SCENE11
「記憶が消える前に、海が見たい」
そんな湊のふとした願いを叶えるため、陽向が強引に学校をサボらせ、バスで海辺の町へやってきた。
潮風が吹く、寂れた商店街。
制服姿の湊と大石が歩いている。
大石は「使い捨てカメラ(写ルンです)」をカチカチと巻いている。
大石「ここ、ええ感じやん! 湊、そこに立ってみ!」
湊「えぇ、ここ? ただの看板だよ?」
大石「そのレトロなんがええねん。はい、チーズ!」
カシャッ。軽いシャッター音。
二人は笑いながら歩き進める。
ふと、湊の足が止まる。
目の前には、蔦が絡まる古い洋館風の建物。
看板には**『霧島写真館』**の文字。
ショーウィンドウには、美しいモノクロ写真が数枚飾られている。
湊「……綺麗な写真」
湊は、その中の一枚――海をバックに笑う男性のポートレート――に吸い寄せられるように見入る。
大石も覗き込む。
大石「ほんまや。なんか、生きてるみたいやな」
その時。
キィ……と入り口のドアが開き、女性が出てくる。
店主の霧島玲子だ。手にはじょうろを持っている。
霧島「……あら」
突然現れたミステリアスな大人の女性に、二人は少し身構える。
大石「あ、すんません! 勝手に見てました!」
霧島「いいのよ。……学校は?」
霧島、二人の制服を見て、少し悪戯っぽく微笑む。
湊「あ、えっと……今日は、その」
大石「課外授業です! 『海の生態系調査』っちゅうやつで!」
霧島「ふふ。……いい生態系調査ね」
霧島はすべてお見通しの様子で、湊が見ていた写真に目を向ける。
霧島「その写真、気になる?」
湊「あ、はい。……この方、すごく幸せそうな顔をしてるなって」
霧島「私の夫よ。……もう、いない人だけどね」
湊と大石、ハッとする。
湊「すみません、変なことを……」
霧島「謝らないで。彼も喜ぶわ」
霧島は湊の瞳をじっと見つめる。
湊の目にある「焦り」や「悲しみ」を、彼女の経験則が瞬時に感じ取る。
霧島「あなたたち、少し休んでいかない? ちょうど美味しい紅茶を淹れようと思ってたの」
大石「え、でも……」
大石は遠慮しようとするが、湊は霧島の不思議な引力に惹かれている。
霧島「その『調査用』のカメラ、現像できるわよ?」
大石「えっ、マジっすか!?」
霧島「ええ。今の時間は空いてるから特別に。……どうぞ、入って」
霧島がドアを開けて招き入れる。
カランコロン、と優しいベルの音が鳴る。
湊「……行こう、大石」
大石「お、おう。湊が言うなら」




