私のヒーロー
「でかい家だな」
立ち並ぶ家の中で異彩を放つ家、それが明曰く雷雲家。2メートルほどの塀から突き出る家の頭は緑青の瓦で覆われ、まるで城ではないかと錯覚するほどの大きさ。
「お前の親って何やっての?」
「さぁ? 聞いても答えてくれなくて」
危ない仕事を想像し言葉を紡げなくなる。
「ま、まあとりあえず行くか」
しかし家の正面に回った光たちを待ち受けていたものは、。
「これって……」
カメラにマイク、照明を担いだ兵士たちの大群が雷雲家のまん前を占拠している。
「そりゃそうだ、23名の女子高生が誘拐され、そのうち生き残ったのはお前ただ一人、奴らにとってこんなおいしいネタ他にはないだろだろ?」
「ネタって……私死ぬ思いをしたんですよ? そんなこと……」
悲壮に満ちた顔を見せる明。
「そんなもんだ、やつらなんて」
光が瞳の中にを抱えている冷たいものを、まだ明は全容把握できなかった。
「とりあえず、あいつらに質問攻めにされんのは嫌だろ? お前があっちの人間じゃないなら」
「あっち、って何ですか?」
天然なのかわざとなのかその対応に固まる光。
「……まあ、めんどくさいのはやだろ?」
「はい」
「なら決まり」
光が手をかざすとトランプが出現し、それらは宙で混ぜられていく。
「設定時間は分、能力発動」
その掛け声とともに宙で混ぜられたカードが光の手の上にまとまる。
「さて、後は運次第」
そう言うと、上から一枚めくる。
「クローバーの5ギリギリ妥協点」
「カードの数字と発動時間の関係は聞きましたが絵柄も関係するんですか?」
「クローバーが身体能力強化全般、ハートは回復能力、スペードが情報収集能力、ダイヤが催眠系の能力ってかんじかな?」
「でもこの前ハート絵柄の時に戦ってませんでした? 凄い力で」
「ある能力で筋力のセーフティーをはずしてんだ、そして負荷をハートの回復能力で軽減してる、ってわけ」
「なるほど」
「さて残り3分半、もう少し話しててもいいが、やっぱり余裕を持って生活しないとな」
そう言うと、光は明を抱える、所謂お姫様抱っこいうやつだ。
「あ、あの光さん……私重くないですか?」
「何が重いだ、しっかりつかまってろ」
助走をつけると一気に飛ぶ。
「おりゃ」
着地と同時に、衝撃を足全体で支える。
「大丈夫か?」
「はい」
足への痛みをあえて光は口にはしなかった。
「あ、あの降ろしてもらえませんか?」
その言葉によって、見つめあう事になる二人。
「お、おう」
お姫様抱っこと言う格好は意識すると恥ずかしいものだった。
「さて俺は帰る、まあいずれまた会おうぜ」
「えっと、ありがとうございました」
「おう」
そう言うと光は一気に塀を登りきる。
「じゃ」
光が自由落下の最中見せたキザっぽい動作は、明の笑いを誘い出した。
「……ありがとうございました」
何も無い塀に明は一礼をした。
「めええええいいいいいいっ」
明にめがけて飛んでくるのは、とびうおもびっくりの形相の父親、雷雲仁。
「お父さん!?」
「怪我は無いか、辛かっただろう?」
「私なら大丈夫」
「そうか、無事でよかった……ほんとに良かった」
笑いながら泣くという奇妙で器用な行動をとる父に、微笑を浮かべながらなだめる明。
「もしお前に何かあったら、天国の母さんにどう顔向けすればいいか」
「お父さん……」
明を産んですぐ他界した母に変わって、明を育ててきた彼にとって彼女は比類なき宝のようなものだった。
「大丈夫だよ、光さんって人に助けてもらったから」
「そいつは男なのか?」
「うん、私のヒーロー」
一瞬にして仁の目つきが変わる。
「ほほぉ、そいつはどこにいるんだ、御礼をしなくては」
「帰っちゃったよ」
「今度はぜひ呼んでくれよ」
「うん」
「くしゅん、……風邪でもひいたかな」
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