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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

チート転生で、無双して、ハーレム作って、ウッホウホ

作者: 征彌

 気がつくと、俺は白い部屋の中にいた。


 はっ!?

 ここはどこだ?

 俺は死んだはず。

 ってーことは、ここは死後の世界で、俺はこれからあの(・・)

「チート転生して、無双して、ハーレム作って」

を実践するにちがいない。


「よっしゃあっ!」


 俺は拳をふりあげてガッツポーズし、ちょうど部屋に入ってきた神をそのまま勢いにまかせてぶん殴った。


「ちょ、わしの話を聞け。お前は運悪く走ってきたトラッ…ぐほっ!」


 また殴った。


「本当はお前の寿命はもっとあったはずなのだが…ぐはっ!」


 また殴った。


「お詫びといってはなんだが、お前に…ぐぎっ!」


 また殴った。


「特別に前世の記憶…ぐえっ!」


 また殴った。


「てんせ…ぐごっ!」


 チーン。


 神は死んだ。


 享年は……知らね。


 そんなワケで、俺は白い部屋から未知の世界へ送られたのだった。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …


 おぎゃあああ!(何じゃこりゃああああ!?)


 俺は第一声をあげた。


 そこはそよ風で白いレースが揺れるどこか中世を思わせる石造りの建物の一室…


 …じゃなかった。


『おお、よしよし、ミルクがほしいのね』


 どこか聖母を思わせる慈愛に満ちた顔の女性がやさしく俺を抱き…


 …あげなかった。


「ウホ、ウホホ?」


 ごつごつした手が俺をつかむと、鼻が曲がりそうなほど臭い胸に押しつけた。


 …ええと、この人が俺の母親で、これが…


 …おっぱい?


 なんか、すごくたれさがってないか?


 しかし空腹に耐えきれず、俺はそれにしゃぶりついていった。


 く、くさっ。


 しかも…母乳の出がヒジョーに悪いんだが…。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …


 そして。

 俺は2歳になった…


 …んじゃないかと思う。


 誰も俺の生まれた日を祝ってくれないから。


 それどころか、そもそも時間の概念がなかった。


 そして。


「ウホホホホ、ウホ」


 母親が俺を呼んでいるらしいが、よく分からん。


 なにしろ、言葉もないので。



 この世界は言葉もなければ文字も決まりごともなく、町も村も、集落すらなかった。


 家を作る代わりに、ここの人たちは洞窟に住み、作物を育てる代わりにその辺の森で木の実を拾い、家畜を飼う代わりに野を走って獣を狩っていた。


 そう。


 俺は前世の知識と記憶を持ってこの世界に生まれてきたが、ここでは俺のこのチート能力を活かす余地が全くなかった。


 ちくしょう、こんな世界に転生させやがって!!


 俺は転生のリコールを願って神に祈ったが、残念、神はすでに死んでいた。


 こうなると分かっていたら、ぶん殴らなかったのに。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …


 俺は15歳ぐらいになった。


 あいかわらず言葉も文字もなく、しかたないので毎日木の表面に傷をつけてカレンダー代わりにしている。


 しかし、冬が来るたびに飢えたシカに何度も木の皮を喰われたので、俺の記録はかなりいいかげんになってきている。


 そもそも、この世界がどこかも分からないし、1年が365日という確証もないのだ。


 俺は沼のほとりに立ち、水鏡に自分の姿を映すとため息をついた。


 前の世界では鏡を見るとニキビを気にしたり髪型を変えようか悩んだりしていた。


 だが。


 今の俺は、ニキビが出る前に顔じゅうひどい傷跡ができ、髪は伸び放題でフケだらけ、しかも、シラミにかまれるのでつねに頭をかきむしっている。


 この世界にもファッションというはある。

 最悪の、が。


 俺の顔と体には刺青が点々としている。

 タトゥーパーラーで入れてもらうようなオシャレなデザインではなく、尖らせた枝の先に顔料を塗って皮ふにランダムに刺したものだ。

 全然イケてない。


 水面に向かい、俺は口を開けた。

 そこに映る俺は歯が数本抜けている。

 虫歯ではなく、成人の儀式で無理やり抜かれたのだ。


 刺青と抜歯がすんではじめて大人と認められ伴侶を持つことができるようになるが、食事等その後の人生の不自由さを考えると、俺はいつまでも子供あつかいされてもかまわないから歯を残したかった。


 転生して好き勝手な人生を送るつもりだったが、今のところみんなに好き勝手にされるばかりだ。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …


 俺は20歳になった。


「ウホ〜」


 ウホコが俺を呼んでいる。

 言葉はないが、俺の名前はどうやら「ウホ」らしい。


「ウ〜ホ〜」


 ウホミも俺を呼んでいる。


「ウッホ〜ィ」


 俺をこう呼ぶのはウホエだ。


「ウゥホォ!!」


 名を呼ぶなり、ウホヨが走ってきて俺の首にしがみついてきて、それを見たウホコとウホミとウホエも負けじと俺に駆けより、壮絶な殴りあいが始まった。


 ウホコもウホミもウホエもウホヨも、みんな俺の女だ。

 これらの名前は便宜上俺がつけた。

 みんなイントネーションやアクセントを微妙に変えた「ウホ」のバリエーションで区別するのがむずかしいので。


 とにかく、俺はついに夢のハーレムを手に入れた。

 念願達成だぜっ!


 …だが。

 なんか、むなしい。


 前世で満たされなかった肉体的欲求は解消された。

 しかし、事前も事後も何の語らいもなく、発するのはただ

「ウホウホ」

という叫びのみ。


 そして。

 ウホコもウホミもウホエもウホヨも、みんな俺の女だが「ほかのヤツら」の女でもある。

 つまり、この世界の男女関係はネトリ&ネトラレが常態化していて、貞操観念も一途な恋心も存在しないのだ。


 その結果。

 俺はこの歳にして10人の子持ちだ。

 本当はもっと生まれたが、生活環境が過酷すぎて育たなかった。

 俺の母親もとっくに死に、父親は結局分からずじまいだった。


 俺は俺の女が産んだ子供たちを我が子として大事に育てていくつもりだ。

 ヘタすりゃ、誰ひとり俺の子供じゃない可能性もあるが。



 成人になってから、俺は少しでも前世での経験を活かそうと自分なりにいろいろやってみた。


 道具を使って火を起こしたり。

 狩猟用の武器を改良したり。

 土器を作って木の実を貯蔵したり。

 植物の繊維で衣服を編んだり。


 うまく行くまで何度も試行錯誤を繰り返したが、ここから少しずつ文明生活に近づくと信じてがんばった。


 しかし、俺の考えは甘かった。


 この世界は言葉が発達していないため、俺はこれらの技術をうまく他の連中に教えることができなかったのだ。


 連中は俺を真似ることはできるので身振り手振りである程度までは教えられる。

 だが、細部まで真似るのは無理だ。

 俺は見かねていろいろ助言してやるが、連中には言葉がないのでまるで理解できず、やるだけやって飽きると作業を途中で放り出してどこかへ行ってしまう。


 そして、それ以前に。

 彼らには雇用契約という概念が全くなかった。


 俺は貴重な保存食の木の実で連中を「雇った」。

 しかし、彼らは先に木の実を要求し、与えるとその場で食べ、作業場からいなくなってしまう。

 残ったのは俺がやっている作業を「娯楽」として真似る数人だけだ。

 しかし上記の理由でなかなか完成までこぎつけない。


 こんなんで、どうやって産業を興すんだよっ!


 俺は自分で作った猿酒をかっくらってふて寝するしかなかった。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …


 俺は30歳になった…


 …気がする。


「よし、今晩も講義始めるぞ。まずは、これが俺たちだ」


 俺は震える手で木の棒を握ると、その先で壁を指した。


 そこには数人の人間の略画がある。

 顔料を使って俺が必死に描いたものだ。


「そして。これが、ウシ」


 次に牛の群れを表した略画を指す。

 今晩は狩りの効果的な戦略について仲間に説明するつもりだ。


 危険で不衛生な生活環境と食料不足のせいで、この世界の人間の寿命はあまり長くない。

 俺と前後して生まれた仲間たちもここ数年のうちに一人減り二人減りして、気がついたら俺はこの集団で一番年寄りになっていた。


 俺、長老だぜ!!


 しかし、集団の実権を握っているのはもっと若くて俺たちより体がひと回り大きい(ボスザル)で、ジジイの俺はヤツの不興を買って殴り殺されないよう、ひたすら群れの隅でおとなしくしている。

 今、俺がやっている講義だって、(ボスザル)がワイロに献上した猿酒で酔っ払って寝てるからできるのだ。


「えー、まず、二手に分かれてウシの群れをはさみうちにする…」


 ここには集団のメンバー全員がそろっている。

 しかし、俺の講義を聞いているヤツは一人もいないだろう。


 なにせ言葉が通じないし。


 俺が枝で絵を指し、ツバを飛ばしつつ手足を振り回して熱弁する様子を連中はものめずらしそうに見ている。


 調子っぱずれの歌と猿酒に酔ったあげくの男女で「ウホウホ」そしてこの俺の講義が長い冬の夜を洞窟で過ごすこの集団の娯楽なのだ。


「シカの場合はツノがあるから要注意だ。取り囲み槍を使って、刺す。いいな?」


 俺の新作「シカ」の絵はなかなか好評だ。

 彼らが俺の絵に描いてある人間や動物が分かり、画家としての俺の腕をほめてくれるのはちょっとうれしくもある。


 講義の内容はまるで理解しないとしても。


 話し終えると俺はぐったりと地面に倒れ伏した。


 最近、疲れがひどく、いくら休んでも回復しない。

 今の俺は年齢は30歳でも、体の衰えは前世の世界の老人並みにちがいない。


 おそらく、冬を越す前に俺は逝くだろう。



 この世を去る前に一言伝えておきたい。


 前世の俺と同じように世に()み、転生さえすれば来世は自由自在になると信じている諸君。


 ………俺の(てつ)を踏むな。


 … ・ … ・ … ・ … ・ …



 1940年、フランス西南部のヴェセール渓谷の近くにある洞窟で先史時代の壁画が見つかった。

 後のラスコー洞窟壁画である。

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