Chapter_13 襲撃
「ねぇマモ、あたしと何処かに行こうよ!」
唐突な申し出を受けた正午、昼飯も食べ終わりアリアが何処かに行こうと懇願して来た。
「何処か? 面倒臭いぞ、それにエリスを一人には出来ない」
ヴァンクールはいつ襲って来るか分からない、ここを下手に移動すると発見される恐れがある。その事をアリアに説明してどうにか納得してくれた様だ。
「それじゃ仕方ないか……じゃあ!」
アリアが突然俺の左腕に飛び付いて来た。そして、ある弾力が腕を圧迫する。
「ちょ、お前、は、離れろ!」
「あっれぇ? あたしの胸の感触を楽しみたくないの? それ!」
二つの柔らかい弾力が又々圧迫、柔らかい、こいつでかいな。
じゃない! 何考えてんだ俺は! 顔を真っ赤に変化させてしまい、それをアリアがからかわれた。
そんな光景を部屋の隅でつまらなそうに伺っていたエリスが、この後予想しない行動をとった。
「だ、駄目です!」
叫び声と共にエリスが俺の右腕に飛び付く、柔らかな弾力が発生、うわ! 俺、死んでしまうかもしれない! やばすぎるぞこの光景は。
両腕が、アリアとエリスに束縛された。
「まもるにハレンチな事をしないで下さい!」
エリスの訴えに感動する、まさか俺の為にこんな大胆な行動をしてくれるなんて、嬉しいな。
「あははは、何怒ってるのよ、冗談よ、冗談。本気にしないでよ」
「ふぇ? 冗談なんですか?」
「そうよ、それにしてもエリ、マモに胸押し当てているけど……いいの?」
その言葉にようやく気が付い、エリスの視線が下へと向かい胸元を確認すると顔面が真っ赤に染まった。
「ひゃん! ごめんなさい! 私、その……あの……」
「い、いや、大丈夫だからさ」
なんだか妙な雰囲気になってしまった、アリアはニヤニヤしながら俺達に野次り始めた。
「ラブラブだね二人共、妬いちゃうね」
「ラブラブ、私とまもるが……ラブラブ……い、いけない事です!」
真っ赤な顔をして両手で顔を隠した、何回も見るがこの行為は可愛らしい。
アリアの奴め、からかう事が好きなんだよな。でも、こう見えて優しいところがある、野良犬を可愛がっていたり、どんな頼みごとも嫌な顔一つしないでやる。
それに見知らぬ俺達を匿ってくれるお節介さも心地良い。
「可愛い! エリが凄く可愛らしい!」
「わ、私が可愛いですか? そんな事ないですよ」
「もう、そんなところが可愛いのよ、可愛がってあげる!」
いやな予感を受けたエリスは逃げた。アリアは手をにぎにぎ動かしながら追いかけて行く。
あれはまた胸を揉む様みたいだな。ヤバイ、やめさせないと!
「おい、もうその辺で止めとけって……」
全く悩ましい性格だが結構楽しいと思っている時分がいる、こんな平和な日々が続けば良いと願った。
願いとは成就されるべきと思うのは傲慢だろう、だがそれでも願ってしまうのだ。それが叶わないこともあると理解していたとしても。
これはその答えなのか、突然に異様な気配が平和を焦がす、それは外から感じる。
邪悪しら感じ取れるまで成長できた自分は不幸なのかは知らないが、危機を判別は出来た。
ヴァンクールがここを嗅ぎ付けたか?
椅子を倒して立ち上がる、それに驚く二人を置いていくような事態が始まったのだ、外が騒がしい。大勢の足音、気付かれない様にそっと窓から外を見つめる。
そこにヴァンクールの仮面兵士共で生め尽くされていた。
「バレた! エリス、奴等だ!」
「ヴァ、ヴァンクール!」
驚愕の声がエリスから放たれた、それを聞き急いで寝床の部屋から刀を取りに向かい、戦闘体制を整え戻る。
「ヴァンクールって奴等が来たの? パパを起こして来る!」
「大丈夫だ、起きてるよ」
アリアの父親が起きて来た。その手にはガトリングガンを握り締めながら。
「こいつをぶっ放せばいいだろう。はっはっは、面白くなってきやがった!」
アリアも顔を赤くして喜んでいる。全く、呆れた二人だ。危険だなんてちっとも思ってない。アリアが黒いコートからまたロケットランチャーを引っ張りだし、戦闘準備を整える。
逃げ場所は無いに等しい、入り口はここに一つだけ、崖の洞窟に作られた家には裏口はない。つまり正面突破しなければならない。
「マモ、エリ、あたしらに任せなさい! こんな奴等敵じゃない! あたしが道を作る!」
「頼む!」
「お任せあれ!」
勢い良くドアを開け放つのと同時にロケットランチャーが火を吹き、奴等の前に着火して爆発。
「今よ! 走って!」
爆風に奴等が怯んだ隙に俺達は駆け出した、俺の手はエリスの手の感触を感じながら走る。握り締めた繋がり、これを失いたくなくて、これを守りたくて、俺は走る。
川沿いを辿りながら逃走していたが前方からヴァンクールの兵がわらわらとこちらを阻む、アリアの父親が、ガトリングガンを撃ちながらそれらを蹴散らし進む。ヴァンクールには飛び道具がないみたいだ、これなら逃げ切れるかもしれない。
だが、その甘い考えを砕かれた。
「逃げちゃダメさ、巫女様」
目の前に突然現れた影、それはヴァンクール守護四神将の一人、カーラ・オディウムが目の前に居た。
くそ、守護四神将なんてのが出てきやがったか。
「久し振りだね坊や、元気にしていたかい?」
「元気にしていたぜ、おばさん」
「誰がおばさんだい! あたいはまだ二十五だよ!」
とカーラが叫んだ瞬間に奴の姿が消えた。
違う、異常な瞬発力を利用して移動したんだ、辺りを見回しカーラが何処から攻めて来るのか覚悟する。
一瞬、奴は俺の目の前に現れた、右手にナイフを翳しながら。能力を発動、カーラはそのまま真っ直ぐに突いて来る。
「死にな坊や!」
「甘いんだよ!」
体を左に逸らしナイフから逃れる、カーラはまた一瞬で移動、今度は背後だ。空高く支えるナイフが天から落下、脳天へと落とす。
昔の俺ならこれで死んでいたんだろう。
がっちりとナイフを掴むカーラの手を俺が掴んでいた。フォルティスは徹底した反射神経を鍛えた、これなら咄嗟の事に体が付いて行ってくれる。もう負けない! そのままカーラを蹴り飛ばす。
「ぐぅ! 馬鹿な、あたいの動きが読まれるなんて」
「修行のおかげだな、来いよ、もうお前は怖くないぜ!」
刀を奴に向けた。
「珍しい、異常体質者じゃない! 速過ぎて動きが見えなかったわ。苦戦しそうね」
アリアはそう言いながらロケットランチャーをコートの中にしまうと、次は二丁の拳銃を装備する。
本当にどうやって入れてるんだか。
「……どうやら昔の坊やじゃないみたいだね……さて、あたいがここに居て、巫女がここにいる……何が言いたいのか分かるかい?」
こいつは守護四神将の一人、ここに居ると言う事は、まさか……もし、この考えが本当なら大変だぞ!
「あたいはここに巫女が居る事はもう報告済みだよ!」
報告、その結果が危機を呼ぶ。三つの影がいつの間にかこの場に出現していた。
「どうだい? あたいの言う通りだったろ、リヴァーレ」
「そうだな、今回はカーラのお手柄らしい」
そう、ここに守護四神将が勢揃いしていた。
その中で一番若い奴、いや子供がいる。こんな小さい奴までが四神将なのか? 俺の視線にそいつは気がついたようだ。
「なんだよ、ボクがチビだから驚いているのかい? 馬鹿だな、見た目で判断すると怪我の元だよ?」
薄気味悪く笑う子供の後ろから黒い影が飛び出した、それは獣の形を成し、黒いライオンになった。
「ラ、ライオン! なんだこれ!」
「これがボクの力、影人形。影を思いのままに形作り、操る力。さぁ、見せてやるよボクの力を!」
ライオンは俺目掛けて飛び付く。鋭い牙を出し、一気に距離が縮む。能力を発動、迫るライオンを左に避け、暫撃を放つ。
「水龍!」
流れるように刀がライオンを真横に割る、すると蒸発する様に消えて行く。
「まだだよ! 行け!」
子供の掛け声が響くと影から無数の獣が這い出す。
「大量に来やがった!」
「あたしに任せてマモ!」
アリアは両手に装備している拳銃を連射する、弾は獣共の影を打ち抜きかき消して行く。だが、消してもまた影から生み落とされた。
くそ、無限に出るのか? このままじゃ殺られるのは時間の問題だ。なら、本体を倒すのみ! 影の支配者に向かい走り出す。刀を振りかざし、一撃で倒そうとした時だ、槍を持った四神将が行く手を阻む。
「やらせはせん! 我の槍を噛み締めるがいい!」
凄まじい槍の突き、連続攻撃で視界は槍そのもの。能力を発動し、槍の嵐を紙一重で避けた。
「ぬっ! 我の槍を避けるとは……あのサムライと同じ武器か、奴を思い出す」
「サムライ? 同じ武器だと? まさか、そいつの名前は源一郎か?」
「そうだ、もし生きていたらもう一度戦いたい相手だ!」
生きていたらだと? まさか、親父は……死んだのか?
嘘だ、あの超人的で頑丈な体を持った親父が殺られる訳がない。
「どうした、戦いの最中に考えごとか? そんな事では我の槍を食らうだけだぞ?」
鋭く、勢いある突きが放たれる。避けられないと諭し、刀で防ぐ。
「この攻撃も防ぐか、面白いぞ!」
「この野郎、何面白がってるんだよ!」
真っ直ぐに刀を振り落とすが攻撃をあっさりとかわされた。
「少年、お前の名は?」
「……神代護だ」
「ジンダイ……サムライの息子か? そうならこれは運命かも知れないな、我はプセバデス、覚えておけ」
プセバデス、これがこいつの名前か。名前も強そうだなと考えている時、あの子供が話出す。
「プセバデス、こいつはボクの相手だぞ!」
「サージュ、今は……巫女を優先だろう?」
「ちぇ、分かったよ、じゃあおばさんの変わりにボクが巫女を捕らえようかな」
「サージュ! 誰がおばさんだい! あたいは25だよ!」
「ボクからすれば25何ておばさんだよ」
なんだこいつら、緊張感がない。こんな訳の分からない奴等にエリスを渡すもんかよ。サージュと名の少年はジワジワとエリスに近付いて行く。それを遮る様にアリアがエリスの前に立つ。
「アリア、危ないですよ」
「エリ、こんな訳分かんない奴と喧嘩出来るなんて、面白い事ないわ、だからあたしはエリの前に立ってこの餓鬼を倒す!」
「餓鬼? ボクを馬鹿にしないでもらおうかな、こう見えてもIQが200くらいあるんだ、子供と同じにするなよ!」
「体はチビじゃない、やっぱりあんたは餓鬼よ!」
アリアの挑発にサージュは怒りの表情を表す。それと同時にまた影から獣が形作られてた。獣は数匹に増え、アリアを睨み付けている。その眼を怯みもせずに拳銃を獣供に睨み返す。
「パパ、エリを頼むわね」
「アリア、無理はするんじゃないぞ」
アリアの父親はエリスの前に立って守護に入る、エリスの心配そうな表情を背中にアリアがサージュに戦いを求める。
「行け! この女を食い殺せ!」
獣共は一斉に走る。くそ、プセバデスが居なければ俺が助けには入れるのに、プセバデスの槍の嵐を避けながらアリアを心配していた。
「アリア!」
「心配いらないわ、あたしだって強いのよ!」
両手の拳銃から連射された弾は轟音と共に大気を抉って突き進む、弾は狂いなく獣の脳天を貫く。アリアは目が良いと自慢した事があった、そしてこの射撃力、ひょっとするとこれは何とかなるかもしれない。
「何! ボクの獣がこんな女に!」
「男女差別反対よ! それにあたしを甘く見るな!」
「……これは茶番だな」
そう呟いたのは白い短髪の男だった。
「プセバデス、君は戦う事が生きがいなのは分かる、だが、あくまで今は巫女が優先……そしてカーラ、あの一撃を止められたくらいで臆するとは。それにサージュ、策なくただ獣を襲わせれば良いと言うものでもあるまい」
どうやらこいつがリーダー格の様だ。その男は俺目掛け歩きだしてくる。なんだやる気か? 素早く戦いの準備をする。刀を下向きに構え、奴を警戒。
「君の名前はマモルと言うのか……私はリヴァーレ、頭に記憶させておいてくれ」
「俺と武器なしでやる気かよ?」
「武器ならあるよ、この拳が私の武器で戦う術……」
奴の問い掛けが終わると同時に奴が襲い掛かる。両手を拳へと形作り、ただひたすらに真っ直ぐ俺を目指す。
最初の一撃は左腕から放たれる突き。恐ろしく速い、紙一重でよける時、拳は風を砕く音を奏でながら頭の右を通過して行く。
「ぐ、速い!」
「無駄口は隙を生む」
通過した筈の拳を開き、俺の後頭部に奴の指が襲う。それをしゃがみ、回避。透かさず奴の右足の蹴りが待っていた。
「やらせるかよ!」
後ろに飛べば回避出来るだろうが、逆に前へと体重移動し突っ込む。引いたら回避出来るだろうが、素手で戦って来るだけの自信が奴にある。これだけの相手、引いたらもう隙がなくなるかもしれない。だからこれが好機だ。
「乱撃!」
奴の蹴りよりも速く打ち込んでやる! 無数に発生させた剣撃、それ全てを奴に与えてやる。
だが俺の考えが甘かった。乱撃の最初の一撃を奴は止めた、素手で刀を捕らえたのだ。
「なっ!」
「驚く事はない、私が君の攻撃を見切っている。ただそれだけさ」
激痛が胸から生まれる、奴の突き出す拳が胸を攻撃されたのだ。その痛みが胸から全身へと回って行く。
「ぐぅ、うう……」
「君は強い、でも、私の方が上だっただけだ」
今まで色んな奴らと戦って来た。くそ、俺は負けてばかりじゃないか、口だけは一人前、格好悪いな……俺。
勝ちたい。こいつに勝ちたい、そして弱い俺自身にも勝ちたい。
「まだだ、俺は負ける訳にはいかない」
呼吸を乱すな、相手を臆するな、自分に自惚れるな。親父が毎日ガミガミと言って来た言葉、今になってその重大さに気がついた。
「ん? 落ち着いた顔……心を静め、集中力を高めているのか」
感覚を広げる。両手を伸ばす様に。相手の動きを見切るんだ。
俺の能力は相手の筋肉の動き、大気、その他全ての情報を頭の中で予想してイメージ化、映像として見せる。
でも、この力だけに頼ってはいられない。なら、俺自身の力と能力、双方を上手く使っていかないと。
リヴァーレを睨みながら、握り締めている刀を水平にし、低く構える。今から使うこの技は、果たして使いこなせるのだろうか? いや、使いこなせないと行けない、エリスの為にそして、自分の為に。
「覇皇極心流剣術奥義……無限」
「奥義を持って私に挑もうと言うのか、面白い」
今まで成功出来なかった技だ。果たしていきなり本番でやれるか? 信じろ、あの地獄の様なフォルティスの修行に耐えた俺を、今なら出来る気がする。
深く、更に深く息を吸い、吐き出す。精神集中、穏やかな心を保て、明鏡止水だ。
「行くぞ、白頭!」
「君の奥義、打ち破ってあげるよ」
いくぞ、前に足を踏み出せ!
地と平行に刀が走る。奴の足を目掛け、暫撃を左斜め下へと落とす。その攻撃はスルリと避けられた。だが俺の攻撃は終わっていない、避けられてしまった刀を右斜め上に切り上げる。
「無駄だよ!」
また避けられた。奥義無限はまだ終わっていない。さらに円を描く様に左に切り付け、そして右斜め下に暫撃。
無限は八の字を描く様に切り付ける技、八を横にすると無限の記号になるから無限、最初の一撃がかわされたのなら次の一手、ダメなら次……相手の隙を突く連続攻撃。
「く……今のは危なかった」
「まだ、終わってないぜ?」
八の攻撃を全て避けられたなら、最後の暫撃を発動。それは突きだ。
真っ直ぐ刀を構え、走り出す。あの攻撃で体勢が崩れている。今なら倒せる筈だ!
そして、穿つ。
あっけなかった。刀はリヴァーレの胸に突き刺さった。
俺は初めて命を奪ってしまった様だ。手加減出来る相手ではなかった、刀を握る手はガタガタと震え出す。
これが殺人……か。
「くそ、俺は……」
「悲しむことはない、私は生きている」
感情は驚愕に染まる、刀が胸に貫かれた男は平然と喋り出す。まさか、胸の真ん中に刺さっているんだぞ、何でこの男は死なない?
「奥義と言うだけはあるな、最初の攻撃が当たらなくとも、次の一手を持っている。それすら当たらずも相手の動きを鈍らせ、その隙を突く技か。いや、さすがだよ、私の能力を発動しなければ死んでいた」
「能力だと? お前、覚醒者なのか?」
手に衝撃が走る。奴の手が俺の手を掴み、ギリギリと力を込めながら刀を引き抜く。
そこに血が一滴も付いていなかった。なんだこれは。
「さて、お楽しみだったが……これでお終いだ。私達が戦いに夢中に、決着だ」
「何だと?」
急いで周りを確認する。そこに映る光景は俺が見たくなかったもの。アリアが血まみれになって倒れている、微かに息がある。大丈夫だ、死んでいない。おっさんは気絶している、守護四神将のカーラが側にいるってことはこいつがおっさんを気絶させたな。
そして、エリスは……。
「……まもる」
四神将の一人、プセバデスがエリスの腕を掴み、束縛していた。
「エリスから離れやがれ!」
駆け出す。だが、背後のリヴァーレが黙っているはずがなかった。背中に激しい痛み、奴が背中を殴り飛ばす。
「ぐぅうう!」
「もう遅い、君独りで抗うなんて馬鹿げてる」
勢い良く体が地面に衝突、衝撃で一瞬息が止まる。
エリスをこんな奴等に利用させてたまるか! まだ俺は戦う、最後の力が尽きるまで。
両腕が大地に吸い付かせ、体を起こそうともがく。立ち上がって、貴様らを倒してやる。そう決心した矢先、衝撃が走った。リヴァーレに背を足で踏み付けられ、動きを奪われた。
「まだそんな力があるんだね、寝ていた方が身の為だよ」
「ぐぅ、離せこの野郎!」
「威勢だけは勇ましい……そうだ、君は結果はどうあれ私に一撃を入れた。その褒美だ、七の巫女を欲する真の理由、知りたくはないか?」
「真の理由だと? 貴様達はエリスの力を使って幻想の大陸を支配するんじゃないのか?」
「よく考えてみろ、この大陸は弱体化し、私達ヴァンクールに楯突く軍隊はない。そんな大陸を支配するだけならもうやっているよ」
「なら、どうしてエリスを狙うんだ! 貴様は一体何を企んでいる!」
リヴァーレは滑稽そうに見下していた。こいつらの目的が分からない、エリスをどうしようって言うんだ!
「教えよう。私達の目的は七の巫女の抹殺」
「何だと?」
エリスを殺す? そんな事させるか! 激怒に思考が鈍っていたが不意に引っ掛かりに思考が正常化する。
ちょっと待て、エリスを殺すならば何故今殺さない? それになぜ生け捕りにしようとしているんだよ。
「不思議そうだな、この話をするには、まずこっちの話をする必要があるな、……先代の七の巫女が滅ぼした帝国、君は知っているかいこの話」
「……少しだけだ」
「なら知らないだろうな……数百年前に七の巫女に潰された帝国、その帝国の名は……“ヴァンクール”」
その名前はこいつらの組織の名前だよな? 訳が分からない。その帝国とこいつら、何か繋がりがあるのか?
「私達を束ねるお方、その名をイデア・グランデ様。彼こそは帝国ヴァンクールの血を受け継ぐ者。分かるか? 私が何を言いたいのか」
七の巫女に潰された帝国、その一族の生き残りって事だよな、つまりエリスを狙う理由、それは仇討ちって事か!
「今日より七日後、日蝕で世界を闇に染める日が来る。その日は帝国を滅ぼされた日でもある、その日蝕が始まり、終わると同時に七の巫女の首を刎ねる!」
「な、何だと!」
七日後にはエリスが殺される。ふざけるな! そんな昔の事を今に担ぎ出しやがって、やらせるものか、エリスは俺が守る!
「やらせるかぁ!」
刀を力強く握る。
「まだ抗うのか……はぁ!」
掛け声が発生した途端に、足で踏まれていた背中が更に痛みを感じる。くそ、息が出来ない。
「じっとしていろ、私達の目的はもう済んだ。余計な殺生は避けたいのだよ、さぁ巫女を私達の城へ」
目が霞む、視界がぐにゃりと歪む。
エリスが奴等に連れて行かれる。
「嫌です! 放して下さい! まもるが死んじゃう! まもる、まもる!」
「エ……リス、くそ……息……が……」
助ける、必ず助けるから、だから涙を流さないでくれ、その涙、次に流させる時は嬉し涙だけだからな。
「まもるーー!」
伸ばされた手、俺に触れる事無く消え去って行く。
俺は強くなんか無い、力も……心も。だが、意志だけは強い、エリスを助ける。この意志が続く限り、力も心も強くなれる。
そう思って、ぶつりと意識が飛ぶ。




