第16話~対策~
「ハァァァァッ!!」
「タァッ!!」
──ガギィン! ガンッ! ギィン!!
大剣と長柄斧がぶつかり合い火花を散らす。
威力重視の重量武器同士の衝突だが、力任せで粗削りな大剣の連撃に対し、長柄斧はそれを弧を描くような動きで巧みに受け流していた。
「甘いっ!!」
「ガッ!? クッ、まだまだぁっ!!」
マドさんの振り下ろしの一撃を弾き、生じた隙をついてディネルースが斧の柄でマドさんの肩を打ち付ける。マドさんは身体を屈め辛うじて直撃を避けると、大剣を強引に引き戻して薙ぎ払い。ディネルースに距離を取らせて仕切りなおした。
──ギィンッ!!
放浪神の僧侶であるエルフの尼僧ディネルースと知り合って程なく、マドさんは彼女と理解を深めるため肉体言語での対話を迫った。要するに模擬戦の申し込みだ。
戦士が僧侶に模擬戦を挑むというのはマドさん寄りの私でさえ割とどうかと思ったが、意外にもディネルースは嬉々としてそれに応じた。というか、私が分かっていなかっただけでマドさんはしっかり見抜いていたのだろう。ディネルースはエルフの細腕からは想像できない剛腕かつ熟練の神官戦士だった。
膂力と体力ではマドさん、器用さと経験値ではディネルースと、二人の武器での戦いはほぼ互角──いや、これは私の贔屓目が入っているな。先ほどから有効打にこそなっていないが、ディネルースが何度か攻撃を当てている。決して見た目ほど大きな差ではないしディネルースも余裕がある訳ではないが、こうした形式の模擬戦ではディネルースが有利なのだろう。
しかしマドさんも技量で勝るディルース相手に怯むことなく楽しそうに口元を吊り上げて攻撃を撃ち込んでいく。
──ガンッ! ギィン! ドゴッ!!
結局二人の模擬戦は一〇分近くも続き、疲労でマドさんの動きが鈍ったところで顎にいい一撃が入り、ディネルースの勝利で幕を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「凄いな、ディーは。あんなに簡単に攻撃を受け流されたのは初めてだ。その細腕でよくあんなことが出来る」
「うふふ、マドちゃんこそ凄く鋭くて重い攻撃だったわよ。模擬戦だったからまだ凌げたけど、実戦だったらどうなっていたか……」
「…………」
模擬戦を終えてすっかり分かり合った風な二人が、戦闘直後で頬を赤く染めながら楽しそうに語り合う。
「はい。怪我が残ってないか確認するから腕をあげて~」
「ふふ、くすぐったいぞ」
「…………」
マドさんが負った負傷は大したものではなかったが、既にディネルースが回復呪文で治療している。私が治療しようと思っていたが、回復呪文においては僧侶であるディネルースの方が上だ。私の出る幕はない。
「それにしてもマドちゃんたら、どうしてあんな力持ちなのかしら。こんなに小さくてかわいいのに──」
「キャッ!? へ、変なとこ触るな!」
「…………」
マドさんはディネルースに身体を触られて怒ったような言葉を言ってはいるが、普段私に見せるソレとは違い本気で怒っている様子はない。
出会ってからまだ一時間ほども経っていないのに、すっかり打ち解けた様子だ。私よりも。
「恥ずかしがることないじゃないの。ほら、こっちを向いて?」
「ば、馬鹿ッ。変なことを言うな。そんなことを言われると照れるだろうが──」
「うぅわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
目の前で仲睦まじく百合百合しい光景を見せつけられ、私はついに我慢できず絶叫した。
『…………』
女性二人から『何だ、お前いたのか』と冷めた視線を向けられるが、そんなことで怯む私ではない。
「マドさん!! その女は危険です!!」
「……一応聞いとくが、危険って何が?」
「マドさんを誑かしてベタベタして、こんなの何か企んでるに決まってます!! すぐに離れてください!!」
「……キマってるのはお前の頭だろ」
「あらあら」
私の忠言をマドさんは聞き入れてくれる気配がない。しかもそれを聞いたディネルースは悪戯っぽく笑って更にマドさんに密着する始末。
「ギィィィッ!!? マドさんから離れろエロフ!! マドちゃんとか馴れ馴れしく呼びやがって、マドさんの許可を取ってるのか!?」
「許可とかお前が言うな」
「しかも“ディー”とか愛称で呼ばれやがって!! 私なんて名前で呼んでいただいたことだってまだ二回しかないのに……!」
「数えてるなよ」
「あら、そうなの? 思った以上に他人行儀な関係なのねぇ」
「上から目線でほざきやがって……!!(ギリッ)」
ディネルースに挑発(?)され、私の寛容な精神がついに限界を迎える。
「マドさん!! こいつは危険です!!」
「……だから、何が危険なんだと聞いてるんだ」
「だっておかしいじゃないですか!? 私がこんなに尽くしてるのに素っ気ないマドさんが、こんなぽっと出の女にアッサリデレるなんて──ハッ! そうだ、きっとこの女はヴァンパイアかサキュバスに違いありません!」
「!?」
「……お前何言ってるんだ?」
マドさんがとうとう狂ったかと呆れた声を出すが、私は至って真剣だ。
「目を覚ましてください、マドさん!! マドさんはこの女の魅了の魔眼で正気を失ってるんです!! でなけりゃマドさんがぽっと出の女なんかに気を許す筈がありません!! はやくいつもの横暴で素っ気ないマドさんに戻ってくださ──あべしっ!!?」
「……これでいいか?」
マドさんに殴り飛ばされ、私は理解する。
「うぅ、この拳はいつものマドさん……! 操られては、いない……!」
「……殴っといてなんだが、分かられたら分かられたで気持ち悪いな」
マドさんが何か言っていたが、私は素人作家が『女キャラ少ないから適当に誰か出したれ。エルフでムチムチで僧侶とか皆好きやろ』とか適当な思い付きで出したようなエロフに敗北したショックで地面に仰向けになって動けなかった。
勝者の余裕か、ディネルースはそんな私を揶揄うように笑う。
「うふふ、そんなに興奮しなくても、私は貴方の愛しいマドちゃんを奪ったりしませんから安心してください」
それを聞いた瞬間、私の頭は沸騰した。まさかこのエロフ、私とマドさんがそんな関係だとでも思っているのか……?
「い、愛しいって何を──!?」
「ふざけんなこのクソアバズレエロフッ!! まさかテメェ、私がマドさんをそんな邪な目で見てるとでも思ってるのか!!?」
『!?』
初めて見せる私の激昂した様子に、ディネルースは勿論、マドさんでさえ驚いて目を丸くしている。
「い、いやその、私が言ったのはちょっとした軽口というか冗談というか──」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろうがっ!?」
「ええっ!? そんな怒る様なことじゃ──」
「いいかクソアマッ! マドさんは男ごときが穢していい存在じゃねぇんだよ!! この方は永遠の戦士で剣だ!! 一生男になんて縁がなくていいんだ!! 永遠の処女であるべきなんだよ!!」
『…………』
「それを、テメェは──」
「ヨシュア」
ポンと、マドさんが肩を叩いて私の言葉を遮る。
私は彼女の嫌悪感すらない“無”そのものの視線に射すくめられ、ようやく自分がやらかしたことに気づいた。
「黙れ」
「……はい」
殴ってすらいただけなかった。
「……ふぅ。怖い怖い。気づかれたかと思った」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
看過できない問題や不満はあるが、二つのアンデッド対策の内『僧侶の勧誘』については一先ず目途がついた。
神聖魔法を使いこなし、技量においてはマドさんすら凌ぐ戦士でもあるディネルースは現状望みうる最上級の人材だ。
残る課題は『装備』。通常攻撃の通じないアンデッドにも有効な武器や消耗品を整えることだった。
そしてこちらに関してもある程度目途はついてはいる。アンデッドに有効な武器と言えばマジックアイテムか、銀製の武器。どちらも高価で、前者に関してはそもそもこんな小さな町では入手困難だ。その為、現実的な落としどころとしては刀身が短くて比較的安価な銀製の槍を買うか、あるいは大量に聖水を購入して武器に振りかけ一時的に聖属性のマジックアイテムとするか。どこまで資金調達が可能かとセットで検討すればいい。
──ただ今回はそれでいいとしても、今後のことを考えるとどうなんだろうな……?
ここでマドさんを取り巻く状況を整理してみる。
マドさんの目的は父親の仇である死霊魔術師を討つことである。
そして死霊魔術師と対峙する上でアンデッド対策をした武器は必要不可欠だ。今回はディネルースの協力が得られたため何とかなるとしても、何時までもディネルースがいてくれるとは限らないし、他人の力頼りと言うのはマドさんの物語として美しくない。
何時までも聖水や、本来の得物ではない槍やらで誤魔化すという訳にはいかない。マドさんに相応しい武器が必要だ。
だが今彼女が使っている大剣は父親の形見だという。果たして彼女がそれを手放し、他の武器を振るうことを良しとするか。
例えば私が持つ『リング・オブ・ウィッシュ』のアーティファクトを使えば、マドさんの大剣をマジックアイテム化することは不可能ではない。私自身、マドさんの武器のためであればアーティファクトの使用回数を消費することに否やはないが、果たしてそれはどうなのだろう。
マドさん自身が望み、試練の一つでも乗り超えて大剣をマジックアイテム化したならまだしも、アーティファクトでお手軽にそれをしてしまっていいのか。
極論、私のアーティファクトを使えばマドさんの仇を見つけて、その仇討ちのお膳立てをすることだって難しくないのだ。だがそれをしてしまえばマドさんの物語が歪んでしまう。あるいはマドさんはそれでも仇を討てればいいと言うかもしれないが、私自身がしたくない。
私は常識的な範疇でのサポートならともかく、理外の力を使って彼女を助けることには彼女の物語を穢してしまうのではあるまいかとの躊躇いを感じていた。
話を元に戻すが、今直面している問題はマドさんの武器だ。出来るだけ形見である大剣を活かしたままアンデッド対策を行うとして、一つ現実的な手段として考えられるのが銀メッキ加工だろう。
表面に銀メッキ加工を行うだけでもアンデッド対策としては有効だ。マジックアイテム化と違って可逆性もあるし、何より形見の剣をそのまま使えるというのが良い。
問題は本物の魔法の武器と比べれば効果が薄いことと、メッキは剥がれやすく使用しているとすぐに効果が落ちてしまうこと。
それこそ稀少な真銀でも使うなら話は違ってくるかもしれないが──
「……ふむ。一先ず、武器屋に相談だけでもしてみるか」
この直後私は、自分でも割と馬鹿だと思うことを実行する。




