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神に賢者の知識と更にチート貰って異世界転生した。賢者の知識で普通に地球に戻れるんですが?  作者: だい


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第45話:合理主義者はご機嫌ななめ

重さが消えた、という感覚だった。


 首に触れる空気が、やけに冷たい。

 何も付いていない。それだけのことが、異様に落ち着かない。


 私は――解放されたのだと、遅れて理解した。

 怒りも、喜びも、先に来ない。ただ、空白だけがあった。


普通に考えれば、自由になったことは喜ばしい。

 

拘束がない。命令がない。責任の所在が自分に戻る。

研究者としても、魔術師としても、理想的な状態だ。


 なのに、胸の奥がざわつく。


 ――準備が、足りない。


私は昔から、事故が嫌いだった。

 

研究事故、想定外、確認不足。

「大丈夫だろう」で起きる破綻を、何度も見てきた。


だからこそ、私は合理主義者になった。

感情は排除し、可能性は潰し、最悪を先に想定する。

自由とは、その先に来るものだと思っていた。


だが、ダイキチ様に買われてから、計算は狂い始めた。


最初は、知識だけだった。

命令は明確、役割は単純。

商売を支え、補佐をする、それだけでよかった。


 ――そう思っていたのに。


 ある日、ダイキチ様が言った。


「お前さ、魔法の理屈、ちゃんと書ける?」


「……書けます。式にして整理すれば」


「じゃ、やって。俺の面倒が減る」


面倒、という言葉は私の辞書にはない。

だが、彼はそれを平然と研究に持ち込む。

私は癪だったが、紙に書いた。

構築式、魔力量の配分、失敗例。


そこにダイキチ様がフラッと現れては、


「こういう魔法の構築の仕方もあるぞ?」


と、新たな視点から構築された全く新しい知識をくれる。


それを紐解き、書けば書くほど、興奮していくのが分かった。

“整理する”ことは、楽しい。

そこだけは昔と変わらない。


次に、地球へ連れて行かれた。


白い建物に明るすぎる光。

何の効率もない施術に、時間と金をかける場所。


エステ、と呼ばれるそれで、私はミリアと並んで寝かされた。

意味が分からなかった。

効果も数値化できない。目的も曖昧だ。


なのに――。


「……ふふ」


 ミリアが笑った。

 剣を振る時とも、戦場とも違う、完全に力の抜けた顔だった。


 その瞬間、胸の奥で何かが崩れた。

 私は、それを分析しようとして失敗した。


 別の日、私は“買い物”に連れて行かれた。

 棚に並ぶ瓶、布、香り、色。

 選ぶだけで、周囲が勝手に「楽しい」を作ってくる。


「これ、どっちが合理的?」

ミリアに聞かれた。

合理的? 

香りの好みで?

 私は答えられず、結局、二つとも買ってしまった。


 非効率だ。

 でも、ミリアは笑った。

 私も、笑ってしまった。


 次は、魔法の事だ。


 ダイキチに示唆された理論は完璧だった。

 構築式も、魔力量の配分も、誤差はない。

 それでも、最初の一歩が踏み出せなかった。


「大丈夫だろ」


ダイキチは、軽く言った。

――その言葉が、一番信用できなかった。


 だが、撃った。

 詠唱を省略し、構築を短縮し、結果だけを求めた。


光が走る、成功だった。


数値上も、理論上も、完全な成功。


なのに私は、息が詰まった。

理由の分からない震えと興奮が、指先に残る。


「今の顔、好きだな」

「……は?」

「成功した顔。もっとやれ」


褒め言葉として成立していない。

でも、その一言で、私は次の実験を始めていた。


戦闘でも、同じことが起きた。


合理的に考えれば、撤退すべき場面。

戦闘などせず、被害を最小に抑えるには最適解。


だが、ダイキチ様は引かない。

ミリアが前に出た、ガンドがそれを支え、私も魔法を撃つ。


計算外だった、それなのに、失敗ではなかった。

ダイキチ様と私たちは、笑えていたのだ。


私は理解した。


「世界は合理的なだけでは出来ていない」


そして今日。

 

自由になりたくなかったわけじゃない。

だが――準備のない自由は、事故と同じだ。

研究者として、それは許せなかった。


それに、リーベラでの暮らしが、私の価値観を壊していった。


「コミックガーデン」あそこでは新しい何かが蠢いていた。


紙が武器だった、数字が盾だった。

剣や魔法よりも、文字の方が人を動かす場面がある。


文字をや計算を教えるための学校。

 

最初に鉛筆を握ったのは、元兵士の若い男だった。

指が太くて、震えていた。


「これ……折れませんか」

「力を入れすぎです。骨を折る握り方ですね」


私は口にしてから気づく。

いま私は、叱っているのではなく、教えている。


男は「はい」と言い、真面目に書く。

たった一文字、形が整っただけで、顔が明るくなった。


自分の感情が理解できない。

魔法の成功より、喜びが大きい。


「先生、次は?」

 

そう呼ばれた。


私は研究者だ。

先生は、職能であって呼称ではない。

そう思ったのに、喉が拒まなかった。


ミリアが横で笑う。


「シーナ、先生っぽい」

「……合理的に言えば、私は先生ではありません」

「じゃあ合理的に、“先生役”しよ?」


 その言い方が、腹立たしいほど正しい。


 夜、帳簿を整理していると、ダイキチ様が缶を置いていった。


「寝ろ。事故るぞ」

「事故は起こしません」

「起こすやつほど言うんだよな」


 私は言い返せなかった。

 昔、研究室が燃えた夜の匂いを思い出してしまったからだ。

 熱。煙。悲鳴。誰かの手袋の溶ける音。

 “確認したはず”の手順が、私の世界を壊した。


 だから私は、自由が怖い。

 自由は、確認不足を正当化する。


 それでも、私は変わってしまった。

 笑うようになった。

 選ぶようになった。

 

誰かの成功を、自分の成功みたいに嬉しいと思ってしまった。


 ――その状態で、いきなり首輪が外れた。


私は、準備ができていない。

だから私は、怒っている。


ダイキチが、何も言わなかったことに。

命令もしない。指示もしない。

「どうしたい」とも聞かない。


合理的ではない。

だが、あの人はいつもそうだ。


考えさせる。

選ばせる。

逃げ道だけは、用意する。


それが一番、厄介だった。


私は首に手を当てる。

何もない。だからこそ、選択肢が多すぎる。


自由は、確かに正解だ。

だが、正解すぎて、今は扱えない。


――だから私は、まだここに立っている。


準備が整うまで。

自分の足で、自由を選べるようになるまで。


ミリアは不安で揺れていた。

ガンドは覚悟で立っていた。


自分は――怒っている。


自由にした。

後は選べ。

そんな、自分が惚れた男の傲慢さに。


そうか。

私は合理的な理由など忘れて、「感情」で怒っているのだ。


ダイキチは煮え切らない。

責任を取るとも言わない。

引き止めるとも言わない。


少し離れた場所で、サラがそれを見ていた。

シーナの背中。

その不機嫌を。


(……これは、言わせなきゃ駄目ね)


 言うべき人間に。

 言わせるべき言葉を。


 サラは、ガンドの方を見た。

 ほんの少しだけ、顎を上げる。


 ――GO。

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