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Chapter_27 幻想を目指して

『さようなら、ごめんなさい』

 ずっと別れの言葉が繰り返されている、頭の中に響いて底無しの沼をもがくような感覚に全てが崩れそうで、あれは幻聴だったのではないのかと自身の記憶を疑う。

 しかし、目の前の開かない道が現実だったと主張していた。

 どうしてさよならなんて言ったんだ? 何を馬鹿な事を。俺はずっとエリスと一緒にいたいと思ってたんだ、ずっと、ずっと……。

「止めろ護!」

 親父に羽交い締めにされ血まみれの拳を止められた。

 何度も何度も壁に向かって殴り続けて、手が真っ赤に染まっている。

「一体どうしたんだ護、訳を話すんだ!」

「……くっ」

 エリスの事を親父に語る、話している間も『さようなら、ごめんなさい』と頭の中でエリスの言葉がまた再生されていた。

「むぅ、何かがおかしいな……血を垂らしても何もないと言う事は向こう側の魔方陣を壊したんだろう。もしそうならばこの通路は二度と使えない」

 二度と使えない? つまり、二度とエリスに会えないって言うのかよ!

「そんな……エリスにもう会えないのか? い、嫌だ! 俺はそんなの嫌だ!」

「落ち着くんだ、とにかくここにいても何もならない。ここから出るぞ、いいな?」

 俺は力なく頷く。ここにいても向こうへの扉は開かないと分かっている。

 何が起きているんだよ、エリス、どうしてこんな事を。

「確かこの近くに村があった筈だ……護、気をしっかり持て、わしだって本当は動揺している、だが動揺しているだけでは何も始まらないぞ」

 確かにそうかもしれない。気をしっかり持て、もしかしたらもう一度向こうへの扉を開く方法があるかもしれない。

 もう一度幻想の大陸に行ってエリスに会うんだ、何であんな事をしたのかを訊くんだ。

「あ、ああ、そうだな、とにかく村にだな親父」

「ああ、行くぞ」

 洞窟を抜けた先に外の風景が飛び込んで来る。そこは岩だらけの山の頂上、草木は一本も無い、向こうの世界は緑あふれる森の中だったな。

「ここも久し振りだ……さ、行くぞ護」

「ああ」

 岩山を降りて行く、道は険しく急いで降りても一時間は掛かるが何とか降りた。岩や小石だらけの灰色の道、周囲にも岩山が連なる。この道を真っ直ぐ行くと村が見えて来た、よし、これからどうするのかを考えないと。

「取りあえずここの人に幻想の大陸への道が他にないか訊いてみるか。護、二手に分かれて訊きに行くぞ? その方が効率がいい」

「ああ、分かった、確かここ宿があったよな? 訊き終えたらそこに集合な? じゃあ行くぞ親父」

 こうして別れて聞き込みを開始する。

 色んな人に聞き込みをして回る。前もそうだった、幻想の大陸へと続く入口に一番近い村と聞いてここに来たんだ。前回と同様に訊いて周り、遂にあの洞窟を教えて貰らえた。

 だから今度は別の道が無いかを訊き出す、そしてもう一度エリスに会うんだ。

 数時間が経過して行く中、あそこの洞窟以外に幻想の大陸へと繋がる道は無いと様々な人に言われ。

「あの洞窟以外は存在せん!」

「別の道? 聞いた事無いわ」

「さぁ、本当にもう一つの道何てあるのかい?」

 こんな答えばかりだ。一通り訊き終わり、宿を目指す事にした、こうなったら親父が頼りにするしかない、何か良い情報を得ているかもしれない。

 急いで宿を目指す。木造の建物が視界に入る、あれが宿だ。そこに行くと、もう親父が戻って来ていた。

「護! どうだったんだ?」

「駄目だ、誰に訊いても知らないと言うばかりだ……親父はどうだった?」

「……すまん、こっちも同じだ」

 これだけ訊いて回ったのに情報が無いだと? 本当にあの洞窟しか道はないのか? もうエリスに会えないのかよ、そんな……。

『さようなら、ごめんなさい』

 くそ、ふざけるなよ。まだだ、まだ何か見落としているんだ、きっと向こうに行く道がある筈だ。

 あきらめてたまるか。

「村人が知らないなら、探しに行こう親父! どっかにあるかもしれない」

「……そうだな、まだ発見されて無い場所があるかもしれんな……ん?」

 親父は何かを聞き取ったらしい、それは俺にも聞こえて来る。

 それは声、何やら激しく言い合っている。どうやらどこかで誰かが喧嘩している様だ。

「なんだ一体?」

「分からんが、行ってみるか護」

 声の方へと行ってみると、おっさんと女の子が何やら言い合いをしている姿を目撃した。

「駄目だ! この金額じゃないと無理だ!」

「はぁ? ふざけんじゃ無いわよ! こんな安物に大金出せって言うの? あたしを舐めて無い、おじさん!」

 あれ? この声に聞き覚えがあるぞ? あの威勢の良さ、可愛らしい声。姿を見る、桜色の長い髪のツインテールに真っ黒なコート、間違ない、あいつは……。

「アリア!」

「……へ? マ、マモ?」

 俺の声に気付き、振り替える桜色のツインテール。

 そこにいたのは幻想の大陸で出会った仲間、アリア・シャルマンがいた。

「な、なんでここにアリアが?」

「それはあたしのセリフよ! だって……」

「小娘! 人の話を聞いてるのか! おい! 聞い……」

「ああもう! うるさいわね!」

 アリアはおっさんの顔面に拳をくれてやる。するとおっさんはそのまま後ろに倒れて気絶。

 間違ない、男勝りなところ、こいつは正真正銘アリアだ。

「どうしてこんなところにいるのよ! マモは聖なる場所に居たんじゃないの? 外に出て来るなんて」

「それには事情があるんだが、その前になんでお前が俺の世界にいるんだよ! 扉は閉じて開かなくなったのに」

「へ? 開かないですって? だってあたしは……おっと、その前にここを離れるわよマモ、人がいっぱい集まって来ちゃった」

 今気がついた、周りにたくさん人がいる。アリアがおっさんを打ちのめしたせいだな。こんなところじゃ落ち着いて話は出来ないな。

「移動するか、……って、どこに行く?」

「宿に行くわよマモ、あたし今そこに泊まってるから、そこでゆっくりと話しましょう」

 俺達は宿へと場所を変える事にした。

 でも、本当になんでこんなところにアリアがいるんだよ?




 アリアが泊まっている宿まで来ると、彼女の部屋に入る。ようやく落ち着いて話が出来るな。

「アリア、取りあえず何でこんなところにいるのか話してくれ」

「あたしは仕事で来ただけよ? 外の世界にある品物を買い取って、向こうで少し高めに売るの。それが利益になるんだけど、さっきのおじさんが商品に信じられない高額で押しつけて来ようとしたからね、だから喧嘩になったの」

 なるほど、仕事か。宿に泊まっているって事は、向こうへの道が閉じる前に来って事なのか?

「それでマモ達は何でここに? まさか……もう自分の家に帰っちゃうの? もうこっちに来ないの!?」

 ずいっと俺に顔を寄せて来るアリア、心配そうにしている。

「……とにかく話を聞いてくれ、何でここにいるのか」

 今までの事をアリアに打ち明ける、エリスの謎の行動、開かなくなった向こうへの道などを。

「……え? エリがそんな事を? ……それに扉が開かないですって? 信じられない」

「信じられないのは俺もだ。なんでこうなっちまったのか。とにかく向こうに行きたい、……でも扉が開かないんだ」

 他の扉があるのかも分からない。くそ、何か手は無いのか?

「……マモ、あんたさ、“どこの扉を使ったの?”」

「どこの扉だと? 山の頂上にある奴だけど……どこってまさか」

「ふぅん、山の頂上は駄目になったんだ、なら“湖の扉”はどうかな?」

「湖の扉だと? ほ、他にも入口があるのか!」

「ええ、そうだけど」

 つまり、まだ幻想の大陸に行ける可能性があるって事か!

 またエリスに会える。

「ア、アリア! 今すぐそこに連れて行ってくれ! 頼む!」

 アリアの両肩を両腕で掴んで懇願する。あれ? アリアの顔が赤いのは気のせいか?

「マ、マモが願うなら連れて行くけど……」

「ありがとうアリア! お前に会えて本当に良かった!」

「あうっ……そ、そう?」

 更に顔を真っ赤にさせているが、どうしたんだ? 風邪でも引いたか?

「どうしたんだ? お前、顔が赤いぞ?」

「ひゃう! な、なんでもないわよ! 馬鹿!」

「はぁ、馬鹿息子め……鈍感だな」

 訳が分からないが、とにかくもう一つの扉に行かないと。俺達は湖の扉を直ぐに目指す事になった。道程は山道とは違い平坦でとても歩きやすかった。

 しばらく歩くと、今まで緑一つ無かった道に、ちらほらと緑が見えて来る。湖が近いのだろう、歩く度に灰色の道に植物が生い茂っていく。

「見えて来たわ、あれが湖よ」

「うわ! でけぇ!」

 草木を分けた場所に湖があった。それはとても広く、向こう側に陸が見えない。

 本当に湖なのかよ、まるで海みたいだ。

「で? どうやって扉を開くんだ?」

「簡単よ、実はね、この湖事態が巨大な魔方陣の形になってるのよ。で、向こうに小さな魔方陣があるからそこに血を垂らすの、そうしたら開くわ」

「なら早く行こうぜ! どこだよその小さな魔方陣は?」

「ちょっと先よ、湖にそって歩けば直ぐに分かるわよ」

 俺は駆け出していた。エリスに早く会いたくて我慢出来ないからだ。しばらく進むと、草むらに隠れていた魔方陣を見つける、これに血を垂らすのか。

「走らないでよマモ! あたし達を置いて行くなんて」

「わ、悪い。でも俺は……」

「一刻も早くエリに会いたかったんでしょ? 全く仕方ないわね。さ、扉を開きましょう」

 そう言うと、親父が血を垂らす。すると魔方陣が輝き、目の前の湖に小さな光の穴が開く。これが扉か。

「この光に飛び込むの、光から外れたら湖にドボンよ、気をつけて」

「そんなへまするかよ。行くぞ、待ってろエリス!」

 俺達は湖の光に飛び込んで行く。

 光を通り抜けて行く、真っ赤な色で落ち着かないが、今はそんな些細な事はどうでもいい。光が終わると川から飛び出て目の前に地面が迫った。ぶつかりそうだったがなんとか着地に成功する。

「おわ! 危ねぇ!」

「よっと! へぇ、始めてこっちの扉を抜けて転ばなかったのは凄いわね」

「て事はアリア、お前転んだな最初?」

「う、うるさいわね! ほら、さっさと行くわよ! ここからなら第七の一族の聖なる場所に近いんだから……ま、最近気がついたんだけど」

 とにかく急ぐ事にした。

 周りは木だらけでどうやら森の中みたいだ、アリアを先頭に走った。待っていろエリス、訊きたい事があるがそんな事よりただエリスに会いたい。

 その思いが通じたのか目の前の光景に驚いた、進む道の向こう側に見慣れた顔を確認出来たからだ。前に人が三人いた、その中に彼女がいたんだ。

 そう、エリスだ。

「エ、エリス!」

「……え?」

 あり得ないものを目撃したと言わんばかりの表情をするエリスだったがすぐに普通の顔に戻った。

 後の二人も驚いていた。その二人とはエレオスとリールだ。

「……まさか別の道を知っていたとは。どうするんだいエリス?」

 エレオスがエリスに何やら訊いているが、そんなことはどうでもいいんだ、エリスに会えただけでも嬉しい。

 直ぐに俺は彼女に駆け寄る。

「エリス、何であんな事をしたんだよ?」

 彼女は答えない。

「最後に言った事は一体どう言う意味だったんだ? さようならだなんて……さ」

 彼女は口を閉ざしたまま。

「何があったかは知らないけど、俺、今凄く嬉しいんだ。またエリスに会えたんだから」

 彼女は視線を合わせてくれない。

「黙ってたら分からないだろ? 何か言ってくれないか、エリス……」

 彼女の肩に手を置く。

 だが、弾かれた。

 痛い。彼女の肩に置いた手が痛い。彼女の手が俺の手を拒絶した。

 そして彼女が口を開く。

「…………しい」

「え? 今何て言ったんだ、エリス?」

 彼女が紡いだ言葉は……。

「汚らわしい。私に気安く触れるな。高々剣が強いだけの戦士の分際で、私、七の巫女に触れるとはなんと罪な男か。近寄るな、下郎」

 ……え? エリス?

「エリス? な、何を言って……」

 もう一度彼女に手を伸ばす、何かの間違いだと夢見て。だが、現実は冷たい感情を突き付ける。

 彼女が後ろに身を引いて、差し延べた手を躱す。

「一度ならず二度も私に触れようとは。なんておぞましい、お兄様、この男を排除して下さい、見ているだけで怒りを覚えます」

「何言ってるんだよエリス! どうしちまったんだ! なんで! どうし……」

 視界が廻転する、凄い衝撃と共に。最初何が起きてのか分からなかったが飛ばされる最中視界に写ったのはエレオスが俺を殴り飛ばした姿だった。

「がぁ!」

 地面に叩き付けられたがすぐに立て直し、エリスを凝視する。

 そこにはエレオスが俺を見下す。

「七の巫女に触れるとは蛮族め、叩き潰してやる」

 エレオスが背中に担いでいた大剣アタンシオンを手に装備し、切っ先をこちらに向けて来た。

「待てエレオス君、一体どうしてしまったと言うのだ? わしらは仲間ではなかったのか?」

「僕に蛮族の仲間などいない」

「な、何言ってるのよエレ! あたし達はヴァンクールに挑んだ仲間でしょう! なんでこんな事を……それにエリ! あんた今何を言ったのか分かってるの! あんたが好きなマモに何て言った!」

「うるさい。この下郎を私が好きだと? それは有り得ない。汚らしい戦士に私は心を許した事など一度もない。……まさか川の扉を閉じに来たら不愉快な事に合うとは、これならお兄様に任せておけば良かった、そうしたなら不快な目には合わなかったのに」

 扉を閉じに来た? じ、じゃあ、本気で俺を来させない様にしたのか?

「エリス、冗談なんだろ? ちょっと質が悪いけど……そんなの気にしない。エリス、俺……」

「私を見るな。ただでさえ視界に入るのもイラだだしいのに更に私の名を口にするとは。同じ空気を吸っているのかと思うだけで吐き気がする」

 気が遠くなる感覚、俺はこのまま倒れそうになってしまう。

 無理矢理足に喝を入れ、何とか留まる。

「何があったんだよエリス、こんなのエリスらしくないよ……いつもの優しいエリスに戻ってくれよ!」

「哀れな人、私を求めるのは勝手。だけど求められる度に私には悪寒しか無い。ああ、もう限界だ……あなたはここで……死になさい」

 光の粒ががフワリと宙に舞う。一粒だけではなく無数で数は分からない。光の粒子がエリスの身体を漂い、一点に凝縮した。

 光の槍がエリスの目の前に現れた。

「嘘……だよな?」

「下郎、これでお別れ。せめてもの情けを掛けてやろう。たった一瞬で肉体から魂を解放させる。さ、逝きなさい」

 光の槍が俺を睨む。

「光の粒子よ、この下郎に神罰を。死になさい」

「嘘だ、エリス!」

「いかん! 逃げろ護! 護! くっ、駄目か!」

 視界が暗くなる。親父が俺を抱いて走り去る。小さくなって行くエリスの姿。アリアが後ろから付いて来ている。

「は、放してくれ親父! エリスが、エリスが!」

「分からないのか! あのままではお前が死んでた! お嬢ちゃんは本気だ!」

「そんな馬鹿な……」

 とその時、光の槍が飛んで来る。それは雨、数えきれない槍が降って来る。

 それを親父とアリアが避けていた。

「そんな、エリスが本当に攻撃して来るなんて……嘘だ、あいつはこんな事する奴じゃ……」

 何も考えられない。エリスは、エリスは……。

 光が襲う空を見詰めて、思考が空白となった。




 光からどうにか逃げられた。ここはどこかは分からない森の中、親父は俺を下ろし、休息を取り始める。

 全身に力が入らない。心が空になって、何も考えたくない。

「マモ、大丈夫?」

 アリアの声に返答する気力がない。エリスは何であんな事を? まるで別人の様だった。

『死になさい』

 くっ、エリスのあの言葉が頭からはなれない。

『死になさい』

 やめろ、やめてくれ。

『死になさい』

 その言葉を繰り返さないでくれ。俺の中にあるエリスのイメージが崩れてしまう。

「マモ……」

「……エリス、何で……なんだよ」

 世界が変わってしまった。

 この先、俺はどうしたらいい? エリスの顔が頭からはなれない。ああなる前の、可愛らしく笑うエリスの顔。

 どうしてこんな事に……。


 

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