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Chapter_21 好敵手

 あの頃は楽しい思い出ばかりで、思い返す度に心が温かくなる。なぁ、リヴァーレ、覚えているか? 俺様と過ごした日々を、師匠とお前とエルマ、四人で暮らしたあの木の家を。

 いつもお前は俺様の前にいたよな? 手合わせは一度だって勝てなかった。妹を愛し、自然を愛し、そして……俺様を愛してくれた。

 もう一度あの時間に戻れたらどんなに良いだろう。

 どうして、お前と戦わなくてはいけない。何処で狂ってしまったんだ、答えてくれリヴァーレ。

 ヴァンクールのアジトである城のバルコニーにてリヴァーレと対峙する。

「フォルティス、もう手加減はしない……来い」

「リヴァーレ、本気……何だな?」

「ああそうだ、何度も言わせないでくれ。私はお前達を倒す、これは絶対の意志だ」

 固い決意、妹エルマの為に戦うリヴァーレ、俺様はこの大陸とエリスの為に戦う。

 誰かの為にぶつかり合うんだな。

「こちらから行くぞ、フォルティス」

 先に動いたのはリヴァーレだった、右腕を突き出すとその腕は消えた、奴の能力で空間に穴を開け別の場所へと出口を作り出すゲートの力。右腕がすっぽりと消えたと思った瞬間、俺様の腹に激痛が走る、奴は自分の腕を俺様の腹の辺りに出現させて攻撃して来たのだ。

 苦痛が身体を巡る。何て厄介な能力だ。

「リヴァーレ!」

 叫んだのはプセバデスだ、得意の槍の攻撃を仕掛ける。その一突きは速い。俺様は速い動きを見るのは慣れているが、プセバデスの突きは辛うじて見える程度、それ程に槍を極めている。

 リヴァーレへと槍が伸びる、だが槍の先端が空間の亀裂へと消えた、そう、ゲートを使い槍を無力化させた。

「残念だな、自慢の槍はもう使えないだろう」

「くっ、我の槍が……」

「吹き飛べ!」

 突きと蹴り、リヴァーレはまずプセバデスの右肩に拳を捩じり込み、そのコンマ数秒差で蹴りを胸へと叩き込んだ。その勢いでプセバデスは吹き飛び城の外へ。

「お父様!」

 叫ぶエリス、それに反応したのか城の壁の隙間に手を掛け、外へと出ずに済んだ。だが安心はできなかった、更に攻撃する為にプセバデス目掛けリヴァーレは走り出す。

 まずい、止めなくては。

 奴の目の前に出る、だが、瞬時にリヴァーレの姿は消えた。自分の周りにゲートを作り、俺様の真後ろに出口を作った。そして視界がぶれる、衝撃は背中からだ。リヴァーレが背中を蹴り上げた。

 ふわりと空中に浮かぶ身体、隙が出来てしまった。

「奥義、桜花!」

 リヴァーレの奥義が発動、それは花びらの様に緩やかに身体を動かし、全身の気を拳に集め、それを食らわせる。

 このままでは死んでしまうかもしれない、何とかしなくては。拳が目の前に迫り来る、それが途切れる前の記憶。次に気が付いた時は城の壁に埋もれている状態だった。

 斜めになる世界で気持ち悪い。

 そうか、攻撃を食らって一瞬気絶したのか。

 くそ、頭がふらふらするし、吐き気がする。

「うぐ……がは!」

 吐血、相当なダメージを受けてしまった様だ。あいつの能力は無敵なのか? いや、無敵の力なんかあるとは思えない。使う人間が完璧では無いのだから。

 ゲートを開きそこを通り、気が付けば後ろに現れたりする。何かある筈だ、奴の弱点が。

 今までの戦いを脳内で再生させ検証してみる、ゲートを使う時の動作を思い出せ、何か無いのかと思考をフル回転させた。そのお陰かあることに気が付く。思えば能力を発動する時、ゲートを開ける部分に手の平を当てていた。もし仮説が正しいなら、手に当てた部分だけにゲートを開くのでは?

「もう動けなくなったのか? フォルティス」

 目の前にリヴァーレが立っている、一瞬だが奴の顔が悲しそうに見えたのは気のせいだろうか? 奴の指が俺様の頬に触れ、次に手の平で優しく包む。

「……もう止めるんだフォルティス、君では私に勝てない。ただ傷が増えるだけだ。君の綺麗な肌にこれ以上傷を増やしたくは無い」

「リヴァーレ……なら、イデアにくみするのを止めるんだ! いくら恩義があるからってイデアはこの幻想の大陸に脅威を植え付けるだけだ! ……エルマを悲しませたくない、俺様とお前が戦っていると知ったら、あいつは自分を攻める、自分が二人を戦わせたと嘆くんだぞ!」

「そんな事分かってる、だが、私は戦う……私が戦えばエルマは助かる、だから戦う」

 エルマが助かる? 一体どういう意味なんだ?

「一体、どういう意味なんだ、エルマが助かるとはなんだ!」

「……イデア様が約束して下さったんだ、忠誠を誓えばエルマの……目を治して下さると。だから私は負けられない、どれだけ大陸中から憎まれようともエルマの目を治す! フォルティス、エルマの為を思うならもう止めるんだ」

「治るだと? エルマの目が……治る」

 盲目のエルマ、暗闇の中でいつもベッドにいる。そんな彼女に光が戻ったらどんなに良いだろうか、俺様だってエルマに光を戻してやりたい。

 だが少し待て、怪我を治す能力者でも目を治すのは難しい。イデアは本当に治す事が出来るのか?

「リヴァーレ、イデアは本当に治せるのか? 証拠はあるのか?」

「そんな証拠などない。だが、すがるしかない、それしか、すがるものが無い! 私は……」

「もう止めて! お兄ちゃん!」

 声の方を見ると、エルマが窓から顔を出していた。そうか、戦っている間にバルコニーなら屋根の上に移動していた、そしていつの間にかエルマの部屋まで来ていたのか。

「エルマ! ……話を聞いてしまったのか」

「もう止めてよ! 私目なんか戻らなくても良い、だから、だから、お姉ちゃんをいじめないで! お願い止めてよ! お兄ちゃんとお姉ちゃんは仲良しさんだったのに、私……私のせいだ」

 頬を伝って行く涙、顔をくしゃくしゃにしながら泣きじゃくる。リヴァーレと戦ったから、エルマにこんな顔をさせてしまったのか。

 リヴァーレを見ると、戸惑いと後悔の感情が顔を歪ませている。

「……エルマ、私はただお前が幸せになる事が願いだった。その目が治るなら、お前にまたこの世界の色を見せてやれると心震えた。盲目の闇に色を与えられると信じていた……フォルティス、私は間違っていたのか? 私は……どうすれば良い?」

「簡単な答えだ、エルマが泣きやむ選択、それを選べ。エルマの目は俺様が何とかしてやる、治す方法を探してやる」

「私は……」

 次の言葉を待った、あいつはどう答えを出す? 願わくばまたあの日々に戻る事を願う。

 リヴァーレはエルマを見詰める、この涙の向こうに幸せがあるのか? エルマが悲しむ世界が幸せである筈が無い。リヴァーレの顔が険しさが無くなって行く。

 どうやら決めた様だな。

「……済まなかったなエルマ、私が間違っていた様だ」

「お兄ちゃ……あぁ!」

 突然エルマが叫ぶ、ヴァンクールの仮面兵隊がエルマを首を締め、ナイフをかざしていた。

「エルマ!」

「ふははは! まさか守護四神将のあなたが裏切ろうとするとは、総帥を裏切るなんて許さない、さぁ戦え! この女に傷が付いてしまうぞ? ヒヒヒ!」

「貴様ぁ!」

「さぁ、どうする? そこの二人を殺せ! これは総帥直々に私に命令されたのだ! リヴァーレが裏切ろうとしたら可愛い可愛い妹を人質にして人形にしろとな!」

「イデア様がだと?」

 これで分かっただろうリヴァーレ、お前を飼い慣らす為にエルマを利用したんだ。今考えるなら分かる、イデアはエルマを助け、その恩でリヴァーレを動かしていた。もし裏切ろうとしたら保険としてこの状況を用意していたんだ。

 なんて卑劣で卑怯な男なんだ、イデア、もう昔の師匠では無いんだな。

「お、お兄……ちゃん」

「あははは! さぁ戦え! ヴァンクール守護四神将リヴァーレ・グローリア! あははは!」

「くっ、くそ!」

 ギロリと俺様を睨み付けるリヴァーレ、せっかく分かり合えたと思ったのに。

「やめろ!」

 俺様とリヴァーレの間にプセバデスが現れた。槍が無い今、格闘が得意のリヴァーレに素手でやり合うには厳しい。尚且つ、ゲートの能力まで持っている。

「よせ、お前は優しい人間だ! 妹は何とかする、だから止めるんだ!」

「うるさい! プセバデス、お前に何が分かる! エルマは私のたった一人の家族だ! 母はエルマが赤ん坊の頃に死んだ。父に育ててもらったが良い親では無かった! いつも酒を飲み、意味無く殴られた! 身体中痣だらけだった……私だけなら良かったが、エルマまで手に掛ける様になった! だから逃げ出した! それからは私と二人で暮らして来たんだ、大切な家族、その家族が苦しんでいる、そんな姿を見せられて冷静になれるか!」

「リヴァーレ……」

「止めろリヴァーレ! ……ぐっ、身体が」

「無理をするなフォルティス、この男は我が何とかする」

「ふはははは!」

 突然の不快な笑い声がこの空間に響く。それは今まで俺様達を静観していたイデアだった。ニヤリと何とも嫌な笑い。

「茶番劇、面白い……大変だなフォルス、助ける対象が増えて」

「ぐっ、イデア、本当に腐ってしまったな! 何で変わってしまったんだ!」

「変わったか、何度も聞いたぞその言葉。もう飽きた、さぁ、日蝕までもう直ぐだ、さっさと殺し合え! 儂の暇潰しを始めてくれ、退屈させるな!」

 腹が煮えくり返る思いが身体を震わせる、あいつは人間の皮をかぶった悪魔だ、あんな奴に心を許していた自分が恥ずかしい。

「あははは! 総帥の言う通りだ! 早く殺し合え! そうしないと、ほら!」

「ひぐう! お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

「エルマァアアアア!」

 プセバデスとリヴァーレが激突した、激しい殴り合い。やはりリヴァーレは格闘家だ、プセバデスよりも一枚上手だ。

 俺様は何も出来ないのか? 痛みで身体が痺れる、大切な家族か、俺様だってリヴァーレとエルマを家族だと思っていたんだぞ? 家族が苦しんでいるのに俺様は何も出来ないのか!

 自分に腹が立つ。

「悔しそうだなフォルス、全くお前といい、プセバデスといい、儂の邪魔をする奴が多過ぎる。“ここで倒れている少年”と一緒で愚かだ」

「倒れている少年?」

「こいつの事だ」

 イデアはまるでゴミを捨てる様にそれを掴み、放り出した。ドサリと落ちたものを見て、血の気が引く。

「そんな……マモル、マモル!」

 そこに捨てられていたのは、血まみれになった俺様の弟子、神代護がそこにいた。

「中々の暇潰しをこの少年と楽しんでいたよ、ま、少年の方が儂の攻撃に耐えられなかった様だが」

「嘘だ、おい起きろマモル! 俺様の命令だぞ? 起きろ! エリスを助けるんじゃなかったのか!」

 エリスはただ呆然とマモルを見詰めている、信じられないものを見る様に。

「まもる……嘘です、やっと会えたのに、うう、嘘です!」

「ふははははは! 滑稽、滑稽。ふははははは!」

 痛む体を無理して地を這いずりながらエリスはマモルに近付いて行く、そんな中、プセバデスとリヴァーレの戦いは激しさが飛び交う。

 プセバデスが放つ蹴り、だが、リヴァーレに当たる前にすり抜ける。ゲートを身体に開き、そこを蹴りが通過した。だが通過だけではすまなかった、蹴りをした足が無くなっていたのだ。

 実際には切られた訳では無い、ゲートが太股まで飲み込み、別の次元に足が消えてしまったのだ。

「我の足が! く、しまった」

「沈め、プセバデス!」

 瞬時に十発もの攻撃をプセバデスに叩き込んだ。その力が強過ぎて、地面に埋もれ、穴が開き、下へと落ちて行く。落ちる過程で足がゲートから出て、元の身体になっていた。

 等々俺様を標的にしたか、来る、リヴァーレがやって来る。

「リヴァーレ……俺様を殺すのか?」

「……エルマの為だ、許してくれ」

「そうか……なら、仕方ないな……約束してくれないか? 俺様を殺せばあの兵士に隙が出来るかもしれない、だから、エルマを助けられたら、マモル達を助けて欲しい。頼む」

「……約束しよう」

 力がこもって行く拳、この突きが放たれたら、俺様の最後か。

 済まないなみんな、俺様は一足先に逝ってる、大切なみんなの顔が脳裏を掠めてた。

 そして、拳が迫り来る。

 広がる破壊音、リヴァーレの攻撃が壁を壊した。あれ? 痛くない、どうしてだ?

 気が付くと顔の真横にあいつの腕が見える。攻撃が外れたのか? いや、あいつが外すなんて事はしない。

「リヴァーレ?」

「……出来るか、お前を殺す事はなんて出来るか、出来る訳が無い!」

 そうか、こいつは何も変わってはいなかったんだ。エルマの為に変わるしかなかった、非情に徹していたんだ。

「ふざけるなよ! 妹がどうなっても良いのかぁ!」

「止めてくれ! 私を煮るなり焼くなりしてくれ、だからエルマに手を出すな!」

「あははは! 駄目だ! 殺す!」

 兵士がエルマ目掛け、ナイフを仕掛ける。それを止める為リヴァーレが走るが、あの距離では間に合わない。

 くそ、止めろ!

「……超感覚」

 一瞬だった、最初は何が起きたのか分からなかった。

 少ししてようやく理解する、マモルが一瞬で兵士を倒し、エルマを救出していたのだ。何が起きたんだ。

 「え? ……まもる?」

 エリスの戸惑いの声が漏れ、信じられないとの思いがマモルから目を離せない。そう、マモルとエルマとは相当な距離があったのにあいつは瞬時に移動した。

「……あれ? 私は一体?」

「大丈夫か?」

「は、はい。あ、あの……あなたは?」

「護、神代護、そうだな、俺は正義の味方だ!」

 何て速さだ、見えなかったぞ。マモル、見ない内に成長した様だな、少しの間師匠をやっていたが、やはり嬉しい。お前の成長が嬉しくてたまらない。

「エルマ!」

「あ! お兄ちゃん!」

 駆け付けるリヴァーレは力一杯にエルマを抱き締めていた。エルマも涙を流して応えている、嬉しいと。

「済まない、本当に済まない!」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 良かった、リヴァーレは本物に良い笑顔をしている、それはエルマも同じだ。

 俺様は痛む身体をどうにか動かし、壁の束縛を抜けゆっくりと二人に近付いていく。身体が重い、視界がぶれる。そんな俺様に最高の笑顔が二つ、出迎えてくれる。

「リヴァーレ、エルマ」

「お姉ちゃん、どこ? エルマの手を掴んで」

 ギュッと握り締める、ああ、温かい。この温もりをあいつと感じられるなんて。エルマはリヴァーレの手を片方の掴んだ手で俺様の手と重なり合わせる。

「はい、またお兄ちゃんとお姉ちゃんは仲良しさんだよ!」

「フォルティス。私は……」

「何も言うな、気にしていない。この戦いが終わったら、また元通りになるだけだ」

 そうだ、まだ終わってはいないんだ、俺様は睨む、イデアを。もう説得が利かないのなら、せめて俺様達であなたを……。

「そうか、そちら側になるか。全く使い物にならない駒だらけだ。儂自らが粛清しなければならないとはな。良いだろう、ここで皆……地獄へと落としてやる」

 イデア・グランデ、ヴァンクールの総帥にして元、俺様とリヴァーレの師。何処で間違えたのだろう、何処で狂ってしまったんだろう。もう、倒すしかない。

「止めてみせる、俺様達が必ず!」

「止める? この儂をか? ふはははは! ならば止めてみろ、儂はもう直ぐこの幻想の大陸をこの手にする、巫女を殺した時こそ我が一族の悲願が成就され、ようやく儂はヴァンクール(勝利者)になるのだよ! 来い、雑魚なる者ども!」

 白い剣を引き抜き、ゆっくりと、だが確実に殺意を込めてこちらにやって来る。

 突如、一人が飛び出していく、その背中は見慣れたあいつ、マモルだ。

「少年か、また死にたいのか?」

「許せないんだよ、リヴァーレやフォルティスの様に、人の気持ちを何だと思っていやがるんだ! 俺が倒す、そして、エリスを返してもらう!」

「まもる……」

 ようやく、決着の時が迫り来る様だ、怒りを込めた刃は倒すべき敵を知っている。


 

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