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一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-  作者: 住良木薫
霧島写真館

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12/27

SCENE12

二人は顔を見合わせ、霧島の後ろについて店の中へ入っていく。

そこは、外の喧騒とは無縁の、時間が止まったような空間だった。

アンティークな家具と、薬品の独特な匂い。

壁一面に、様々な人々の笑顔のモノクロ写真が飾られている。

カウンターで、霧島が紅茶を淹れている。

大石は店内を珍しそうに見回し、湊は椅子に座り、膝の上で手を握りしめている。


大石「すげえ……なんか博物館みたいやな。このデカいカメラ、まだ動くんすか?」


霧島「ええ、現役よ。魂まで映るって評判なの」

   

霧島、悪戯っぽく微笑みながらカップを置く。


霧島「どうぞ。現像にはもう少し時間がかかるから」


湊「……ありがとうございます」

 

湊、湯気の立つ紅茶を見つめる。


湊「……ここにある写真は、全部霧島さんが撮ったんですか?」


霧島「そうよ。この町の人たちの『今』を、私が切り取って保存してるの」

   


湊、顔を上げ、壁の写真たちを見る。

入学式、結婚式、何気ない日常の笑顔。


湊「写真はいいですね。裏切らないから」


霧島「裏切る?」


湊「……人間の記憶は、すぐに消えたり、形が変わったりします。でも、写真は変わらない。そこに幸せがあったことを、ずっと証明してくれる」

   

湊の声が微かに震える。

大石、ハッとして湊を見る。湊の言葉が、自分の病気への恐怖から出ていることに気づくからだ。


大石「湊……」

   

霧島は手を止め、湊の震える指先をじっと見つめる。

そして、カウンター越しに静かに語りかける。


霧島「……怖いの?」


湊「え?」


霧島「『明日』が来るのが、怖いのね」

   

湊、図星を突かれ、息を呑む。

霧島は、自身の左手薬指の指輪をそっと撫でる。


霧島「私の夫もそうだった。ある日、帰り道がわからなくなって。次は財布の使い方がわからなくなって……最後は、私の顔を見ても『誰ですか』って」

   

大石、驚いて口を開く。

湊は、まるで自分の未来を聞かされているようで、顔面蒼白になる。


湊「……辛く、なかったですか。忘れられていくのは」


霧島「地獄だったわよ。毎日泣いたわ」

   

霧島はカップを手に取り、遠くを見るような目をする。


霧島「でもね、不思議なの。言葉も記憶も消えたのに、私が隣で笑うと、彼も笑うの。私が手を握ると、握り返してくるの」

「頭の中の辞書は消えても、心が『温かさ』を覚えてる。……人間って、そんなに弱くないわよ」

   

その言葉は、ハスキーで落ち着いた声色だからこそ、圧倒的な説得力を持って二人に届く。


湊の目から、一筋の涙がこぼれる。


湊「……僕も、何かを残せるでしょうか」


霧島「残せるわ」

   

霧島、大石の方を向く。


霧島「彼を見てごらんなさい。あなたのことを、そんなに心配そうな顔で見てる」

   

湊が横を見ると、大石が泣きそうな顔で、でも必死に笑顔を作って湊を見ていた。


大石「……なんやねん。俺は見世物ちゃうぞ」


湊「ふふ……変な顔」

   

二人の間に、柔らかな空気が戻る。

霧島、カウンターの奥から、使い捨てカメラの現像済み写真が入った封筒を持ってくる。


そして、それとは別に、店にある大きなカメラを指差す。


霧島「せっかくだから、一枚撮らせてくれない? お代はいらないから」


大石「え、俺らをですか?」


霧島「ええ。今のあなたたちの顔、すごく綺麗だから。……残しておきましょ」


霧島、カメラの黒い布を被り、レンズを向ける。

湊と大石、少し照れくさそうに並ぶ。

大石が、自然と湊の肩に手を回す。湊も、大石の方へ少し体を寄せる。


霧島「いいわよ。……はい、笑って」

カシャッ――。

   

重厚なシャッター音が響く。

フラッシュの光が、二人を一瞬、永遠の中に焼き付ける。

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