SCENE23
春の光が差し込む体育館。厳粛な空気。
卒業生たちが整列している。
壇上の校長から、一人ひとり名前を呼ばれ、証書を受け取っている。
担任の真田が、少し震える声で名簿を読み上げる。
真田「……以上、3年B組」
「次、3年C組」
真田、名簿に目を落とし、一瞬だけ止まる。
そして、顔を上げ、会場の一番後ろまで届くような、ハッキリとした声で呼ぶ。
真田「福田、湊」
一瞬の静寂。
3年C組の列にある空席のパイプ椅子。
そこには、湊のスクールバッグと、あの日撮った写真が入った封筒が置かれている。
ガタッ。
その隣に座っていた大石が、椅子を鳴らして立ち上がる。
大石、息を大きく吸い込み、天井を突き破るような声で叫ぶ。
大石「はい!!!!」
あまりに大きな返事に、会場がどよめく。
しかし、大石は胸を張り、前を見据えている。
「ここに湊はいる」と主張するように。
真田は、微かに口元を震わせながら、深く、力強く頷く。
真田「……大石、陽向」
大石「はい!」
保護者席。
湊の笑顔の写真を膝に抱いた母・佐和子が、夫・健一の腕を掴み、声を殺して泣く。
健一もまた、大石の凛とした背中を見つめ、涙を拭う。
誰もが、その返事の意味を知っていた。
・病院の中庭(同日)
式を終えたその足で駆けつけた大石。
満開の桜。風が吹くたびに花びらが舞い散る、ピンク色の世界。
湊は車椅子に座り、膝の上に落ちた花びらを見つめている。
病気は進行し、体は痩せ、表情の変化も乏しくなっている。
大石「湊! 見てみぃ!」
大石、筒に入った二つの卒業証書を掲げて駆け寄る。
息を切らして、湊の前にしゃがみ込む。
大石「卒業したで! 俺も、お前も! ……ほら、卒業証書や」
湊(ぼんやりと証書を見る)
「……そつ、ぎょう……?」
大石「せや。俺ら、高校生やりきったんや」
大石、湊の膝に証書を置く。
そして、自分の学ランの第二ボタンに手をかける。
ブチッ、という音を立てて引きちぎる。
大石は湊の手を取り、その掌にボタンを乗せ、自分の両手で包み込むように握らせる。
大石「これ、やるわ」
湊「……?」
湊は不思議そうに、掌の黒い塊を見つめる。
大石「俺の高校生活、全部ここに入っとる。……お前は『泥棒』なんかやない」
大石の声が震え出す。笑顔を作ろうとするが、涙が止まらない。
大石「お前が俺の青春やったんや。……お前がおったから、俺の17歳は輝いてたんや」
「これからもずっと、俺はお前の『記憶係』やからな」
風が強く吹き抜け、桜吹雪が二人を包み込む。
湊は、握らされたボタンをじっと見つめる。
その瞳の奥に、一瞬だけ、かつての知性のような光が宿る。
湊、震える唇をゆっくりと開く。
湊「……ひ、なた……くん」
名前を呼ばれた。
大石の目から、堰を切ったように涙が溢れ出す。
大石は泣き笑いのくしゃくしゃの顔で、湊の膝に額を押し付ける。
大石「……あぁ、そうや。陽向や。……よう覚えてたなぁ、湊」
湊の痩せた手が、ゆっくりと動き、大石の頭に触れる。
不器用に、でも愛おしそうに、その髪を撫でる。




