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テレビカメラを見せられた麻友はあっさりと白状した。むしろ安堵している様にも見えた。
「学校の七不思議を聞いていたんですけどその中に、女子更衣室の真ん中の鏡に映るはずのない髪の長い女の人の姿が映るっていうのがあったんです。それを撮れれば、うちの怪談喫茶店の目玉になるかと思ったんです」
「なんだ、私の着替えシーンを売って一儲けってことじゃなかったんだ」
「そ、そんなことっ!」
顔を真っ赤にして怒る。
「冗談よ。家で一人で楽しむんだと思ってた」
「な、なんで私がナナの着替えを見て楽しまなくちゃならないのよ」
さらに顔を赤くして怒鳴るが、今度は少し恥ずかしそうにしている。
「ふふふ。つまり私のお岩さんでは目玉には物足りないってことかしら」
「そうじゃないけど、ナナにばっかり頼るものどうかと思って」
「こいつは好きでやっているんだから、そんな気は回さなくてもいいんだ」
「あら、それでも嬉しいものよ。カッチンにもぜひ見習ってもらいたいわ」
「ごめんこうむる」
「それはともかくとして、」
若者の話にウンザリしたかのように、遥が乱暴に話を区切る。
「何も映っていなかったから良いけど、こういうことをしては駄目よ。やりたければ先生の許可を取ってからやりなさい」
「はい。……それで、良いですか?」
「私じゃなくて担任の先生に聞いてちょうだい。紅林先生だっけ」
「はい」
「それじゃ、帰っていいわよ。学園祭も良いけど、あんまり無茶し過ぎないよね」
「でも、籠目賞狙っているんで、頑張らなくちゃいけないんです」
力のこもった麻友の言葉に、遥は首を傾げる。
「籠目賞ってなに?」
「え、だってナナが」
麻友は靴を履いているナナに助けを求める。
「学園物の漫画やドラマでよくあるじゃない。学園祭で一番の催し物をした団体には賞が出て、学食の無料チケットが配られたりするの」
「でも、うちの学校には無いわよ」
「無いんだ。残念」
ナナは全く悪びれず、あっけらかんとしている。
「それじゃあ遥ちゃん、またね」
「ちょっと待ちなさいよ」
「待たないわ。学園祭の準備が私を待っているの」
「散々、サボってたでしょうがっ」
「頑張って取り返さなくっちゃ」
ナナが笑いながら走り去り、麻友は怒りながらその後を追った。
「あなたも大変ね」
遥は同情するが、長身の少女はいつもは無表情な彼女に似つかわしくなく屈託無く笑った。
「そう見えますか?私は楽しんでます。こんなに学園祭が楽しみなのは初めてなんです」
学園祭まで、後十九日。
後編に続く
初出:2012/9/2 comitia102