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短編ごちゃまぜ

レーヌ・ドゥ・ネージュ・オンライン 〜囚われの姫君なんて柄じゃない〜

作者: しきみ彰

 暗く湿った地下。

 冷たく硬い鉄格子の牢屋。

 仄暗い松明の灯りしかないそんな場所に、少女は閉じ込められた。

 唖然と目を丸くする少女に、髭を生やした男は言う。


「ユキネ…すまない」

「……あ、あの、お父様? これは一体どういう……」


 透き通るように白い肌、そして亜麻色の髪。

 着ている服は豪奢な白のドレスだ。まるでウェディングドレスみたい、と少女は顔を引き攣らせる。

 すると男は言う。僅かに湿った声で。心の底から憂いた声で。


「ユキネ。お前にはここで……花婿を探してもらう」


 一瞬の間の後。


 この父親は何を言っているのかしら……。


 ユキネ――玖鳳院由姫音(くほういんゆきね)は、遠いところを見る羽目になったのだった。






 事の発端。それは、由姫音の現実世界での身分である。

 由姫音が生まれた玖鳳院というのは、それはそれは素晴らしい貴族の出であり、今や年収云十億とまで言われている玖鳳院グループの総帥である。

 その玖鳳院グループにおいて、由姫音は総帥である玖鳳院薫(くほういんかおる)の一人娘であった。


 そして由姫音自身もそれを納得した上で文武両道に励み、非の打ち所がない令嬢として成長していた。

 外国人の母親譲りの亜麻色の髪と青い瞳に、父親譲りのカリスマ性。

 そんな由姫音に縁談の話が山のようにくるのは、最早必然だった。

 そこで、このMMORPG『レーヌ・ドゥ・ネージュ・オンライン』が問題になるらしい。


 ユキネは父親の長い長い説明を幾度となく噛み締め、咀嚼し尽くし、そしてやっとのことで理解する。


「つまり……わたくしは、このログアウトできないオンラインゲームで囚われの雪の姫君という立ち位置。そしてこのゲームの参加者である男性の方々百六十七人のどなたかがわたくしの元に辿り着き、そしてわたくしを救ってくださった方が……わたくしの伴侶となる、ということで宜しいでしょうか、お父様」

「う、うん、その通りなんだけど……ゆ、ユキネ? ほらーいつも通りの口調でいいんだよ? そんなお母様が怒ったときみたいに敬語で話さなくても……」

「あら、申し訳ございませんわお父様。わたくし、怒っておりましてよ?」


 ふふふふふ、と不気味なまでの笑顔で答える娘に、父親は怯える。今となっては総帥としてのカリスマ性というものも掻き消え、娘の笑顔にただただ怯える父親と成り果てている。


 一発くらい殴っても、バチは当たらないですわよね……?


 そんな不吉な思考を感じ取ったのか。父親の薫――この世界で言うならラスボスの魔王カルデュンゲル――はそそくさと鉄格子から離れる。そのことに気付き、ユキネは密かに目を逸らした。


「そ、それじゃあ、わたしは行くよ、ユキネ。安心しなさい。もう少ししたら綺麗な部屋を用意するから」


 そういう問題じゃありませんのよ、お父様?


 しかしそれが声になる前に、父親はその場から立ち去った。





 父親が去った後、ユキネは現実世界に帰れないことを泣くのでもなく諦めるのでもなく、どうしたらゲームで決められた相手と結婚せずに済むのか、ということを考えていた。

 囚われの姫君である自分。

 それを助けに来た人との結婚。

 考えてみてから、ユキネはあり得ないと首を振る。

 ユキネとしては、別に親に決められた相手と結婚することはいいのだ。そう、政略結婚をするのであれば、ユキネは喜んでその相手を婿と認めただろう。どちらにせよ一人娘であるユキネは婿を取る立場だ。親が認めた相手が総帥たる者ならそれに付き従うのが妻の役目である。

 しかし、だ。


「……このMMORPGで助けに来てくださった方が伴侶……? あり得ませんわ」


 ユキネは玖鳳院の娘だ。そして玖鳳院家はありとあらゆる事業に精通している。

 その中にMMORPGというものがあったため、ユキネは片っ端からそれを行っていた。そのためルールややり方など、詳しいところまで知っている。今となってはリアル体験式の機械まで出た流行のゲーム。まぁそのせいでユキネがこんな楽しくもないところに軟禁されることになったのはまぁおいておこう。

 そしてMMORPGというのは、レベル制のゲームだ。勝って経験値を貰い、自分の極めたいものを上げる。それはつまり、レベル上げができる相手なら誰でもここに来れる可能性があるということでもある。

 そしてゲームを極めている人が有利なのは誰の目から見ても必然的。

 自身の父親が選定したのが誰なのかは知らないが、ユキネが断る理由としてはそれだけで十分だった。


「……ああ、いいことを考えましたわ」


 そうだ、とユキネは思う。妙案が浮かんだのだ。

 父親から聞いた話によると、どうやらこのゲームはゲーム内のみのバトルロイヤル制になっているらしい。ゲームで死んだら最後。次からはログインできない。

 つまり、だ。


「これをプレイしている人を全員潰せばいいのではないでしょう?」


 些か物騒な発言だった。

 そしてそれと同時に、ささやかなツッコミが入る。


「流石お嬢様。仰ることが過激ですね」

「そうでございましょうか。ある意味一番楽な方法かと存じますが」

「……美紀(みき)と、和仁(かずひと)?」


 ユキネは顔を上げた。するとそこには、メイド服姿の女性と燕尾服姿の男性がいる。

 新名美紀(にいなみき)

 真矢和仁(まやかずひと)

 そのどちらも、ユキネが赤ん坊のときから仕えてくれているメイドと執事だ。

 そしてこの二人こそ、ユキネのことを第一に考えユキネの言うことだけ聞く従順な従僕たちだ。


「ところで、どうして二人がこちらに?」


 ユキネの疑問は最も。しかし二人はなんてことないように言う。


「由姫音お嬢様に仕えるのがわたくしどもの役目です。なので今回、お嬢様の世話係としてログインさせていただきました」

「ああ、そしてお嬢様はそんなことを言うであろうと思ってましたので、こちらで一応操作させていただきましたよ」


 にこやかな笑顔で和仁が言う。その言葉通り、和仁は既に分かっていたのであろう。このゲームの説明をし始めた。


「まず、自分のメニュー欄を出すには利き手の人差し指を振ると出ます」


 和仁が実演したのに倣って、ユキネも指を振る。するとユキネのステータスが現れた。


「元々由姫音お嬢様はNPCに近い形のキャラとして設定されていたので、通常プレイヤーと同様にステータスを付けました。他のプレイヤーと違うところといえば、死んでもログアウトできないことでしょう」

「……つまりわたくしは、プレイヤー全員を倒さない限り出られないということですわね?」

「はい、そうです。申し訳ありません、そこだけは操作できなかったので」


 申し訳なさそうな和仁に、ユキネは笑いかける。


「いいえ、それだけで十分ですわ。和仁も美紀も、玖鳳院家に誇る有能な執事でしてよ」


 さぁ、これで準備は整った。

 ユキネは決意する。


「さて……二人とも、行きますわよ」


 この後ユキネはMMORPG史上最悪の異名『白銀の死神(アルジェント・キラー)』というプレイヤーキラーとしての名前を上げ、さらには『純雪の女王(レーヌ・ドゥ・ネージュ)』というオンラインゲームと同じ異名で呼ばれることになるのだが。

 それはまだ先の話である。

MMORPGで初めて思いついたネタ。

反省はしているが後悔はしていない←

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