ねえ君はずっとそのままで
いいの?そう問う友人に生返事を返した。悪戯な春風は校庭で咲き誇る桜の花弁を巻き上げる。本当にいいの?友人がもう一度問いかけてきた。私は落下防止の柵をぎゅ、と握って良いの。と一言答えた。眼下では胸に造花をつけ、卒業証書が入っている筒を手にした先輩たちが後輩や友人と泣いたり笑ったり。
「先輩、留学するって聞いたよ」
「うん」
まともな返事を返さない私に友人が深い溜息をついた。本当は下に混ざって部活や委員会の先輩たちを送り出したいだろう友人が何故私に付き合ってくれてるかは私も知らない。彼女は何も言わず、私についてきた。
「絶対後で後悔するくせに」
「そういう君はなんで私についてきたのかな?」
先輩達、最後でしょ。校庭を指し示しながら問えば、もう十二分に別れは済ませたし謝恩会があるというそつのない一言。
「さようですか」
「さようです」
そう言って黙りこんだ私たちの間を春風が駆け抜けて制服と髪を揺らしていった。
「なんだ、こんなとこにいたのか?」
「先輩」
聞きなれた声に眉をしかめて振り向く。なんで今日の主役の一人がこんなところにいるんだ。
「こんなところはこっちのセリフですよ。先輩」
「不義理な後輩達を探しにわざわざ来てやった優しい先輩になんという言いざまだ」
ぽんぽんと卒業証書の入った筒で肩を叩きながら先輩はいつものように不敵に笑う。その笑みが好きだった。
「なに言ってるんですか?探してますよ、彼女さん」
フェンスに持たれて下を指差す。その行為に友人が私の名前を呼びながら脇腹を肘でつつく。良いのかと問いかける瞳に笑って見せた。
「あー、言ってくるの忘れてたわ」
「先輩、それはさすがに」
あまりに無頓着な物言いに、黙っていた友人が苦笑しながら一言進呈した。
「良いんだよ。あいつとはこの後約束あるから」
で?と私たちに意地の悪い笑みを向ける。言うこと、あるんじゃないか?友人は心配そうにこちらをうかがった。私はとびっきりの笑顔を浮かべて見せる。どうせなら、記憶に残るのは一番の笑顔がいい
「卒業おめでとうございます!先輩!」
心にしまった言葉は、箱にしまって鍵をかけてしまおう。