Chapter_25 二つの月
ヴァンクールとの決戦から一週間、俺達は七の一族が住む聖なる場所で過ごしていた。
あの後、外で戦ってくれていたアリアの父親達は多少怪我をしていたが全員無事、ヴァンクールの兵達に総帥が死んだと言ってやると、戦意喪失し、その場で泣き崩れた。
ヴァンクールが崩壊した瞬間だった。
助け出したイデアはどうしているのかと言うと元の老人となっていて、何と今までの事を全く覚えていないらしい。まあ操られていただけだし、イデアをこれ以上責めなくてもいいと俺は思う。
そんなことを覚醒した意識の中で思い、部屋に差し込む光が朝日が上ったことを教えている、そろそろベッドから起きるか。
「ふぁ、良く寝たな」
真っ白なベッドから起きると、物凄く広い部屋の真ん中にいた。広過ぎる、何でも巫女様を助けていただいた恩人、もてなさねばと一族の皆がそう言ってこの場所に泊めてもらったけど、何だか落ち着かないな。
白を基準とした部屋の壁には草で編んだ円形の編み物が飾られている、これは幸運が訪れることを願うものらしく七の一族のおまじないらしい。つまりここは幸運を願う部屋、最大級のもてなしの部屋ということになる。
まあ好意を無駄にするのも罰当たりだし、落ち着かないがこの部屋に泊まっている訳だ。
「ま、これは我慢だな」
「マモ! 起きてる?」
部屋の外からアリアの声が聞こえる、あいつ早起きだな。
「起きてるぜ? どうしたんだ?」
扉まで歩いて開けてやると桜色のツインテールがそこにいた。
「一緒にエリに会いに行こうと思って誘ってるのよ? ここ数日会ってないじゃない?」
そう、あれからエリスとほとんど会えなくなっていた。エリスは第七の一族に数百年に一度生まれると言われている巫女だ、危険が及ばない様に、外にあまり出られない様になっている。
悲しいな、一族の言う事も分かるがせっかく助けたのにこれじゃエリスが可哀相だ。
「会いに行くって、どうやって? 番人が建物の入口を守っていて入れないんだぞ?」
「馬鹿ね、正面から行ったらダメよ、窓からこっそりと侵入! と言う訳で行こう!」
腕を掴まれて無理矢理引っ張られて行く。しょうがない奴だな、でも俺もエリスに会いたい。まぁいいか、どうせ暇なんだし。
外に出ると白石で出来た建物が目に飛び込んで来る。この建物は秘密の場所とそっくりだ、確か秘密の場所が最初に作られたって聞いたから、それを真似してここを作ったんだな。
「あ! 正義の味方さん!」
いきなり声を掛けられた、その人物は女の子だ、ゆっくりと歩いてこっちに向かって来る。
「お、エルマじゃねぇか、おはよう」
「はい、おはようございます」
リヴァーレの妹、エルマ・グローリアが目の前に現れた。しっかりと俺達を“見て”こっちに歩いて来た。エルマは盲目だった筈なのに何故見える様になったのか、それはエリスのおかげだ。
セヴンスセンスの治癒は、見えなくなった目すらも回復させてしまったんだ。もう一度世界を見る事が出来たエルマは笑いながら泣いていた。リヴァーレ何か号泣だ、一生エリスに使えるとまで言い出した時にはフォルティスが驚いていたっけ。
「正義の味方さん、これから何処に行くんですか?」
「ちょっとあの丘にある神殿までな、エリスに会えるかもしれないから……ところでさ、その正義の味方さんって言うの止めない?」
「嫌だもん! 助けてくれた時、自分で言ったでしょう? だから正義の味方さんです!」
今更ながら、何て恥ずかしい事を言っちまったんだ、顔が熱い。
「エルマ! こんなところにいたのか」
「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
リヴァーレとフォルティスが前から歩いて来た。エルマはとたとたと、ゆっくりな走りで二人に近付いて行く。
「エルマ、今朝は早かったな? いなくなってたから私は心配したんだよ? 何処に行っていたんだ?」
「お散歩だよ! ……あ、訊きたい事があったんだ、お姉ちゃんに」
「俺様に? 何だエルマ?」
「えっとね、昨日の夜、どうして二人で同じお布団で寝てたの? エルマ別の部屋だったから知らなかったけど、朝お兄ちゃんの部屋を見たら二人で寝てたの見たよ? もう、エルマも一緒に寝たかったのに」
この場が凍り付いた。リヴァーレとフォルティスが顔を真っ赤にさせて固まっている。アリアも真っ赤になるし、ついでに俺まで。
そっか、エルマはそう言う事を知らないんだ。
「ねぇ、どうしてエルマを呼んでくれなかったの? 一緒に寝たかったのに!」
「えっと……その……何て言おうかリヴァーレ」
「え! 私に言えと言うのか!」
面白い、この二人顔真っ赤にして困ってるよ。
「マモル! 何だその顔は! 今すぐやめないと…………」
また先を言わない。でも怖くないな、顔真っ赤にして言われても。
「ねぇお兄ちゃん! 今夜はエルマもね? 良いでしょ?」
「わぁ、3Pだ!」
アリアがアホな事を言ったので頭を叩いてやった。この馬鹿たれ。
焦っている二人には悪いが、俺達にも用事がある、と言う訳でここから離れる事にした。
「もう行くの? せっかく面白そうな展開だったのに」
「エリスに会いに行くんだろ? なら、早く行くぞ」
「ふーーん、マモは本当にエリにぞっこんラブだね!」
もう一度アリアの頭を叩いてからこの場を後にした。
そう言えば、アリアの父親はどうしたんだ?
「アリア、親父さんはどうしてるんだ?」
「ああ、昨日仕事を再開する為に家に戻ったわ」
「そっか……アリアは戻らなくて良いのか?」
「何よ、あたしがここにいたら嫌みたいな言い方じゃない」
おっと、アリアを怒らせてしまったらしい。取りあえず謝り、何とか許してもらったが本当に何で行かなかったんだろう?
「……はぁ、鈍感男め」
「今何か言ったか?」
「何でもないわよ!」
「……何でまだ怒ってるんだよ」
とにかく進む事にする。七の一族達が釣りに行ったり、薪を拾いに行ったりと、平和な光景がそこにあった。その風景の中に見知った顔を発見する、あれはサージュ。
あいつは本当に危なかった、死ぬ一歩手前だったらしい。リールが頑張って治療してくれたおかげて今では動けるまで回復していた。
「よう! 何してんだこんなところで」
「え? ああ、マモルとアリア、ボクは影を使って、壊れている建物の修理を手伝ってるんだ……いっぱい迷惑かけたから、これくらいしないとね」
守護四神将だったとしても、こいつはまだ子供だ、本当はあんな事をしたくなかったのかも知れない。
親しく思っていたイデアに言われたんじゃ断れないだろうからな。でも、イデアはファントムが操っていただけだったし、こんな子供を戦場に出すなんて、倒した今でも奴を許せない。
「そっか、頑張れよ」
「うん」
「あはは、サーって可愛いね! 頭なでなでしてあげる!」
アリアがサージュの頭を撫でると、顔を真っ赤にしていた。はは、やっぱり子供だ。
「子供扱いしないでよ、ボクは……あ! イデア様だ!」
向こうから老人が歩いて来る、そう、イデア・グランデだ。あの時の記憶は覚えて無かった、だが話を聞くと信じられない顔をして、落ち込んでしまった。
操られていたとは言え、たくさんの被害を出した、それを悔いて今ではサージュやカーラ達とこの聖なる場所を直す為に働いている。
「マモルくんやアリアちゃんかい、おはよう」
「おはようございます、どうですか調子は?」
目上の人に敬語を使って俺は話しかけた。昔の俺ならタメ口は間違いないだろうな。
「順調だよ、多分一ヶ月以内には全部直る筈だ……迷惑をかけてしまったからね、儂に出来る事をしないと」
「そうですね、頑張って下さい、俺も暇な時は手伝いますから」
「ああ、ありがとう」
とそこへ元守護四神将カーラが走ってやって来た。顔を真っ赤にしながら。
「イデア様! あの返事を聞かせておくれよ!」
と言いながらイデアに抱き付く。イデアはあたふたしている。
「カ、カーラか、儂はあの時も言っただろう? 無理だよ」
「何の話?」
アリアがカーラにそう尋ねると、カーラは大声でこう答えた。
「あたい、イデア様に求婚したんだよ!」
「「き、求婚!」」
俺とアリアとサージュは同時に驚いていた。求婚って、結婚してくれって頼む事だろ? まさか、こんな事になるとは。
「儂は老体だ! お前はまだ若い、他の幸せを……」
「嫌! あたいがこの世で愛しているのはイデア様だけ! 愛に年の差なんてちっぽけな事だよ! もしあたいの求婚を望んでくれるなら……この身体はイデア様だけのもの何だよ?」
そう言って、豊満な胸をイデアの胸にくっつける。うわぁ、何て羨ま……じゃない、何て女だ。
「おばさん! イデア様にそんな偽乳で変な事をするな!」
「なんだってサージュ? あたいの胸が偽乳だと言うのかい? ふざけるじゃないよ! これは本物さ!」
そう言いながら上着に手をやるカーラ。ま、まさか、そのまま脱ぐつもりじゃないだろうな? そんな事になったら、ラッキー……じゃない、他の人達にお前、痴女だと思われるぞ。
「だ、だだだダメーー!」
アリアがそう叫んでカーラまで走る。服を脱ぐのを止めるために手を伸ばす。
だが、その手はとんでもない事を掴んでしまった。
「あん! んん、アリア、あたいの胸を掴んで何してるんだい?」
「あ! ごめん。でも、こんなところで脱いだらダメよ! あなたも女何だし、羞恥の心を持って! 他の人に見られちゃうし、マモだって……って言うか凄い弾力、これは本物の胸よ! 間違いないわ!」
「当たり前さ! この胸は自慢だか……ああん! いつまで揉んでるんだい! お返しさ!」
カーラはアリアの胸を鷲掴みする。
「ひゃん! んん……嫌、そんなところ触らない……ああ!」
ずっと見ていたかったが、これ以上は色々と問題になるので二人を引き離した。とにかく、アリアを連れてここから去る。イデア達、これから大変だな。
「マモ、嫌らしく見てたでしょ?」
「み、見てねぇよ」
しばらく歩いていると、アリアが誰かを見つけた様だ。
「あれ? あそこにいるのマモのパパじゃない?」
そう言われ視線を送ると、確かに親父が川の側にいた。最近は七の一族を研究すると毎日夜遅くまで調べていた。多分今日も調べてるんだろうな、ああ見えて民族学者だからな。文武両道、これが親父の好きな言葉だ。
て、あれ? 親父の奴、誰かと一緒だ。それは小さな女の子リリーだ。一族の子で親父を助けた恩人。そう言えば決戦の前、あの子を養子にするだの喚いていたな。
「おじちゃん! 葉っぱの船が出来たよ!」
「よしよし、やっぱり作るのが上手だなリリーは」
遊んでいた、リリーと本当に楽しそうに。
「マモ、話しかけないの?」
「止めとく、どうせ『お前は今日からお兄ちゃんだ!』とか言いそうだからな」
「可愛い子じゃない、妹欲しくないの?」
「……まあ、小さい頃は弟か妹が欲しかったのは事実だ」
「素直じゃないなぁ、本当は嬉しいくせに」
「うるせえ」
「あ、顔赤い」
「うっ、分かった、認めるよ嬉しいよ!」
「ふっふっふ、照れるマモ可愛い」
アリアの奴こことばかりに俺を苛めやがるな、まあ家族が増えるのは嬉しいことだ。
さてと、さっきから邪魔ばかりで中々前に進まない、こうなったら。
「アリア、今から超感覚使うから、そうすれば直ぐにあそこに着く、俺に掴まれ!」
「え? あ……うん」
あれ? 何で顔を赤くしてるんだこいつ。
アリアが戸惑いながら俺に抱き付く。背中に背負う形になった。さて、超感覚を発動。世界が止まった様にゆっくりと流れ、その空間を一気に駆け出す。
あっという間にエリスがいる神殿へとやって来た。
「超感覚解除、ふぅ、少しだけ使っても身体が疲れるな」
「マ、マモ、そろそろ降りていい?」
忘れてた、アリアを下ろしてやると、まだ顔が赤い。
「大丈夫か?」
「へ? あ、ああ、あたしは大丈夫よ! さささぁ、エリに会いに行こう!」
なんて言いながらさっさと行ってしまった。とにかく追いかけないとな。
神殿の正門には番人が二人いて、入れそうにない。前に入ろうとしたら、いくら恩人でも会わせる事は出来ないと言われ、追い返されたんだよな。
なら、最上階の窓から行くしかないな。
「高いな、20メートルくらいあるかもな、何とか上れるのか?」
「うーーん、ちょっと難しそうね?」
「何をしてるんですか、あなた達!」
突然後ろから叫ぶ声が響き、振り向くとそこにいたのは眼鏡をかけた女性リールがいた。
「あれ? なんだ、あなた達だったんですか、また巫女様を狙う悪党かと思いましたよっ」
「リール、あのね、お願いがあるのよ、あたし達エリに会いたいんだけど」
「はい、良いですよっ?」
「「へ?」」
間抜けな声が俺達から出てしまう。だって、今まで門前払いだったんだぜ? なのにどうしてだ?
「実はですね、あそこにいる番人達は頭が固いんです、誰も通すなって言ったら本当に誰も通さないんですっ、私と一緒なら簡単に通れますよ?」
あれ? 今まで無駄な心配していたのか?
「まぁいいや、リール、とにかく頼むぜ」
「分かりましたっ、私に付いて来て下さい」
リールが言った通り、番人が俺達を通してくれた。良かった、これでエリスに会えるんだ。
あれ? そう言えばリールは七の戦士だろ? 誰も通すなって言われていた番人が、どうしてリールを通すんだ?
「なぁリール、何でお前はここを通れるんだ?」
「ああ、その事ですね、実は……」
何かを話出そうとした時だ、神殿の奥から誰かが現れた。そいつは金色の長い髪の持ち主、エレオスだ。
「リール、ん? アリアと君か、何をしに来たんだ?」
「何をしに来ただとシスコン、テメェ分かって言ってるだろ?」
「ふっ、相変わらずか。ま、数日で変わる人間なんてごく僅か、君はいつまでもそのままだな」
こいつとも久し振りだな、たく、憎たらしい事ばかり言いやがる。
「まぁいい、それよりリール、今夜は僕の部屋に来てくれ」
「はい、分かりましたっ」
ちょっと待て、今夜僕の部屋にだと? まさかこの二人はそう言う関係なのか?
「お前らって、付き合ってるのか?」
「君、聞き方が直接過ぎるぞ」
「エレオス様、私が説明しますっ。マモルさん、さっき訊かれましたよね? 何で私がここを通れるのか、実はエレオス様は私の……夫なんですっ」
「「えええええええええーー!」」
アリアと俺は叫んだ。今なんて言った、エレオスがリールの夫!? つ、つまり、こいつら結婚していて、夫婦!
「じ、冗談だろ?」
「君に冗談を言って何の得になる? リールは正真正銘、僕、エレオス・アピュエースの妻だ」
「はい、だから私フルネームがリール・アピュエース何ですっ。つまり、巫女様の義理の姉になるのですっ。家族なのですからここを通れるんですっ」
衝撃の事実だ、まさかこいつ結婚してたなんて。
「それでですね、実はお腹の中に新しい命もあるんですっ」
「それって、あ、赤ちゃん!」
アリアが非常に驚いた顔をしながら叫ぶ。エレオスがもうすぐ父親になるだと?
「エリスはそれ知ってるのかよ」
「ああ、大喜びしていたよ、私に家族が増えますと笑顔でな」
何だろうな、今日は驚く事がいっぱいある日だな、みんな今を生きている、自分の道を見つけて。俺はどうなんだろうか、親父に付いて来ただけ、俺がやりたい事って何だろうな。
分からないけど、その事を考えると必ずエリスの顔が目に浮かぶ。この事自体に答えがあるのだろうか? 多分、あるから思い描くんだ。
「あ! マモ、エリだよ!」
アリアが神殿の奥を指差す、そこを向くといた、エリスがこちらに歩いて来る。心臓が高鳴る、彼女に会える事に喜びを感じて。
「久し振りだな、エリス……え?」
様子がおかしい、ふらふらと歩いて来る、その足がおぼつかなく今にも倒れそう。
どうしたんだと急いで駆け付けた。
「どうした、大丈夫か、エリス!」
反応が無い、どうしてだ、何があったんだ。
「エリス、どうしちまったんだよ、エリス!」
「…………くぅ」
「へ?」
自分でも間抜けだと思う言葉が出た。これって、まさか。
「寝ぼけてる?」
「くぅ」
「エリスはさっきまで寝ていたんだ、朝が弱いから、いつも起きるのが遅いんだ」
とエレオスが説明してくれた。なんだ、寝ぼけているだけかよ。心配して損したぜ。
「エリス、起きろよ、俺だ、護だ」
「くぅ?」
頭を横にかしげて、誰? みたいなジェスチャーをする。ヤバイ、この仕草可愛すぎだ。
「起きろよエリス」
「くぅ」
身体全体を横に振って、子供がイヤイヤとする様に嫌がっている。今の姿、ビデオカメラに映したいくらい可愛い、こんなのを見られるなんて幸せだ。
「中々起きないな、どうしようか」
と言った時だった、エリスの頭が突然ふらふらと揺れ始め、そして勢い良く地面に落下した。ゴンと鈍い音が神殿中に響き、ここにいるみんなの顔が青くなる。
「エリ、物凄い音で倒れたわよ? 大丈夫?」
「大変ですっ、エレオス様!」
「エリス! 何て事だ、無事なら良いが」
みんなでエリスを見詰める。すると、ピクリと動き出す。
「あ、れ? 私……頭が痛いです、何で……あれ! ここ何処ですか! ベッドに寝てたのにです!」
どうやら無事みたいだ、エリスらしい寝起きだな。さてと、やっとおはようが言える。
「エリス、おはよう」
「え? あ! まもる! まもるが目の前にいます! あ、えっと、おはようございます」
ようやく会話が出来た。
「やっと起きたか、なら、僕達は失礼しようか、行こうリール」
「はいエレオス様、それでは失礼しますっ」
そう言うと、エレオスとリールが去って行く。気を利かせてくれたのか? なんか、あいつらしくないな、いつもならエリスに近付くなと言いそうなのに。
「エリ、久し振り」
「アリア! 久し振りです」
「そうね顔が見れて安心よ……そうだ、あたし用事を思い出したわ、また会いましょうエリ!」
アリアがさっさと走りさって行った。なんだよあいつ、用事なんて聞いて無いぞ?
「アリア……無理に気を使わなくて良いのに」
「エリス、何か言ったか?」
「え? ううん、何でもないです。……それより、私のお部屋に来ませんか? まもるといっぱいお話したいです」
俺もエリスと話がしたかったからな、そういう訳でエリスの部屋へ行く事になった、一体どんな部屋なんだろうな?
少し歩いたところに、エリスの部屋があった。中に入ると、そこには何も無い空間が広がっている。
正確には、木で出来たベッドだけで、それ以外何もない。
「ここが……エリスの部屋?」
「はい、本当に何もありませんけど、ベッドに座って下さい」
とにかく座る事にする。座ると、ふかふかで、さっきまでエリスが寝ていた温もりを感じる。何でか知らないが、ここでエリスが寝ていると思うだけで顔が赤くなるな。
エリスが隣りに座る、近い距離、彼女のいい匂いがする。
でも、どうして部屋に何も無いんだ?
「なぁ、どうして部屋に何もないんだ?」
「え? あ、その、ここは寝るだけの場所なんです、そんな事より二人きりなんて久し振りです」
「そうだな、二人きり何ていつ以来だろうな」
それから色んな話で盛り上がる、何気ない話や、この場所で美味しい木の実がある場所、金色に輝く大きな魚の伝説、この場所に関わった話を楽しく聞かせてくれた。
エリスの父親に関する話も出た。プセバデスはエリスの為にヴァンクールに入ったんだ、それなのに自分は多くの仲間達を傷つけたと言って、ここには戻れないと言った。
「そっか、じゃ、プセバデスは旅に出たんだな」
「はい、お父様は私の為に仕方なくだったんですけど、やはり旅立った……でも、悲しくありません、だってお父様は生きてるんです、生きているのなら、また会えます」
そうだよな、生きているのなら、また会えるな。
エリスといると心が落ち着く、温かい気持ちになれる。
「エリス、俺、お前の事が好きだ、この気持ちは今も変わらない」
「まもる……わ、私も好きです。まもるの事、大好きです」
それはごく自然に、当たり前の様に唇が二つ重なり合う。
今が幸福の瞬間だ、時間が止まった様に、唇を重ね続けた。
どれだけ時間がたっただろうか? 唇は離れ、俺達は顔が赤い。
「まもる、これが……キス、なんですね」
「あ、ああ、そうだな」
会話が続かない、恥ずかしさがあって、何を話したら言いのか分からなくなっていた。気がつけば外は真っ黒だった。とにかく会話を続ける為に、会話のネタを探す事にする。
窓まで歩きより、外を眺めた。
「な、なんだありゃ!」
黒く塗り潰された世界に、光るものが合った、それは月。
それだけなら何も驚く事はない、だが二つ、月が二つ浮かんでいるんだ。さすが幻想の大陸、俺の世界とはやっぱり違うんだな。
「エリス見てみろよ、月が出てるぜ? ほら、月が二つも!」
「え?」
エリスがすぐに駆け寄り、空を眺め始める。
エリスは食い入るように月を眺めた。
「エリスも珍しいのか?」
「そ、そうですね、初めて見ました……」
「へえ、珍しい現象なんだな、エリスが見たこと無いって」
「そうですね……」
珍しい月を眺めて二人の時間が過ぎて行った。
「じゃあまた来るからなエリス」
「はい、またお待ちしています」
「あれ、声に力がないぞ?」
「え? あ、えっと……その、まもるとキスしたのがまだ恥ずかしいんです……」
「そ、そっか、そうだよな……あはは」
「あの、また……キス、したいです」
「わ、分かった、またしよう」
とてつもなく恥ずかしい、ちょっと気まずくて足早に部屋を後にした。部屋を出る間際、もう一度エリスを眺めるとあの不思議な月を見詰めている後ろ姿を目撃した。
その姿がとても綺麗だと思った。




