表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した俺が本物の戦士に脳を焼かれる話  作者: 廃くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

第10話~コンビ~

「そっち行ったぞ!!」

「了解!!」


護衛リーダーの警告に叫び返すと、私はレイピアを振るって目の前のゴブリンを牽制し背後をとられないようポジションを調整。毒か汚物か分からない黒い液体に濡れた刃物でこちらを狙う三匹のゴブリンを引きつけ、防御に専念する。


私たちは今、ゴブリンの群れに襲われていた。


同行していた隊商が水場で昼休憩を取ろうとし、食事の準備や水汲みなどで陣形がばらけ気が弛んだタイミングでの襲撃。ゴブリンの数二〇前後に対し、こちらは私とマードレッドを含め護衛八人と十分対処可能な数ではあった。だが不意を打たれて乱戦に持ち込まれてしまい、商人たちを庇いながらということもあって、私たちは効果的な迎撃が行えないでいた。


元々単独で隊商の護衛を請け負う予定だった六人パーティーが依頼主たちと荷を囲んでガード、その輪からあぶれた私とマードレッドが自然と遊撃に回り逃げ遅れた者を救出し、敵の数を減らす役割を担う。


呪文で戦況を変えようとすれば乱戦状態で味方を巻き込んでしまうリスクがあった。多少無理をすればゴブリンの三匹や四匹、剣一本で倒せないこともないが──



──ドォォン!!



轟音を立てて景気よくホブゴブリンを吹き飛ばすマードレッドをチラと横目に収め、私は攻めっ気を抑え敵を引き付けることに専念した。


彼女が万全に戦える状況を整えることこそが自分の役割と見定め、ポジショニングで四匹目のゴブリンを引き受ける。


その期待通り、自由に暴れ回るマードレッドはゴブリンの集団を見る見るうちに半壊させ、体勢を立て直して反撃に転じた護衛パーティーの活躍もあり、私たちはそれから五分と経たずゴブリンの集団を殲滅した。




「…………」

「…………」


戦闘終結後、私とマードレッドは川の下流で武器と服にべったりとついたゴブリンの血肉を洗い落としていた。マードレッドが派手にゴブリンを粉砕していたため飛び散った血肉の量も半端ではなく、マードレッド本人は勿論、近くにいた私も盛大に巻き添えを喰らった形だ。


その汚さたるや、魔物との戦いに慣れた先輩冒険者たちが顔を顰め『後始末や警戒はこっちでするからお前らはとっとと汚れを落としてこい』と気を遣わざるを得ないほど。しつこくこびりついて落ちない体液とその臭いとに私もウンザリした表情を隠せずにいた。


「…………ぇ」

「え?」


レイピアの手入れを終え、革鎧に飛び散った汚れを濡らした布で拭っていると、マードレッドがムッツリとした表情でこちらを見ていた。


「文句があるなら言え」

「────」


どうやら巻き込んでこちらを血塗れにしてしまったことを気にしていたらしい。とてつもなく不器用ではあるが、彼女なりに謝罪しているつもりなのだろう。


「文句なんてありませんよ」

「…………」

「ホントですって。乱戦で、しかも少しでも速く片付けないといけない状態だったんだから、多少汚れるぐらいは仕方ないでしょう?」

「……これが多少か?」


多少というには私の身体は赤く染まり過ぎていて、正直どう答えたものか言葉に詰まる。


確かに今回マードレッドは力加減を誤った。その主な原因は集団戦の経験が不足していたためだが、私には先の戦いでレベルアップした直後ということも影響しているように思えた。


マードレッド本人に認識はあるまいが、ガロンたちとの戦いを経て彼女はLV3から4に成長している。今回は基礎スペックの向上程度で目に見えた大きな変化はないが、そのちょっとした差異が実戦では大きな違いを生む。致命的なミスに繋がることも珍しくないシチュエーションを怪我もなく切り抜けられたのだから汚れ程度は許容範囲だろう。


──まぁLVの概念はこっちの世界にはないし、あくまで私が感覚的にそう理解してるだけだからな。成長直後なんだから仕方ないって言ってもマードレッドには通じないか。


ちなみに私自身もLV1から2に成長していて、こちらは使える呪文が増えたりそこそこ変化はあったがここでは割愛。


落ち込む彼女をどうフォローしたものか頭を悩ませていると──


「──どうだ? 汚れは落ちたか?」

「カーターさん」


声のした方を振り返ると、ゴブリンの死体の後始末を終えたのだろう、護衛パーティーリーダーのカーターが自身も汚れた槍と盾を持って近づいてきた。


「私の方は大体キレイになったんですけど……」

「…………」

「あ~あ、楔帷子に肉片がこびりついちまってんな」


カーターが楔帷子の隙間に悪戦苦闘するマードレッドを見て苦笑。


「ま、他のことは気にせずゆっくりやってくれ。今回一番の功労者は間違いなくお前さんだからな」


カーターは当初、私たちが護衛に加わることにあまり良い顔をしていなかったが、先ほどの襲撃以降ガラリと態度が変わっていた。やはりあの数の襲撃をほとんど被害なく切り抜けられたことが大きかったのだろう。


私は面映ゆそうにしているマードレッドを見てカーターの言葉に追随した。


「ほら、褒められてますよ、マードレッドさん」

「…………」


しかし私の言葉に何故か彼女は微妙な表情をする。意味が分からず首を傾げると、カーターは私の髪をグシャグシャとかき混ぜて笑った。


「おいおい、何を他人事みてぇに。お前も功労者の一人だろうが、ヨシュア」

「……私も、ですか?」

「そうだ。お前さんもゴブリンどもを引き付けて上手く戦場を整えてただろう? 地味だがいい働きだった」

「……ああ、戦いやすかった」

「!」


カーターだけでなくマードレッドにも褒められ、思わず私は感極まり言葉を失う。


そうか。先ほどマードレッドさんが微妙な表情をしていたのは、私のことを認めて下さったからなのか。マードレッドさんが評価して下さった。私が、彼女のお役に立てた。これはもはや、私もマードレッドさんの仲間を名乗っていいのでは。いやあるいは非常に烏滸がましいことではあるが、その……相棒、なんて名乗ったり──いやいや流石にそれは言い過ぎだな、うん。こういうのはもう少し段階を踏んでお互いを知り合ってから──


「お前さんもいい腕だったぜ、マド」


──うん?


「どうも」

「なりは小さいが大したパワーだ。残りの道中もよろしく頼むぜ、マド、ヨシュ──」

「ママママママママードレッドさん!? 今カーターさんが口にした、ママママママド、というのは一体どういうことなんでしょうか!?」

「…………」


完全に冷静さを失いカーターの言葉を遮ってマードレッドに詰め寄る私に、彼女は無言のまま心底面倒くさそうに顔を歪めた。


「!? カカカカ、カーター様!? あ、あの、さ、先ほどの、マ、ママドというのは一体、どういう……!?」

「さ、さま? いや、呼び方のことか? それなら最初にどう呼んだらいいかって聞いたら本人に『マドでいい』って──」

「ママママママド、ドレッドさん!?」


自分より先に、ポッと出のオッサンがマードレッドを愛称で呼んでいた──しかもそれを本人に許可されていたという事実に、私は完全に我を忘れていた。


「わた、私もそのように、マド、さんとお呼びしても──!?」

「え? やだ」

「何でですかぁぁぁっ!?」

「キモイ」

「うきゅぅぅぅぅぅぅっ!!?」


蔑むような目で淡々と告げられ、私の全身を背徳的な快感が貫く。これが新世界──NTRへの目覚め……?


「だから何でそこで頬を赤らめてエビぞりになる。そういうところがキモイって言ってるんだ」

「フ、フフ……これ以上私を進化させたくなければ、大人しく私にも、マ、マドと呼ぶことをお許しください……!」

「……最低の脅迫だな」

「ウヒ、ウヒヒィィィィィッ!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ふざけんな! このまま泣き寝入りしろってのか!?」

「……大きな声出さないでよ」


東方へと向かう山道の途中で、一組の男女が言い争いをしていた──先日、マードレッドらに倒されたガロン一味の生き残り、ルッソとクラリッサだ。


二人は憲兵隊の追跡を何とか逃れたものの一味はほぼ壊滅状態。このまま東方経由で南方諸国に落ち延び、再起を図ろうとクラリッサは提案したが、それにルッソは猛反発していた。


「旦那も、アルマスも、皆やられちまって、このままおめおめ逃げ出せるかよ! せめて旦那たちの仇ぐらい討たねぇと──」

「のこのこ町に戻っても憲兵どもに捕まるだけよ」

「だからって──」

「だいたい、仇を討つって言ってもどうするつもりよ? あの混じり物の小娘にビビって逃げ出したくせに」

「逃げ出したのはお前も同じだろ!?」


ルッソは顔を真っ赤にして食い下がるが、クラリッサはこれ以上相手にできないと溜め息を吐いて髪をかき上げる。


「何にせよ、やるならあんた一人でやりなさいよ。あたしはもうごめんだわ」

「…………」

「……ルッソ?」


ルッソから反応がなかったので、クラリッサは彼が拗ねてしまったのかと顔を上げ──


「ひっ……!?」


ルッソの胸から半透明の腕が突き出し、彼の顔が死人のように青白くなっていることに気づいて悲鳴を上げた。


そして、その腕の正体に彼女が思い至るのとほぼ同時。


「あ、あ……っ」


彼女は背後に立つ男に首筋に噛みつかれていた。




数十秒後。


「……不味いな。やはり女は生娘に限る」


その場に残る男が物言わぬクラリッサの亡骸を地面に投げ捨て、不快そうな表情で口元を拭う。


「だが、情報は中々良いものを持っていた。まさかオルドリックの娘が生き延びていたとは……クハッ。これも運命か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ