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神に賢者の知識と更にチート貰って異世界転生した。賢者の知識で普通に地球に戻れるんですが?  作者: だい


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第46話:胸倉と指輪と首輪

その夜、リーベラの空気は変に乾いていた。


 海は静かで、波は規則正しい。なのに、コミックガーデンの裏手だけ、落ち着かない熱が残っている。


 ガンドは、灯りの届かない端で腕を組んでいた。

 サラがさっき見せた、あの顎。あの短い合図。

 ――GO。


 

 ダイキチが出てくる。いつもの缶。いつもの気の抜けた顔。

 だが、目だけは起きていた。


「……なあ、ガンド。何だよその顔」

「殿、いやダイキチよ」


 ガンドは一歩で間合いを詰めた。

 胸倉を掴む。布が鳴り、缶が揺れ、ダイキチの背が壁へ押しつけられる。


「おいおい。暴力は面倒だぞ」

「面倒でいいんだよ!」


 ガンドの声は低く、荒い。忍びの仮面を被っていない声だった。


「お前は、言わせない。決めさせない。逃げ道だけ用意して、肝心を口にしねえ」

「……口にしない方が平和って時もあるだろ」

「違えだろ!」


 ガンドは掴んだ手を離さない。


「好きな女は離すな。好きだと言える時に言え。

 迷ってる間に、取り返しがつかなくなるんだよ!」


 ダイキチが、わずかに笑った。


「……経験談?」

「おう、俺のな」


 ガンドは歯を食いしばった。


「俺は言えなかった。言う資格がないと思って、捨てちまった。

 その結果はサラの時間を削ってリクの笑いをなくした。

 だから今さら、お前が逃げるのが許せねえ」


 ダイキチの視線が逸れた。ほんの一瞬だけ、遠くを見る目。


「……逃げてねえよ」

「なら、言えや!」


 ガンドは胸倉を強く引いた。


「ミリアも、シーナも、顔に書いてらあ。

 不安も不満も、期待も。

 お前が何も言わねえから、二人は宙ぶらりんだ」


 少し離れた場所で、ミリアが立ち尽くしている。剣の柄を触り、離し、また触る。

 シーナは腕を組んで無表情を装うが、指先だけが忙しい。

 

 サラは半歩後ろで、静かに見ていた。


 ダイキチはため息をついた。

 そして、ガンドの手首を軽く叩く。


「……離せ。話す」


 ガンドが手を離す。

 ダイキチは襟を直し、缶を一口飲んで、ぽつりと呟いた。


「俺さ。地球で災厄の野郎に殺されたんだ。五十七歳で」


 ミリアが息を飲む。

 シーナの目がわずかに細くなる。


「寝て起きたら、殺されてた。簡単だろ」

「簡単ではありません」

「だよな」


 ダイキチは笑うが、笑いは乾いていた。


「娘がいて、孫もいる。大事だ。会いたい。……でも今の姿じゃ会えないだろ?。会えたとしても、幸せにならない。俺が居座ったら、せっかく俺が死んだことに折り合い付けてた、あいつらの時間が止まっちまうだろ」


 缶を置く音が小さく響く。


「この世界に送った管理者がさ、『家族の幸せは保証する』って言ったんだよ。

だから、あっちの家族の事は忘れて人生を生き直そうかってな」


 言葉が、珍しくまっすぐだった。


「俺はここで生きるって決めた。……でもな」


 ダイキチはミリアとシーナを見る。

 逃げない目で、二人の目を受ける。


「そんな俺が結婚って、言いづらいんだよ」


 ミリアが唇を噛む。

 シーナが一度だけ瞬きをする。


「俺は地球で生きないって決めた。

 だけどさ、何か今のままだとズルい気がして…」


 ガンドが、短く吐く。


「あのなダイキチ、ズルくてもいいじゃねえか」

「だよな」


 ダイキチは肩をすくめた。


「だから今言う。逃げない。先延ばしもしない」


 彼はポケットから、小さな箱を二つ出した。

 雑に見えて、指先は丁寧だった。


「ミリア」


「……はい」


 ミリアが一歩出る。強気なはずの声が、少しだけ揺れる。


「今後は奴隷じゃなくて、妻として隣に立ってほしい」


「……っ」


 箱が開く。銀の輪。飾り気は少ないが、光は真面目だ。

 ミリアは受け取る手を迷わせて、最後にぎゅっと握った。


「……面倒、増えますよ」


「いいさ。惚れた女の面倒なら望むところだよ」


 ミリアの目が赤くなる。だが泣かない。笑って頷く。


「……はい。増やします」



もう一人の大切な女性と向き合う


「シーナ」


「……命令ですか」


「お願いだ」


 ダイキチは同じ調子で言った。


「妻として隣に立って。お前が必要だ。俺の面倒を減らして?」


「最後が酷い」


 シーナは文句を言いながら、指輪を受け取った。

 受け取った瞬間だけ、指が震えたのを、彼女は誰にも見せないように握り込む。


「……承諾。条件は後で詰めます」


「うん。詰めろ。逃げないから」


 

そこで、ダイキチは振り返る。


「ガンド」


「はっ」


「ありがとな。胸倉、痛かった」


「失礼いたしました、殿」


 いい感じに締まる。はずだった。

 ダイキチは、にやりと笑う。


「そうだ。ガンドもサラに渡せよ?」


 ポケットから、もう一つ箱が出てくる。

 ガンドの顔が固まる。


「……殿、それは」


「家族の再生に、空白は作るな。ほら」


 ガンドは箱を受け取り、サラの前に立つ。

 いつもの仮面を被れない。声が荒くなる。


「……サラ」


「うん」


 サラは逃げない目で見返す。


「拙者は、謝る言葉も足りぬ。返す時間も足りぬ。

 だが……今ここにいるのは、お前が折れずに生きたからだ」


 指輪を差し出す手が、少しだけ震える。


「今までの感謝と、これからの願いを、ここに置く。

 受け取ってくれ」


 サラは、ゆっくり受け取った。

 そして、柔らかく微笑む。リクが見たら安心する笑いだ。


「……受け取る」


 その瞬間、ダイキチが手を叩いた。


「はい、次。サラ」


 最後の贈り物みたいに、彼は小さな革の輪を差し出した。

 首輪だった。


「……殿?」


「俺さ、サラに何も渡してなかったから」


 サラの口元が吊り上がる。

 悪い顔だ。


「じゃあこれね。所有者の証」


 サラは首輪を受け取り、指で撫でた。

 ニヤッと嗤う。


 ダイキチが肩をすくめる。


「ほら、所有権って面倒だろ? 整理しただけ」


「整理の仕方ァ!」


 ダイキチは悪い顔で親指を立てた。サラも真似をする。二人の連携が完璧だった。

 リクは腹を抱えて笑った。

 夜は更けた。


 ガンドが叫ぶ。


「イヤアアアア!」


 波の音が、いつも通りに戻っていく。

 その夜、リーベラは少しだけ賑やかだった。

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