魔女の館
31年前の6月4日、能力者による革命は政府に対し勝利を収め、能力者は世界で認められるようになった。それ以前の能力者の待遇はまるで実験動物のようなものだった。
能力者の存在が確認されたのはそれよりずっと前、能力は生まれもって持っているものもいれば、ある日突然目覚めるものもいる。初めは少数だった彼らも、やがて数が増え1万人に一人の割合で生まれるようになった。能力者の持つ能力はそれぞれ異なり、その強さ特性もそれぞれが持つ能力次第だった。
能力を認められると同時に能力による犯罪も増えていった。常人では及ばないその力の前になすすべもなく警察、軍隊を持ってもその力を抑える事はできいないものだった。それに対し能力者による抑止力をかけることになった、が危険を犯して国のため世界のためになんていう物好きはいないのは目に見えていた。そこで、能力犯罪者に賞金を賭け、能力者を募り、彼らに政府公認という肩書きを与えることにより初めて抑止力とした。
「『出来損ないのヒーロー』のご帰還だぜ」
「なんだ、女連れてるぞ」
陰口には慣れていた、自分が出来損ないの能力しか持っていないことも。
「気にするな、いつもの事だ」
「…………」
銀行の窓口のような所に一人の女性が立っている。
「札切さん、お手柄ですね」
カチカチとパソコンのボードをたたきながら女性ははにかむ。
「あんがと、報酬はいつもどおり俺の口座によろしく頼むわ」
「分かりました」
そんな会話と交わすと明のいる所に戻る。
「私もう帰ってもいいですか?」
「帰ってもいいぞ、と言いたいとこだがな一箇所ついてきてもらいたい場所がある」
「どこにですか?」
「『魔女』の館さ」
町に出て、少しでも間違えたら迷いそうなほど入り組んだ裏道を歩き、光曰く『魔女』の館と言う所につく、館と行っても小さく、まるで酒場のような所だ。
扉を開くと、幻想的というか神秘的というか怪しいというかそんな空間が広がっている、薄暗い照明の中一人の女性が大きな水晶の前に座っている。金髪で碧眼、髪を腰まで伸ばしスタイルも良い美人な女性、どこか危険なにおいを感じさせる、格好は白のキャミソールに黒のカーディガンとロングスカート。彼が『魔女』の館と言うのもうなずける。
「あら光ちゃん、随分早いのね」
「何が『随分早いのね』だ、お前の言うとおり行ってみればただの一般人しかいなかったぞ」
「あらあら」と口を手で押さえながら『魔女』は明の方に視線を向ける。
「あなたが雷雲明ちゃんね」
「どうも」
「ふーん」と足の先から頭のてっぺんまで明を見ると、少し考えるような仕草して明に尋ねる。
「あなたは能力者じゃないの?」
「はい、ただの人間です」
「ん~」
頬に手を置きまたしても考え込む『魔女』。
「どういうことなんだよ」
と光も待ちかね尋ねる。
「わかんない」
たった一言それが全ての答えだった。
「わかんないだと、ふざけるな」
「あなたの運命を変える人、と言っただけ少なくとも彼女が能力者とは一言も言っていない」
「なら少なくとも俺が……」
「そう、その運命だけは変わる」
二人の視線が明に向けられる。
「明ちゃん、聞きたいことがあるなら聞いてね、できる範囲で答えるわ」
「あの、えっと……なんとお呼びすれば?」
「『魔女』でいいわ、見んなそう呼ぶし」
「本名は何て名前ですか?」
「聞かないで」
悪魔もびっくりの絶対零度の視線。
「あの……その……すいません」
「別にいいわよ」
「『魔女』さんは外国の方なんですか?」
「違うわよ、日本人」
「え……だって……」
「髪なら染めてるの、目もカラーコンタクト」
「そうなん……ですか?」
どこか腑に落ちないような表情を浮かべる明。
「あなたの考えている事当ててあげましょうか? どうすればそんなスタイルになれるの? ってとこね」
「そ、そんな事考えてなんていませんよ」
「ふふ、面白い娘ね」
「『魔女』さんも能力者なんですか?」
「そうよ」
「どんな能力なんですか?」
「企業秘密」
人差し指を立て唇に押し当てる。
「えっと、ありがとうございました」
「じゃあ私からも」
「はい」
「スリーサイズは?」
呼吸を止めて一秒あなた真剣な目をしたから~♪
「お前はエロ親父かっ!」
と光が割ってはいる。
「だって~、この子可愛いんだもの、食べちゃいたいくらいに」
ぺロリと唇を潤す『魔女』。
「ったく、運命を変えるって言っても、具体的にはどう変えるって言うんだ?」
「知らないわ、私の能力が分かるのはそこまで」
「さっきから運命がどうこうって、何のことですか?」
「ん、あぁ……」
話にくそうな態度をとって見せる、光。
「こいつの能力によると、俺はこの一週間のうちに……死ぬ運命にある」
「死ぬ運命?」
「そこでそれを回避するためにどうすればいいか? っと訪ねるとお前が俺の運命を変えるだそうだ、んでどこにいるのか俺の能力で探りをかけると、あらまあびっくり殺されかけていたって訳だ」
「それで私を助けに」
「やつらの目的はお前らの生き血だったみたいだ、上司に献上するためにな」
「生き血ですか!」
「取調べの結果ではそこまでしか分からなかった、彼ら自信もそこまでしか知ら無かったみたいだがな、まあ何がともあれ、お前が生きてるのも、俺らが出会ったのも、運命のお導きってわけだ」
「光さんの能力っていったいなんなんですか?」
「まあ説明しづらいが……」
手をかざすと何も無い所にトランプケースが現れる。
「トランプ?」
「そうトランプ、だがババ抜きも七並べもできない」
「じゃあ、ポーカーでもやるんですか?」
彼女なりのユーモアは不発に終わる。
「違う、ここにあるのはジョーカーを含む53枚のカード、そして俺の能力もその数だけある、んでめくったカードによって能力を発揮する」
「だから逃げたり戦ったりしてたわけですね」
「そう、この能力は数が小さいほうが強く、数が大きければ大きいほど弱くなる、あと時間制限があってそれは最初に決めた時間にその数字をかけた時間になる」
「つまり弱い能力は長く続いて、強い能力は短い時間しか続かないってことですよね?」
「そうなるな、ちなみに一度発揮させた能力はその時間が過ぎるまでキャンセルできない」
「大体分かりました」
「まあ運次第のギャンブル能力ってこと」
と『魔女』が付け加える。
「んで、出来損ないのヒーローってわけさ」
「出来損ないだなんて、十分かっこよかったですよ、光さん」
「所詮俺は偽善者、自分のためにお前さんを助けた、それだけだ」
その冷たい言葉に威圧される思われた明が黙る事は無かった。
「で、でも……もし助けられなければ私はここにはいない、なんて言おうとあなたは私のヒーローです」
曇り一つ無いまっすぐな瞳で見られ、先に視線をそらしたのは光のほうだった
「ヒーローね……、そう言われんのも悪くないな」
照れくさそうに頭を掻く光。
「まあ今日の用は済んだ、帰るなら送るぞ」
「お、お願いします」
その返答に光は微笑を浮かべる。
「さて、行こうか」
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