でながら話し掛けた。

「エリス、悲しい目には二度と合せないからな」

「くぅ……あぁうぅーー……」

「寝言か。明日、俺達は……」

 明日、出発を迎えるんだ。エリスと二人だけの旅へ。





 翌日は晴天に恵まれて雲一つ無い青空が世界を覆う。

 いよいよ出発する事に。大きな荷物を俺が背負う。俺とエリスの二人の荷物だ。

「あうぅーー」

「どうしたんだエリス? 俺と旅は嫌なのか?」

「あうっ」

 ブンブンと頭を振る。良かった、エリス自身も俺と旅に行く事に賛成らしい。俺の服の袖をつまむエリス、当分はエレオス達と会えなくなるから心配なのかな。

 取りあえず広場へと行くとそこにはみんなが待っていてくれた。見送りは良いって言ったんだけどな。

「護、身体に気をつけるんだぞ? お嬢ちゃんも元気でな」

「分かってるよ親父。……行って来る」

「行ってらっしゃいマモルお兄ちゃん! エウカリスさま!」

 親父とリリーに見送られる。次はフォルティス達だ。

「マモル、俺様を忘れるなよ? 無事を祈ってやるから有り難く思え! エリス、マモルに守ってもらえよ」

「神代護くん、安全で素敵な旅を祈ってるよ。巫女……じゃないなもう。エウカリスちゃん、元気でな」

「正義の味方さん、エリスさん、また会おうね!」

「行って来るよ」

「あう!」

 次に目が合ったのはイデア達だ。

「幸運な旅を。儂が二人に言えるのはこんな事だけだが良い旅である事を祈っているよ」

「行ってらっしゃい」

「サージュ、あんた言う事それだけかい? たくっ、これだからお子様は」

「うるさいよおばさん」

 いつもの調子の二人だな。喧嘩するほど仲が良いと言うが、この二人はそれに当てはまるだろうか。

「あたいは二十六! たくっ……二人気を付けなよ」

 さてと次は。

「……マモ、エリ」

 アリアだ。こいつには本当に助けられたからな、弱い俺を叱ってくれたんだ。

 またこいつに会える事を楽しみにしているんだ。

「エリを泣かせない事! 分かった?」

「ああ、分かってるって」

「……マモ、また会いましょう。あたし、その日を待ってるからね? 忘れないでよ?」

 忘れるもんか、忘れる筈が無い。

「アリア、また会おう」

「うん! またね。エリもまたね!」

「あうあう!」

 次は誰だ? 三人並んで歩み寄って来る。

 エレオスとリール、それにプセバデスだ。

「マモルさん、エリス、体に気をつけて下さいねっ」

「エウカリス、病気に気をつけるのだぞ? 夜は体を暖かくするんだ」

「あうっ!」

「サムライの息子、神代護、エウカリスをどうか頼む」

「ああ、分かってる」

 やっぱりプセバデスは父親だな。エリスの事を心配している。リールもありがとう。そして見送りの最後はあいつだ。

「君の様な頼りない男に僕の最愛なるエリスを任せるのは不本意だが、仕方ないか。エリスが君を好きみたいだから」

「へん、羨ましいか?」

「ああ、羨ましい。……神代護、僕の妹を頼むからな。エリス、今まで辛い事ばかりをさせて来た。だから幸せになってくれ」

「あう! あうあう!」

 笑顔でエリスが答えた。その笑顔をみんなの心に残し、俺達は旅立った。





 この空は何処までも、何処までも広がっている。世界全てを覆う青だ。

 空の果てに何があるかは分からない。

 苦しみが待っているかもしれない。

 それでもエリスとなら乗り越えて行ける、そう思うんだ。

 先の分からない道、だからこそ面白いのでは無いだろうか。

 中身が分からないプレゼントみたいだ。

「エリス、これからよろしくな。絶対に守るから、あらゆる事からエリスを守るから」

「あぁうぅ。あうーー!」

 気持ちが通じたのか、エリスは笑顔で答えた。

 言葉はこれから覚えて行けば良い。

 記憶はこれから作って行けば良い。

 彼女は袖をしっかりと握り締めて、一生懸命に付いて来る。

 その姿が可愛らしくて愛しい。

 彼女に出会えて良かった。心の底からそう思える。

 不意に彼女が話し出す。

「あう、みゃもるぅ」

「あはは、また言い間違えてる。どうしたんだエリス?」

 一呼吸おいて彼女が言った。

「まもるぅ、すきぃーー、あうあう、エリス、まもる、すきーー! あぁうぅ!」

「……俺も好きだよ」

 そう言い返すと今までで一番の笑顔を。


 先の見えない明日へ行こう。


 君との明日を描いて行こう。


 目の前に広がる未知なる世界へ……。


 君と夢見た明日へ。






 END

 これは数年前に別サイトで掲載していた作品になります。それに描写の追加などをしたディレクターズカット版的なものになります、掲載当時は人生二番目の小説作品で現在読み直してみると誤字脱字のオンパレードで描写不足もありここで掲載するにあたりやり直した形になります。

 1話などはほぼやり直しました。

 こうしてやり終えましたが誤字脱字はあると思うので見付け次第修正していきます。


 この作品は能力バトルものをやりたいと中二病満載だったと思います、まあ好きなので満足しています。能力は既存するものばかりでオリジナリティがないのが力量不足ですね、しかしこの作品を書いたことで後に書いていく作品に役立ちました。なので思い入れのある作品でした。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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