表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-  作者: 住良木薫
想い出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/27

SCENE13

教室の窓がすべて暗幕で覆われている。

クラスの出し物は「手作りプラネタリウム」。

家庭用の投影機が、天井に頼りない星空を映し出している。

客足は途絶え、教室内にはBGM係の湊と、受付をサボった大石の二人きり。


大石「真っ暗でなんも見えへんなぁ。これ、ホンマに客楽しんでるんか?」


湊「静かでいいじゃない。……ねえ大石、ベガとアルタイルってどれか分かる?」


大石「あー……あの光ってるやつちゃうか? 知らんけど」

   

湊、暗闇の中で自分の手をじっと見つめる。

その表情が曇る。


湊「……最近、暗いところが怖いんだ」


大石「ん?」


湊「目が覚めた時、自分が誰か分からなくなる時がある。真っ暗な海に一人で浮いてるみたいで……。僕の中の光も、いつか消えちゃうのかな」

   

湊の声に恐怖が滲む。


大石、ポケットからコンサート用のケミカルライトを取り出す。

   

パキッ。


オレンジ色の暖かな光が発光し、二人の顔を照らす。


大石「消えたら、俺が何回でも火ぃ点けたる」

大石、ペンライトを振り、湊の目の前で光の軌跡を描く。


大石「お前が迷子にならんように、俺が隣でピカピカ光っといたるわ。……これなら怖ないやろ?」

   

湊、その眩しいオレンジ色の光と、それ以上に眩しい大石の笑顔を見つめる。


湊「……ふふ。眩しいよ、大石」


大石「せやろ? 俺は輝く男やからな!」




季節は晩秋。店の前の街路樹は枯葉を落としている。

制服の上にカーディガンやパーカーを羽織った湊と大石。

霧島から言われた日がやってきたからだ。

店内のストーブの上で、ヤカンがシュンシュンと音を立てている。


霧島「待たせちゃってごめんなさいね。現像液の調整に手間取っちゃって」


大石「いやいや! 俺らもテスト期間で来れんかったんで! ……うわ、めっちゃ楽しみや」


霧島が、黄色い現像袋(「写ルンです」の分)と、少し大きめの厚紙の封筒(霧島が撮った分)をカウンターに置く。


大石「開けてええっすか?」


霧島「もちろん」


大石、ワクワクしながら黄色い袋を開け、写真を広げる。

そこには、夏祭りの下手な自撮りや、ブレている風景、変顔の大石などが映っている。


大石「ぶっ! なんやこれ、俺の顔半分切れてるやん!」


湊「ふふ、大石が動くからだよ」


大石「うわ、これ見てみ。湊、めっちゃアイス食うの下手くそやな」


二人は写真を見ながら笑い合う。

しかし、湊の手がふと止まる。写真の中の自分たちは、今よりも少し幼く、そして何より「未来への不安」を知らない顔で笑っている。

湊は、指先で写真の中の自分を撫でる。


湊「……夏だね」


大石「おう。たった数ヶ月前やのにな。……懐かしいな」


少し湿っぽくなりかけた空気を察し、霧島がもう一つの厚紙の封筒を差し出す。


霧島「こっちは、私からのプレゼント」


湊が封筒を受け取り、中の写真を取り出す。

それは、あの夏の日、店のカメラで撮ってもらったモノクロのツーショット。

二人が並んで座り、大石が湊の肩に手を回し、二人が自然な笑顔でこちらを見ている。

光と影のバランスが完璧で、まるで映画のワンシーンのように美しい一枚。


大石「……すげぇ」


湊「……これが、僕たち?」


霧島「あなたたち、すごくいい顔してたから。……現像しながら、私が元気もらっちゃった」


湊は、その写真を食い入るように見つめる。

そこには、「病気の少年」ではなく、ただの「幸福な少年」が映っている。

湊「……霧島さん」


霧島「ん?」


湊「ありがとうございます。……これ、一生の宝物にします」


湊の言葉に力がこもる。

「一生」という言葉の長さが、彼にとっては残りわずかな時間であることを、ここにいる全員が知っている。

大石は、明るく振る舞って湊の背中を叩く。


大石「せやな! 遺影に使えそうなくらい男前に撮れてるわ!」


湊「ちょっと、縁起でもないよ」


大石「冗談やんか~! ほら、そろそろバス来るで!」


大石が写真を大事そうに鞄にしまう。

湊も自分の分を胸ポケットに入れる。

二人が店を出て行く。


大石「霧島さん、また来ますわ!」


湊「ありがとうございました」


二人が去った後の静かな店内。

霧島は、カウンターに残されたネガを見つめ、独り言のように呟く。


霧島「……忘れないであげてね。その瞬間を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ