SCENE15
福田家・台所(深夜)
深夜2時。家の中は静まり返っている。
母・佐和子がふと目を覚まし、異変を感じてリビングへ降りてくる。
台所から、シューッ……という音がしている。
佐和子「……湊?」
台所には湊が立っている。
ガスコンロの火は点いていないが、ガスの元栓が開いたままで、臭いが充満している。
湊は、やかんを火にかけていない五徳の上に置き、じっと見つめている。
湊「……お湯が、沸かないんだ」
佐和子「っ!!」
佐和子、悲鳴を押し殺して駆け寄り、ガスの元栓を閉め、窓を全開にする。
父・健一も騒ぎを聞きつけて起きてくる。
健一「どうした!?」
佐和子「ガスが……! この子、火もつけずにガスだけ出して……!」
湊「……母さん? 僕、喉が渇いて……」
悪気なく、きょとんとしている湊。
その姿を見て、佐和子の張り詰めていた糸が切れる。
佐和子はその場に崩れ落ち、湊の足に縋り付いて泣く。
佐和子「……もう無理よ。……怖い。この子が怖い……!」
健一「佐和子……」
佐和子「愛してるのに……自分の息子なのに……殺されるかもしれないなんて思いたくない……!」
湊は、泣いている母を、ただぼんやりと見下ろしている。
健一は、妻と息子を抱きしめるが、その目は「決断」をしていた。
家という「安全な場所」が、もう失われたことを悟った夜。
・高校 進路指導室
担任の真田、両親、そして湊。
湊は制服を着ているが、ネクタイが少し曲がっている。
彼は話に参加せず、窓の外の雲を目で追っている。
健一「……昨夜、ボヤ騒ぎになりかけまして。……もう、限界です」
「妻の精神状態も、湊の安全も、これ以上は守れません」
真田「……そうですか。卒業まであと少しでしたが……」
健一「来週から、海沿いにある専門の療養型病院に入ります。……もう、学校には戻れません」
真田、苦渋の表情で頷く。
そして、湊の方を向く。
真田「福田。……そういうことだ。いいな?」
湊
(ゆっくりと視線を戻し)
「……はい。ご迷惑を、おかけしました」
あまりにも淡々とした返事。
「学校を去る悲しみ」よりも、「今の状況を受け流すこと」で精一杯な様子。
それが逆に、真田の胸を締め付ける。




