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一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-  作者: 住良木薫
入院

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SCENE16

教室

夕暮れ。クラスメイトは帰っている。

大石は、湊の机に座り、湊の帰りを待っている。

ガラッ、とドアが開く。


大石「おっそいぞ湊! どこ行って……」


入ってきたのは、湊ではなく真田だった。

真田の表情を見て、大石の笑顔が消える。


大石「……先生? 湊は?」


真田「福田はもう帰った。……ご両親と一緒にな」


大石「は? なんで俺待たんと……」


真田「大石。座りなさい」


真田の重いトーン。大石、嫌な予感を感じて立ち尽くす。


真田「福田は、来週から入院することになった」

「学校には、もう来ない」


時が止まる。

カバンのストラップを握る大石の手が白くなる。


大石「……なんでですか」

「約束したやないですか! 卒業までおらせてくれるって!」


真田「限界なんだ。昨夜、家で事故になりかけたそうだ。……福田にとっても、ここより病院の方が安全なんだ」


大石「安全てなんやねん! 檻に閉じ込めるんか!?」


大石、近くの机を蹴り飛ばす。ガシャーン!と机が倒れる。


大石「あいつ、まだ俺のこと覚えてます! 笑ってます! なのに……大人の都合で勝手に終わらせんなや!!」


真田「大石!!」


真田、大石の肩を掴む。その目は、教師としてではなく、共に湊を見守ってきた同志の目だ。


真田「……一番悔しいのは、お前じゃない。ご両親だ。……そして、何もわからなくなっていく福田自身だ」

「行ってやれ。……今ならまだ、家にいるはずだ」


大石「……っ!」


大石、涙を堪えて真田を睨みつけ、そして教室を飛び出していく。

猛ダッシュで廊下を駆けていく足音だけが、校舎に響き渡る。



福田家・湊の部屋

部屋には段ボールやボストンバッグ。

母・佐和子は泣きながらリビングに退避している。

部屋には段ボール箱とボストンバッグが開けられている。

湊はベッドに座り、荷造りをしているが、手元がおかしい。


壊れた目覚まし時計、丸めたティッシュ、昔のオモチャ……。

脈絡のないガラクタばかりを鞄に入れている。


バンッ!!

ドアが勢いよく開く。


学校から走ってきた大石が、肩で息をして立っている。


大石「……ハァ、ハァ……! おい、湊!」

   

湊、ゆっくりと顔を上げる。その表情は、驚くわけでもなく、ただぼんやりとしている。


湊「……あ、大石。いらっしゃい」


大石「いらっしゃい、ちゃうわ! ……お前、入院するってほんまか!?」


湊「うん。……そうみたいだね」

   

あまりに他人事のような口ぶりに、大石の感情が爆発する。

大石、湊の鞄から壊れた時計を掴み出し、床に投げつける。


ガシャン!


大石はそれを見て、苛立ちと悲しみを爆発させている。


大石「……なんでやねん! なんで入院なんか!」

「おっちゃんもおばちゃんも、『卒業まで』言うたやんか! 嘘つきや!」

「こんなん持っていってもしゃあないやろ! 湊、お前もなんか言うたれよ!」

「『行きたくない』って! 『学校行きたい』って! 暴れたらええやんか!」


湊、投げ捨てられた時計を、怒るでもなく、ただ不思議そうに目で追う。

そして、ゆっくりと大石の方を見る。

その瞳は、嵐のような大石とは対照的に、凪いだ湖のように静かだ。


湊「……大石、声が大きいよ」


大石「大きなるわ! お前、悔しないんか!?」

「病院入ったら、もうあのアホみたいな授業も、放課後のたこ焼きも……全部終わりなんやぞ!?」


湊「……うん。そうだね」


湊は、まるで他人事のように頷く。

そして、自分の膝の上にある、以前、大石が捨てさせなかった英単語帳を撫でる。


湊「でもね、大石。……最近、家の中が迷路みたいなんだ」

「トイレに行こうとして、クローゼットに入っちゃう。夜中に目が覚めて、父さんの顔がわからなくて叫んじゃう」


湊、寂しげに、でも穏やかに微笑む。


湊「母さんが泣いてるんだ。毎日、ごめんねって隠れて泣いてる」

「だから……もう、いいんだよ」


大石「……っ!」


湊の「優しさ」と、それ以上に「自分の限界を悟ってしまった諦め」。

それが大石には痛いほど伝わる。

大石は膝から崩れ落ち、湊の鞄を抱きしめて顔を埋める。


大石「嫌や……行くなや……」

「俺がおるやんか……俺が全部面倒見る言うたやんか……」


湊(大石の頭に手を置き、子供をあやすように)

「大石はすごいね。まだ、そんなに力があるんだね」


大石「……湊?」


湊「僕にはもう、怒る力も残ってないみたいだ。……ただ、眠たいんだ」


湊はゆっくりとベッドに横になる。

荷造りは終わっていないのに、もう関心がないようだ。

大石は、涙を拭い、歯を食いしばって立ち上がる。


大石「……わかった。わかったわ」


大石は、湊が入れようとしていたガラクタを丁寧に取り出し、代わりにお気に入りの服や、二人の写真を鞄に詰め始める。

怒りを飲み込み、「記憶係」としての最後の務めを果たそうとする背中。


大石「準備したる。……俺が、最高に居心地ええようにしたるから」

「せやから……向こう行っても、俺のこと忘れんなよ。……頼むで」


眠りにつく湊の寝顔と、泣きながら荷造りをする大石の後ろ姿

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