SCENE26
別れの時。
大石は大きなボストンバッグを持っている。
湊は、車椅子で父・健一に押されている。母・佐和子も寄り添っている。
電車の接近ベルが鳴り響く。
これが「今生の別れ」になるかもしれない。その予感が、全員の胸にある。
大石「ほな、おっちゃん、おばちゃん。湊のこと……お願いします」
健一「ああ。陽向くんも、体に気をつけて」
大石、深く頷く。
そして、しゃがみ込んで湊と目線を合わせる。
大石「湊」
湊「……?」
大石「俺な、行くわ」
大石の声が少し震える。
大石「ずっと横におりたかったけど……お前が言うたんや。『自分の人生を生きてくれ』って。せやから俺、お前の分も生きて、いろんな景色見てくるわ」
湊、じっと大石を見る。
言葉の意味は分かっていないかもしれない。
けれど、湊の手がゆっくりと動き、大石の頬に触れる。
そして、改札の方を指差して、背中をポン、と押すような仕草をする。
湊「……いって、らっしゃい」
たどたどしい、でも力強い言葉。
大石の目から涙が溢れるが、それを袖で乱暴に拭い、最高の笑顔を作る。
大石「おう! 行ってくるわ!」
大石、立ち上がり、一度も振り返らずに改札を抜けていく。
遠ざかる大石の背中。
湊は、その背中をいつまでも見つめていた。
自分がかつて愛し、自分を照らしてくれた「光」が、未来へと進んでいくのを祝福するように。
・大学で写真を撮る大石。
・療養所の窓から海を見ている湊。
・桜並木。
青空にカメラがパンアップしていく。
(湊の声・元気だった頃の声で)ねえ、大石。僕、生きててよかったのかな』
(大石の声)『当たり前やろ。お前が生きた証拠は、全部俺ん中にある』




