第七話:フロンティア貴族の接待と奴隷たちの夜伽事情
――フロンティア・ログハウス・昼
ログハウスが街の中心に居座り、一週間が経過した。
ダイキチがギルド長を通じて「金の力」を見せ、更に「魔法の力」を見せつけたことで、暫く静観していたフロンティア領主からの「私的な手紙」が届いた。
目的は、俺の『快適と娯楽のビジネス』に興味があること。
そして、自分もそのビジネスに噛める隙があるかを見る事。
「やれやれ、面倒くさいのが来たな」
俺はソファで寝転がり、ミリアに報告書を読ませていた。
「主。領主は、私たちが持ち込んだ『最新式ベッド(電動リクライニング式)』に大変興味を示しており、特に領主夫人は、シーナが幾人かで試用している『地球製化粧品』を熱望しているとのことです」
「フム。貴族が欲しがるのは、結局、『面倒を省く快適さ』と『自尊心を満たす贅沢』か。分かりやすいな」
シーナが、貴族向けの接待プランをまとめたタブレットを差し出す。
「ご主人様。接待プランですが、王都店で販売予定の『会員制・最高級品』をフロンティアで先行販売し、彼らを特別扱いすることで、忠誠心と優越感を同時に満たします。面倒な交渉は全て私にお任せください」
「最高だ。俺はニコニコして、ビール飲んでるだけだ。横着こそ正義だ」
俺はガンドに目を向けた。
「おい、ガンド。お前は今日、ログハウスの離れの部屋から一歩も出るな。顔怖いしな。接待の邪魔はするなよ。明日娼館券やるからガマンしろ」
「ちっ……わかりやした、主様」
ガンドは不満を口にしつつも、貴族の相手はごめんだとの思いが丸分かりの顔で、離れの部屋へと向かった。
――ログハウス・その日の夜
領主夫妻と、その側近たちが招き入れられた。
彼らは、まずログハウスの「異次元の快適さに圧倒される。
清潔感、一定の温度、そして柔らかな絨毯。これらは異世界貴族の館にはないものだった。
俺はナポリ風の軽快なスーツにノータイという、これまでのフロンティアでは見られなかった服と着こなしで出迎え、優雅に挨拶をした。
その日の気分やTPOに合わせてスーツのスタイルを変えるダイキチの着こなしは、常に貴族たちの注目と羨望を集めていた。
「子爵様、奥様、ご挨拶が遅れ、大変申し訳ご座いませんでした。ここは私の人生を維持するための快適な場所なんですよ。本日は手紙でご提案頂いた事に甘えまして、身分や難しい話は抜きで、美味しい酒と、楽しいもので盛り上がりましょう!」
商品の説明は、シーナが担当した。
シーナは、まず領主夫人にターゲットを絞る。
彼女は、アイテムボックスから取り出した地球のオーガニック高級化粧品の小瓶を、丁寧に貴婦人の前に置いた。
「領主夫人様。こちらをご覧ください。地球の化粧品は、ただ肌を彩るだけではございません。これは、いわば『時間の逆流』を可能にする技術です」
シーナは、科学的な根拠を混ぜながら、異世界にはないシワの軽減、肌のハリ、そして透明感の効能を熱弁する。
領主夫人の瞳は熱を帯びた。
「領主夫人様がこれを使えば、次の夜会での格は、他のどの貴婦人の追随も許さぬものとなります。『あの夫人はどうして歳を取らないのか?』と、必ずや注目の的となるでしょう」
「なんと…!」
領主夫人の顔には、すでに虚栄心が満ち溢れていた。
シーナは畳みかけるように、究極の餌を匂わせる。
「そして、この『至高の快適さプラン』の会員様限定で、数ヶ月後、地球の美容技術を応用した『エステティックサービス』も導入予定でございます。これ以上の贅沢は、この世界には存在しません」
次に、本題である会員権の提示に移る。
「領主様。こちらが会員制の『至高の快適さプラン』の料金でございます」
シーナが提示した年間金貨1万枚(1億円)という数字に、領主は目を剥き、一瞬躊躇した。
「い、一万枚だと!? それはあまりに高額ではないか…!」
「そうですな。確かに私共の提供する商品、サービスは高額です。しかし理由があります。子爵様にお聞きしますが、今皆さまがお持ちのグラス、飲んでいる酒、つまみにそれが乗っている食器、これらの価値は如何ほどとお思いでしょう?もし、それらを他の方に先んじて購入する事が出来たら?」
領主はハッとした顔になり、冷静な計算と判断を始める。
これは、貴族としての価値を上げるチャンスだと。
さらに、隣にいた領主夫人が会員なることを強く促す。
彼女は熱に浮かされたように、領主の腕を掴む。
「あなた! 何を二の足踏んでいるのですか! 私の夜会での格が落ちても良いのですか!? エステティックサービスは必須よ! 私のために、今すぐ契約なさい!」
領主は十分な利益の判断、さらに妻の迫力と、夜会での格が自分の地位に直結するという計算に負けた。
「ああ、契約する。シーナといったね、すぐに手配を頼む!」
領主は、一般的な庶民が月に金貨二十枚(20万円)程度を稼ぐこの世界において、この価格こそが自分と庶民を分かつ究極の壁であり、今後の使い方次第では、貴族としての格を上げ、妻の美しさを確保する「投資」であると、ほくそ笑んだ。
俺は子爵に空気を入れた後は、説明や売り物はシーナに任せて終始笑っているだけだ。ミリアは、俺の後ろで『面倒バリア』として、領主の側近貴族が馴れ馴れしく俺に近づくのを、威圧的なオーラで完全に防いでいた。
――ログハウス・その夜・深夜
貴族たちが満足して帰った後、俺はログハウスの中央に立つ。
「やーれやれ、久々に仕事っぽい事して疲れたわ」
俺はビールを飲み干し、ミリアとシーナに笑顔を向けた。
「さて、仕事の話は終わりだ。ミリア、シーナ。俺の夜の快適さも担当してもらおうかな?どう?」
俺は二人に近づき、優しい声で尋ねた。
「なあミリア。性的な契約を含む奴隷になったのは、本意だったのかい?」
ミリアは恥ずかし気に目をそらせながら答えた。
「わたくしは最初、戦闘奴隷を希望しておりましたが、一億金貨という価格では買い手がつかず、やむなく夜伽を含む契約を承諾した次第でございます。 当初は契約にありますし、夜伽はそれに伴うもので、手は抜きませんが、あのまま抱かれても「仕事」だったと思います。 でも、主が私の気持ちに寄り添ってくれようとした「サッポロ」でのデートで男性としても好ましい方だと思いました。その…夜伽は、今は愛着を伴った任務であり、幸せな時間なのです」
次に、シーナが自発的に口を開いた。
「ご主人様。私は知識奴隷であり、性的な契約は本来ございません。 でもご主人様は、私の満たされなかった知的好奇心を未来を、異世界まで見せてくれました。 私の様な人種はそんな殿方に惹かれるのは当然なのです。それに今後も好奇心と知識欲満たすための、最も合理的な献身でございますから」
俺は二人の俺への情愛と答えに満足した。
「最高に優秀で、最高に賢い奴隷たちだ。よくわかったよ」
俺は二人の服を脱がせ、キングサイズのベッドに二人を抱き上げた。
「最高に緩くて、スケベな夜だ。お前たちのその『愛着を伴う任務』と『合理的な献身』、しっかりと受け取らせてもらうぞ」
熱を帯びた夜の帳の中、フロンティアでの緩く、横着な生活は、深く深く本格化していく。




