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異世界転生した俺が本物の戦士に脳を焼かれる話  作者: 廃くじら


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第11話~岐路~

別に許可を取らなくても勝手に呼べばいいんだ。


私がそのことに気づいたのは、無事“三の町”に到着し、同行していた隊商と別れた後のことだった。


“三の町”は十あるゴートウィルの宿場町の中でも比較的規模の大きな交通のハブ。王都と南方諸国を繋ぐ南北の街道、東西に伸びる食料輸送路の結節点だ。


隊商とカーターたちはこのまま北の王都へと向かうためここでお別れ。私とマドさんは西に向かって海岸線沿いに北の辺境を目指す。


「じゃあマドさん。先に宿をとって腰を落ち着けてたら早速西に向かう隊商の情報収集に取り掛かりましょう」

「…………」

「マドさん? 先にお食事の方がいいですか?」

「…………」

「う~ん。でも今日は人も多いし、宿が埋っちゃったら困るしな~……マドさんだけ先に食事済ませていただいても──ゲフッ!」


マドさんのボディーブローが私の鳩尾に突き刺さる。


警告も予備動作もない突然の暴挙だが、私もこれにはだいぶ慣れた。反射的に腹筋に力を籠め、頭の中でテンカウントが鳴り響く前にヨロヨロと立ち上がることに成功する。


「ふ、ふふ……どうされました、マドさん? 何か嫌なことでもありましたか?」

「さもこっちを気遣ってる風な慈愛に満ちた目で俺を見るな! 嫌なことはお前だよ! 許可した覚えもないのに馴れ馴れしく愛称で呼ぶんじゃない!」

「…………?」

「だから何でそんな意味が分からないって顔をしてるんだ、お前は!!」

「え、でも、マドさんはマドさんですよね?」

「だからそんな澄んだ目で俺を見るな!! お前のそれは狂気なんだ! なまじ顔が良い分怖いんだよ!?」

「えと……お疲れなんですね? 後の段取りは私が全部やっておきますから、マドさんは先に一杯始めておいていただければ……」

「疲れてるけど! たった今疲れたけども、そうじゃなくて!!」

「……ああ! これは気が付きませんで……」

「そっと金を握らせるな!! 気を遣われんでも飲み代くらい……飲み代、くらい……クソッ」


反論の途中でマドさんは、前の町でブーツを新調したばかりで懐具合が寂しいことを思いだしたのだろう。突き返そうとした銀貨を悔しそうに握りしめる。


──大丈夫ですよマドさん。これもちゃんと借金に加えておきますけど、マドさんがパーティーを解散しようなんて言い出さなきゃ一生請求することはありませんから。


「それじゃ、私は先に宿をとって情報収集を済ませてきますので、マドさんは気にせず先に始めててください」

「…………」


マドさんは何か言い足りない様子で口をパクパクさせていたが、しかし直ぐに疲れた様子で肩を落とし、近くの冒険者向け酒場にトボトボと入って行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ファンタジーで情報収集の鉄板と言えば冒険者ギルドと酒場だ。


この世界でもその構造に差異はなく、この二つを押さえておけば必要な情報は大体手に入る。


「西に向かう護衛依頼ですか? パーティーは二人だけ? その人数で護衛依頼はちょっと──いえ、分かりました。お時間を頂ければ、他のパーティーの依頼に追加で参加できないか確認してみます」


無事に宿を押さえた私が次に向かったのは冒険者ギルド。


新米冒険者二人組の護衛依頼を受けて金を稼ぎながら旅をしたいなどという都合の良い話に受付嬢は当初良い顔をしなかったが、ヨシュアが目を潤ませてそっと手を握ればアッサリと掌を返してやる気を発揮してくれた。私自身がそれを利用して恩恵に預かっておきながらアレだが、イケメンという奴は本当に鼻持ちならない卑怯な連中である。私が私でなければぶん殴っているところだ。


「あの、それで、精一杯頑張りますので……もしよろしければこの後──」

「申し訳ありません。今日はこの後まだ回るところがありまして……」

「あっ……」


若づくりをしているが私の倍近く歳がいっているだろう受付嬢の誘いを笑顔で流し、やる気をそがない程度に餌を撒く。


「また今度、予定が(万が一)空いていれば」

「分かりました! いつでも予定は空けておきます!」


騙すような形にはなってしまうが、どうせ町を去れば二度と会うことはないだろうし、気にする必要はない。お互いの性別を逆転させてみれば割とひどい構図だし、罪悪感は全くなかった。


さて最低限の仕事はもう済ませたが、一応ここでも話は聞いてはおくか。


「ちなみに確認なんですけど、最近この辺りで物騒な話とかあります?」

「物騒な話?」

「ええ。大規模な賊の目撃情報とか、危険な魔獣でもドラゴンでも性質の悪い魔術師でも、避けた方がいいエリアとかがあれば噂話レベルでもいいので教えていただければな、と」

「ああ、そういう……」


受付嬢は少し考えこむように唇に指をあてた。


多分何も情報はないだろうなとは思っていた。ここは比較的王都に近い。本当に何か確度の高い話があれば騎士団がとっくに対処しているだろう。


だが私もマドさんに『死霊魔術師探しに協力する』と言った以上、それを疎かにするわけにはいかない。ないとは思うが、情報収集自体はしっかりしておくつもりだった。


そして万が一にもその手の情報があればその時は──


「──そう言えば一つだけ。これはただの自然現象なのかもしれないんですけど……」


だが私の甘い予想を覆し、若い顔の良い男に良いところを見せようと受付嬢は無視できない情報を捻り出してきた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その噂話は現時点で特段の問題がある内容ではなく、精々「少し気にかけておこうか」と言った程度のものに過ぎなかった。


──ここから東に向かう道沿いでアンデッドの目撃情報が増加している──


死霊魔術師、あるいはヴァンパイアのような高位のアンデッドが目撃されたわけではない。大量発生したアンデッドに村が滅ぼされたというわけでもない。それどころか現時点では異常と断定することさえできない、本当にちょっと珍しい出来事、といった程度の話。


そもそもアンデッドの自然発生自体は珍しい現象ではないし、一体発生すればその瘴気に引きずられて二体、三体と数が増えるのもままあることだ。


ただそうした自然発生したアンデッドは、戦場跡でもない限りは一定以上増えることはなく、放っておけば鎮静化するのが一般的。まして王国東部は魔獣が多く棲みついている影響で人口の少ないド田舎。そちら方面に固定客を持つ一部の商人を除けばほとんど誰も気にしていなかった。


私も普通であればこんな話を一々気に掛けることは無かったが、死霊魔術師を探すという建前がある以上は無視することもできない。


念の為のつもりで、商人やその護衛など、アンデッドを目撃したという者たちに話を聞いてみた。


結論から言うと、アンデッドの目撃情報は『自然現象と考えるにはかなりきな臭い』と判断せざるを得ないものだった。


理由はアンデッドを目撃した人間があまりに多かったこと。


一度に目撃された数は精々が数体程度、それも遠巻きに見かけたケースがほとんどで、僧侶などが積極的にこちらから仕掛けない限り襲い掛かってくることは無かったという。最初は同じ個体が彷徨っているだけかとも思ったが、目撃証言を並べて分析するとかなりの長期間、広範囲に渡ってアンデッドが目撃されている。アンデッドは負の想念や魔力によって動くものであり、そのエネルギー源は決して無限ではない。自然発生した存在ならば生者を襲うなどしてエネルギーを補給しなければ長期間の活動は難しいのだ。一体、二体なら特別恨みが強い個体といったことも考えられるが、どうもそういう訳ではなさそうだ。何か作為的なものを感じる、というのが私の所感。その裏に死霊魔術師がいるかどうかは分からないが、可能性はゼロではなかった。


──さて、問題はこれをマドさんに伝えるかどうか。


詳しい事情こそ聞いていないが、マドさんが何らか死霊魔術師に恨みを抱いていることは分かっていた。


恐らくは復讐。


今回のそれがマドさんに関わりがあるものかどうかは分からないが、彼女の気質からして少しでも可能性があるなら首を突っ込んでいくだろう──それこそ勝ち目があるかどうかもお構いなしに。


──死霊魔術師を名乗る連中は最低でも導師級。LV換算で11以上、地方や小国家レベルの英雄が対処すべき相手だ。正直、マドさんが戦うには早すぎる。


私の予定では旅をしながらマドさんに戦闘経験を積んでもらい、適当な装備と死霊対策を整えた上でそうした連中と戦ってもらうつもりでいた。


一応、この世界でのLVはあくまで技術的な高低に重きが置かれており、基礎的な身体能力はLVが上がっても然程変化しない。なのでマドさんのパワーがあれば格上相手でも勝利の可能性はゼロではないのだが、死霊魔術師相手となると大量のアンデッドが壁として立ち塞がることになるだろうし、そもそも死霊魔術師に接近するところまで持ち込めるかどうか……


──伝えるべきじゃあない。


今回の噂は無視して当初の予定通り西に向かうべきだ。これがもしマドさんの復讐相手だというならまだ話は別かもしれないが、現状その可能性は低い。無駄なリスクを背負わせるより今は確実に力と情報を蓄えてもらうべきだろう。


──だけど、それでいいのか? それは私の都合でマドさんの物語を捻じ曲げることになりはしないか? 勝ち目があるかどうかとか、そんな小人の発想でマドさんの意思を無視していいのか?


理性では無視することが正しいと分かっていたし、十人が聞けば十人がそれを支持してくれるだろう。


だが私は、理屈を超えたマドさんの強さに惹かれてついて行くことを選んだ人間だ。


自分の姑息な生き方や考えを彼女に押し付けていいのか──その日私はマドさんを酒場で待たせていることも忘れて悩み続けた。

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