Chapter_01 少女の名は……
あなたとの旅は楽しかった。
あなたとのおしゃべりは楽しかった。
あなたとの時間は何処までも続くとよかった。
なんでこうなってしまったのだろう。
時が止まればよかった。
この世界は残酷だ。
あなたは……許してくれるかな?
苦悩って言葉は今のためにあるものかも知れない。溜め息を吐きながら俺はもどかしさに縛られていた。
複雑な木々が生い茂る森の中、俺と親父がたった二人でそこを彷徨う。
辺りを見回し、もう一度確認。
やはりなとため息混じりに親父に口を開いた。
「なぁ親父、これで何回目だ?」
「さぁな、護、お前数えてないか?」
護、それが俺の名前だ。神代護、黒色の短い髪に少し小柄で今年で17歳になる。鋭い目付きは生まれつきでよく初対面の奴には怖がられる。少し喧嘩っ早い性格だ、横にいる奴によればまるで猪突猛進な小鬼だとかぬかしやがった。
その横にいるのガタイのでかい奴が親父の神代源一郎だ。髭を生やし、筋肉質の身体、白髪混じりの黒い長髪を後ろで束ねている。サングラスを掛けるともうヤクザそのものだ。
「数えてる分けないだろうがくそ親父!」
「なんだとくそ息子!」
俺達は今道に迷っている最中だった。何故こんな事になったかと言うと、ある目的の為に旅をしていて迷ったのだ。
森の中、親父の言う通りに歩いて来たのが悪かった、同じ場所をもう五回も通って気が滅入っていた。
「テメェがこっちだって言い張ったんだろうが! 言った事に責任持て!」
「なんだと! だったらお前が前歩け!」
「ああ! 歩いてやらぁ!」
こんな風に俺達は良く喧嘩をしてしまう。まぁ、お互い精神年齢が低いって事だろうな。
俺達が今いる森は『幻想の大陸』と呼ばれている異なる世界だ。
この大陸は世界地図になんか載っていない、この地球に“あるはずのない”大陸で姿を隠した大地と言える。
簡単には踏入れない場所にあり、船でも飛行機でも行けない“別の次元”にある。
そこに行くまでは本当に苦労した。その次元へと繋がる入口が世界各地に存在しているらしい。
とある場所では洞窟の一番奥に入口が開いたり、またある場所ではオーロラが発生する空間に開いたりと様々でバラバラ。
俺達は道が開く場所を苦労の末ようやく確定した、日本を旅立って三年ほど経った頃、日本から離れた外国に存在する洞窟の奥に幻想の大陸に繋がるゲートが開くと聞き、やって来ていた。
開く方法は意外にも簡単だ、洞窟の奥に魔方陣の様な模様が広がる部屋がある。その陣の中央に生き血を少量で良いので垂らすと道が開く。血を垂らした瞬間、部屋全体に閃光が走り全身が包まれた。
それから気が付くと別の洞窟だったのだ。
外に出た途端、辺りは緑の景色ばかり、それを進んで今に至る。
そんな世界をしばらく進んみ、ようやく新しい道が出現し安堵した。
森は同じ様な木が連なり迷いやすくなっている。全く迷惑な森だ。
「ほれ見ろ、やっぱり親父が悪い!」
「ぬう~、悔しい」
親父が悔しがる最中それは突然だった、怪しい物音が辺りを騒がせ感覚に爪を立てる。
草木を揺らす音、そして人の気配。
「護、何か居るぞ?」
「ああ、言われなくても分かってるよ」
そう言うと俺達二人は腰に差していた刀を鞘から抜き出した。親父は剣術の達人クラスで実力者だ、小さい頃から親父に鍛えられた。
目的の為に世界中を旅し、ようやく見つけたこの幻想の大陸。その過程で自分の身を守る為に剣術が役立つ事がたくさんあった。
ある時は巨大なヘビに襲われ、またある時は変な民族に食べられそうになった、などだ。
いろんなエピソードがわんさかあるが今はそれどころでは無い。
「親父、5人だな?」
「ほお、分かる様になってきたか!」
その数字が周りを囲んでいる人数だ。背を付け合い、様々な状況に対応する為、前後を警戒し集中。
「さてと、そろそろ出て来たらどうだ!」
叫び声が木々にぶつかり散らばる、すると草木が揺れ黒い影が5つ茂みの中から生えた。影は無言のまま喋ろうともしない。ただ俺達の様子を伺っている様だ。
5人は体にフィットした黒いタイツの様な服に白い仮面を被っていて不気味だった。
「どこからどう見ても何かの組織の下っ端だな……おい何か言えよ! キモいぜテメェら!」
揺れた陽炎の如く立ち尽くしていた仮面は沈黙を破りようやく言葉を放つ。
「巫女は何処だ?」
「……巫女? なんだそりゃあ、訳の分からない事を言いやがって」
「とぼけるな、貴様らが隠したはずだ!」
「待て、わしらにはなんの事か分からない! 誰かと勘違いしているぞ!」
「勘違い? そんなはずは無い! 男二人、剣の使い手が巫女を隠した!」
「だから知らないって言ってるだろうが! この単細胞生物が!」
「なんだと貴様!」
屈辱を与えてしまったらしく睨んで来た。そんな様子をやれやれと親父が言いながら口を開く。
「はぁ、このバカ息子! 相手を挑発してどうする!」
「こいつらバカだから仕方ねーーだろ!」
「確かにバカだが、もっと他の言い方があるだろうが!」
「き、貴様ら……殺す!」
敵は武器を構え突進、襲い掛かり牙を向く。
親父の背中を離れ敵へ突撃、それは親父も同じく動いた。前に敵が二人、奴等の手には長い鉄製の爪が鋭く光る。
右側から敵が放つ爪攻撃を紙一重で躱し、蹴りを腹に食らわせ苦痛の声を上げさせた。そして左側、下から抉る様に迫る爪を刀で防ぎ、拳を顔面に与えて隙かさず峰打ち、後頭部にダメージを食らわせ意識を落としてやった。
「やっぱ下っ端だったな! 親父大丈夫か!」
「遅いぞ護。お前が一人倒している時にわしは三人を一瞬だ、まだまだ鍛練が足りないな」
「ちっ、時間が掛かっちまった」
「……さて、一人は気絶させずに残している訳は分かるな? さぁて教えてもらおうか。巫女とはなんだ?」
一人だけ地に蹲る手下に尋問するが無言だった、このまま無言を貫き通すつもりらしい。
でも、親父はそんなの許さないぜ?
「ほぉ、わしの事を無視か。……どの指が良い?」
「……何?」
「どの指から切り落として欲しいと訊いているんだ。喋らなければ……分かるな?」
「親父、全部切っちゃえば?」
「ぐっ……」
「さぁ、どうする?」
ドスを利かせ低く喋る親父、その姿は何処からどう見てもヤクザそのものだ。すると奴は震えている。
余程怖かったらしい、恐怖に負け理由を語り始めた。
「み、巫女とは“第七の一族の巫女”の事だ」
「な、何!」
声を高くして親父が叫ぶ。無理も無い、親父は第七の一族を探して旅をしていたからだ。
親父は民族学者で一生を賭けた研究対象、それが第七の一族。
人間には、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感が存在する。だが、ある特定の人間だけが持つと言われる第六感、シックスセンスを持つ人間がいると言われている。
シックスセンスとは、一般常識として存在しないと信じられているもの。あるいは科学的にその存在が明かされてないもの。
具体的に言えば嫌な予感とか勘なんかがそれに当たる。
しかし一方ではそれと超常現象、超能力などもシックスセンスと呼ぶ。
第七の一族には七の巫女と呼ばれる存在が居るとされている。
巫女はシックスセンス以上の力、第七感『セヴンスセンス』を使えると伝えられているらしい。
どんな力か分かっていない。だから親父はその力を解明したくて第七の一族を探してこの幻想の大陸まで来た訳だ。
「貴様らは何者だ? 何故七の巫女を狙う?」
「俺達は……」
その時、一瞬の出来事に反応が出来なかった。仮面の男は突然苦痛の叫び声を上げた。胸には尖った矢が刺さっていたのだ。
しまった、仲間はまだいたらしい。
遥か後方の森の奥に同じ格好の連中が更に奥へと移動して行く姿を捉えた。
「親父、まさかあっちの方向は!」
「ああ、多分間違ないだろう。わし達の目的地、第七の一族の聖なる場所へと繋がっているはずだ。追い掛けるぞ、遅れるな!」
「誰に言っていやがるんだよ!」
そんな反抗的な言葉を親父にぶつけながら奥へと進んで行く。
これから何が起きるのか知る訳がなかった。
◆
森の奥の更に奥、男と少女は息を切らしながら走り汗が散る。
男は赤く長い髪をした青年。少女は美しい金色の髪を靡かせていた。
息を切らしながら“奴等”から逃げる為に駆けて行く。
「くそ、あいつらめ……大丈夫ですか?」
少女は首を縦に振る。
「なんでこんな事に。くそ! ライが殺られてしまった!」
「シン……」
「だ、大丈夫、大丈夫です。貴女は必ず守りますから、必ず」
「そこまでだシン!」
二人の前方に道を阻む男が立っていた。背は高く、オールバックの髪型。鋭い目に蛇の様な瞳、見るからに悍ましい顔をしていた。
男の背後から仮面の兵士が数人這い出て二人の状況を悪化させて緊張を生む。
シンと名の青年は男を驚愕の眼で捉えて叫ぶ。
「エフニディ! エフニディ・アズモス!」
「シン、巫女を渡せ!」
「貴様なんかに誰が!」
背中に装備していた鳥の羽根を模した剣を握り、鞘から一気に抜き抜く。
そのままシンはエフニディに切りかかった。
接触音が響く。
エフニディの右腕にはいつの間にかトンファーが装備されていた。
「ぐぅ! 貴様が我が友、ライを殺した!」
「ふっ、お前はライと友達だったなシン。俺はなぁ、お前が昔から……」
左腕のトンファーを回転させながらシンへと牙を向く。暴風の様な音が鳴り響き、それと同時にエフニディが叫ぶ。
「嫌いなんだよぉ!」
「それは俺もだ!」
二人の戦いは誰も邪魔が出来ない程気迫を放つ。長い時間二人は死闘を繰り広げ、いつの間にか決着は唐突に着く。
「がああああ!」
「ああっ……シン!」
愕然と少女が叫ぶ。敗れ、倒れたのはシンだった。
その姿をエフニディは嬉しそうに見下す。
「ううっ、く、くそ……」
「なあシン、俺はお前の何処が嫌いだったか教えてやろうか?」
地に這うシンの首を掴み、持ち上げる。喉に食い込む不快な音が辺りに響き渡る。
シンの苦痛が漏れ、少女の顔がその度に歪めてゆく。
「お前の長い髪が嫌いだ、お前の赤い目が嫌いだ、お前の偽善者振りが嫌いだ、全部だ、全部、ぜんぶ、ゼンブ!」
食い込む手に更に力を込めたのと同時にシンの苦しみが増大した。
その姿を滑稽にニヤリと笑うエフニディが醜悪だった。
「くくくっ、覚えてるか? 戦士の儀式を。戦士となる者は戦士と戦う。勝たなければ戦士とは呼べない……相手はお前だった、貴様は俺より強かったはず、なのに貴様は……わざと負けた!」
「がああああ!」
また力を手に集め、苦しみを与える。
「許せなかったんだよこの偽善者がぁ!」
「あっ、ああ……み、巫女様……逃げて……に、逃げろ!」
「や、やめて下さい! シン!」
不快な異音が生命の終わりを告げた。シンの首は有り得ない方向へと曲がっていた。
「あ、ああっ……」
愕然と哀れな姿になったシンを少女は見つめて涙を流し身体を震わせる。
頼もしかった男は地面に吸い付く様に落とされた。
「ふふっ、くくくっ、あーーっははははははは!」
少女はシンの最後の願いを思い出し、それを叶える為に駆け出す。
涙を目に溜めて走る。
しかし、彼女の右手をエフニディが素早く掴む。
「逃げるなよ巫女様」
「嫌、放し下さい! ……ひ、人殺し!」
「人殺しかぁ、いい褒め言葉だ!」
「嫌! 放してぇ!」
少女が叫ぶ。するとそれに鼓動した様にあるものが空気を切り裂くかの如くエフニディへと飛び迫る。
それに気付きエフニディはそれを掴んで眺めた。
「なんだ! ……石? 誰だ!」
ある一点を凝視、そこにいたのは森を抜け出して来た神代親子がいた。
◆
事態が飲み込めない、だが幼気な女の子を連れ去ろうとしているところを目撃してしまったら助けるしかないじゃないか。
見るからに悪人だらけだな。
1、2、3……全部で6人、仮面もいるからさっきの奴等の仲間に違いない。
「親父、あの悪人顔は俺に任せて雑魚頼むな!」
「なんだとクソ息子! 最近までおねしょしてたガキが!」
「ば、ばか野郎! いつの話していやがるクソ親父!」
て、今は喧嘩してる場合ではないな。ちらりと奴等を窺うとなんだか呆れ顔になっているじゃないか。
まぁ、気にしない事にするか。
「とにかく行くぞ! 全くクソ息子のせいで恥をかいた!」
「なんだと? テメェのせいだろうが!」
醜く罵り合いばかりする俺達を悪人顔が呆れてながら話しかけてくる。
「おい、そこの馬鹿共」
「「こいつと一緒にするな!!」」
と綺麗に声がハモる俺達は互いに指を差し合う。
どうやらこの様子に怒りを感じたのだろう、悪人顔が怒りを露にして顔を歪めて睨む。
「イライラするな。なんなんだお前らは!」
「俺の名は神代護! 女の子を誘拐しようとする悪党が許せないんだよ!」
刃を悪人顔に向けて台詞を放つ。良し決まった!
と思ったのだが、悪人顔は見下した態度を取る。
「ふん……で? どうするんだボク?」
ボクだと?
俺は子供扱いされる事が嫌いなんだよ。
「テメェ! ぶっ飛ばす!」
威勢良く叫んだ直後いきなり頭に激痛が走る。
それは親父のゲンコツだった。
「痛ってーー! 何しやがる!」
「この馬鹿が! 相手の挑発に乗るなとあれほど言っただろうが! まったく……それはさておき、だ。護、暴れるか!」
「はっ、なんだよどっちにしろやるんじゃないか!」
俺達は刀を構え突撃を開始する。
「馬鹿共が。おい、行け!」
仮面の兵が迎え撃つ。
「来やがったな、よーーしアレをやるか!」
構えを崩し斜め下に刀を構え、体勢を低くして睨む。
この構えを理解した親父はどうやら同じ技で奴等を迎えるつもりだ。
「「覇皇極心流剣術 壱の剣!」」
狂い無く二人同時に仮面へと体勢を崩さずに突き進みながら剣術に集中を。
そして放たれた技名がハモった。
「「水龍!」」
一閃、剣の軌道は奴等の足を目掛け襲い食らう。その動きが水を泳ぐ龍の如く滑らかな靡き。
仮面達の悲鳴は痛みを強く滲ませていた。悪人顔は感心しながら俺達に言葉を贈る。
「ほう、足を切り戦闘不能にしたのか」
男は不快な笑いを表す。気に入らないな、明らかに不利なのはそっちなのに。
「下っ端は全部片付けたぞ、後はお前だけだ悪人顔!」
「ん? 俺と殺り合うのか小僧?」
「ああ、やって……」
威勢を言いかけた刹那、親父が遮る様に俺の前に身を出す。
「なんだよ親父、邪魔すんなよ!」
いつもなら罵声をぶつけて来るのだが親父は険しく俺を睨む。いつもと様子が違う事に驚きを覚えつつ、固唾を飲む。
「相手の力量も読めない奴は下がってろ!」
「うっ……」
鋭い視線に圧倒され、何も言えなくなってしまった。
剣士の目、ここにいる男は親父としてでは無く、剣士として語りかけていた。
「護、お前にはやる事があるだろう?」
その言葉に気付かされた、そうだあの女の子を助けないと。
状況を冷静に考えないといけない、親父はそれを教えてくれたのだ。
「……ああ、分かったよ」
でも、今の俺では奴に勝てないって事なのか? くそ。
悔しい気持ちをなんとか胸にしまい、女の子を救出する為に駆け出す。
◆
「ああ? お前が相手かおっさん? はっ、命知らずと言うか馬鹿と言うか、俺に勝てる気でいるのか? ……どうした黙って、怖気付いたか?」
「ふむ、弱い奴は吠えると良く言うが、最近はおしゃべりな奴の事を言う様だ」
「き、貴様……」
エフニディはトンファーを回転させ急接近、冷静に深く息を整えた。
「死を曝せ!」
トンファーは風を巻き込みながら回転し、牙を抉らせようと迫る。
対する為、刀を身体の正面に構え、技の名前を叫ぶ。
「弐の剣、乱撃!」
無数に刀の閃光が放たれた。剣撃の連続攻撃である。その攻撃が視界全て刀の線で生め尽くされ悪人顔は驚愕。
左腕、右肩、腹、左足首、右太股、体のあらゆる場所に刀が貫かれた。
致命傷は避けてある。
「がああああ!」
倒れる体を両足が踏ん張り、攻撃を耐えた。
「明鏡止水、お前に足りないものだ」
「めい……?」
「落ち着いた心の事だ。今のお前ではわしには勝てんぞ?」
「な、なんだと! ふざけるなぁーー!」
咆哮、痛みを堪え食いかかった。
「格の違い……見たいか?」
それは一瞬だった。エフニディの体は空中を舞う。
苦痛の悲鳴を上げながら白目を剥く。
「約束通り見せたぞ、格の違いをな」
舞い、空から拒絶され、大地に落ちた。
◆
森林を駆け抜ける、少女を連れて行く仮面の連中を追いかけていた。
くそったれめ、一体何人いやがるんだ、後からじゃんじゃん出やがって。
「あのガキいつまでも追って来るな、始末するか」
仮面は逃げるのを止め、くるりと旋回し俺に襲い掛かり殺気を放つ。ようやく戦う気になった様だ、なら相手をしてやる。
まずは先頭の仮面に蹴りを顔面に放ち気絶させ、それと同時に仮面が壊れ中の顔が晒されると、そいつはおっさんだった。
よし、後二人だけだ。
「おい、巫女と逃げろ!」
後ろから駆け付けていた仮面は勝てないと理解したのか更に後方の仲間にそう叫ぶ。
すると女の子の腕を無理矢理掴み、逃げ出そうと試みた。
「来い!」
「嫌です! 痛い、放して下さい!」
「テメェ! 汚い手を放しやがれ!」
一気に接近し、手前の敵に顔面に峰打ち。苦痛の声を上げ、地面へ倒れ込む。障害を取り除き体勢を低くし急接近する。
「速い! ガキのくせに!」
「誰がガキだぁ!」
無数に剣撃を走らせ仮面を捕らえる。俺の剣撃を躱せるものか。
覇皇極心流剣術、弐の剣、乱撃を発動。それを食らい勢い良く地面へ倒れ沈黙。
「へ、弱いんだよ!」
敵を倒し、安堵か駆け抜ける最中、俺は少女を眺める事にした。
少女は戸惑い、どうしたら良いのか分からず途方に暮れる。
怖がらせない様にしないとな。
「えっと……大丈夫?」
「……あ、はい、大丈夫……です」
「俺は何もしないよ、あ、えっと、その……俺の名前は護だ! よろしくな!」
いけない、声が所々で裏返ったぞ、恥ずかしげにしているとそんな俺の姿に少女は敵意が無い事を理解したらしく、微笑んだ。
か、可愛い……風に揺られ金色の長い髪が太陽光を反射させ輝いていた、全てを見通すかの様な青い瞳、そして小柄で華奢な体躯。
パッチリとした大きな瞳と小さな口、整った顔立ちは美少女と言っていいだろう。
白いワンピースに酷似した服には所々に文字らしきものが刺繍してあった。おそらく民族衣装だと思う。
「た、助けていただいて、ありがとうございます」
透き通る様に綺麗で海のように深く人を包み込む声に安らいだ、すべてが神秘的で、俺の時間は彼女に捕らえられてしまう。
「……あ、あの、私の顔に何か付いてますか?」
何も言わずに見とれると不安げにしていた。
「あ、いや! なんにもないぜ! あはははは……えっとただ君の名前なんて言うのかなーーって」
「名前ですか? そうですね、助けてくれたのに名乗らないのは失礼ですね……私の名前はエウカリス・アピュエースと申します」
「エウ……えっと」
「長い名前だから、エリスと呼んで下さい」
この日から俺の運命は彼女と重なっていくのを事を感じていた。
始まる、これから全てが……。




