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2.ひとかじりのこきゅう

おなかすいた。


「…にゃーお」


三日だ。

もう三日何も食べていない。体力的にも精神的にも限界だった。


『かえりたい』


家に、帰りたい。

切実なぼやきは小さな喉元を通り、ニャーというとぼけた鳴き声に変わる。

ニャーってなんだニャーって。

妙に哀愁が漂う猫の声が地面に落ちた。


猫の姿になってこの三日間。

夢なら覚めないだろうか と寝てみても、夢は覚めるどころかますますお腹の虫がその存在を主張するだけだった。

ずいぶん、ながい夢だ。

夢にしては脚は痛いしお腹も空くし最悪としか言いようが無い。



あの森で目覚めて一日目は、辺りをひたすら歩き回った。木に登ってみたりもした。思った以上に簡単に木の上にあがれて、ずいぶんと身軽になった体に驚いた。きっと夢だと思っていたから。

――しかし、冒険気分で楽しめたのはそこまでだ。

ここは森だ、そして森には動物がいる。捕食する側だけでなく、捕食“される”側にも回ったのだ。

水場で熊を見かけたとき、私はやっとそのことに気付いた。

気付いてすぐに逃げた。ひたすら走った。大木の上に登って、やっと体の力を抜いた。恐怖で体が震えるのは、はじめてだった。


二日目は昼まで木の枝の上でひたすら眠った。夜は眠れなかった。

いつ野生の動物に見つかるかわからない今、地面へ下りるのは酷く心もとない。

いくら寝てもこの悪夢から覚めることはなかったけど それでも、寝ている間だけは空腹を忘れられた。


とうとう、空腹を誤魔化せなくなった三日目の朝。

私は川をたどり人を見つけようと決めた。

昨日、そう遠くない場所で猟銃の音が響いたこともその決心を強くした。

猟師がいるなら近くに人里もあるはずだ。川の下流には人が居るのではないか。

はたして、読みは当たっていた。


当たっていたが、とことん私は神さまに嫌われているようだ。


私は唖然とその光景を眺めた。

道行く人々の姿はまるで映画の撮影のように、昔のヨーロッパの人たちみたいな服装をしている。

にぎやかで、活気に満ち溢れた町並みは、ぜんぜん別の世界のようだ。


……おいおい、そりゃないわ神様。


だれか、誰でもいいからこの最低な夢から覚ましてくれないだろうか。

なんで私はこんな目にあってるんだ?


ビュウとすぐ横に突風が通り抜ける。ガラガラと鳴る車輪と馬が石畳を蹴る音を響かせ、私の目の前を馬車が駆けて行った。

道行く人々の声が、すべてが、どこか違う世界の出来事のように遠い。



ここは、どこだ?



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