SCENE13
教室の窓がすべて暗幕で覆われている。
クラスの出し物は「手作りプラネタリウム」。
家庭用の投影機が、天井に頼りない星空を映し出している。
客足は途絶え、教室内にはBGM係の湊と、受付をサボった大石の二人きり。
大石「真っ暗でなんも見えへんなぁ。これ、ホンマに客楽しんでるんか?」
湊「静かでいいじゃない。……ねえ大石、ベガとアルタイルってどれか分かる?」
大石「あー……あの光ってるやつちゃうか? 知らんけど」
湊、暗闇の中で自分の手をじっと見つめる。
その表情が曇る。
湊「……最近、暗いところが怖いんだ」
大石「ん?」
湊「目が覚めた時、自分が誰か分からなくなる時がある。真っ暗な海に一人で浮いてるみたいで……。僕の中の光も、いつか消えちゃうのかな」
湊の声に恐怖が滲む。
大石、ポケットからコンサート用のケミカルライトを取り出す。
パキッ。
オレンジ色の暖かな光が発光し、二人の顔を照らす。
大石「消えたら、俺が何回でも火ぃ点けたる」
大石、ペンライトを振り、湊の目の前で光の軌跡を描く。
大石「お前が迷子にならんように、俺が隣でピカピカ光っといたるわ。……これなら怖ないやろ?」
湊、その眩しいオレンジ色の光と、それ以上に眩しい大石の笑顔を見つめる。
湊「……ふふ。眩しいよ、大石」
大石「せやろ? 俺は輝く男やからな!」
季節は晩秋。店の前の街路樹は枯葉を落としている。
制服の上にカーディガンやパーカーを羽織った湊と大石。
霧島から言われた日がやってきたからだ。
店内のストーブの上で、ヤカンがシュンシュンと音を立てている。
霧島「待たせちゃってごめんなさいね。現像液の調整に手間取っちゃって」
大石「いやいや! 俺らもテスト期間で来れんかったんで! ……うわ、めっちゃ楽しみや」
霧島が、黄色い現像袋(「写ルンです」の分)と、少し大きめの厚紙の封筒(霧島が撮った分)をカウンターに置く。
大石「開けてええっすか?」
霧島「もちろん」
大石、ワクワクしながら黄色い袋を開け、写真を広げる。
そこには、夏祭りの下手な自撮りや、ブレている風景、変顔の大石などが映っている。
大石「ぶっ! なんやこれ、俺の顔半分切れてるやん!」
湊「ふふ、大石が動くからだよ」
大石「うわ、これ見てみ。湊、めっちゃアイス食うの下手くそやな」
二人は写真を見ながら笑い合う。
しかし、湊の手がふと止まる。写真の中の自分たちは、今よりも少し幼く、そして何より「未来への不安」を知らない顔で笑っている。
湊は、指先で写真の中の自分を撫でる。
湊「……夏だね」
大石「おう。たった数ヶ月前やのにな。……懐かしいな」
少し湿っぽくなりかけた空気を察し、霧島がもう一つの厚紙の封筒を差し出す。
霧島「こっちは、私からのプレゼント」
湊が封筒を受け取り、中の写真を取り出す。
それは、あの夏の日、店のカメラで撮ってもらったモノクロのツーショット。
二人が並んで座り、大石が湊の肩に手を回し、二人が自然な笑顔でこちらを見ている。
光と影のバランスが完璧で、まるで映画のワンシーンのように美しい一枚。
大石「……すげぇ」
湊「……これが、僕たち?」
霧島「あなたたち、すごくいい顔してたから。……現像しながら、私が元気もらっちゃった」
湊は、その写真を食い入るように見つめる。
そこには、「病気の少年」ではなく、ただの「幸福な少年」が映っている。
湊「……霧島さん」
霧島「ん?」
湊「ありがとうございます。……これ、一生の宝物にします」
湊の言葉に力がこもる。
「一生」という言葉の長さが、彼にとっては残りわずかな時間であることを、ここにいる全員が知っている。
大石は、明るく振る舞って湊の背中を叩く。
大石「せやな! 遺影に使えそうなくらい男前に撮れてるわ!」
湊「ちょっと、縁起でもないよ」
大石「冗談やんか~! ほら、そろそろバス来るで!」
大石が写真を大事そうに鞄にしまう。
湊も自分の分を胸ポケットに入れる。
二人が店を出て行く。
大石「霧島さん、また来ますわ!」
湊「ありがとうございました」
二人が去った後の静かな店内。
霧島は、カウンターに残されたネガを見つめ、独り言のように呟く。
霧島「……忘れないであげてね。その瞬間を」




