第四話:ミリアの引き取りと奴隷たちの教育の始まり
「さあて、数日前は、まさか若返って異世界から奴隷連れてきて、みんなでショッピングとか思わんかったわ。人生って意外なことがあって驚きに満ちてるよなあ。」
急いで買ってきたユ〇クロの袋を二人に押し付け、苦笑した。
シーナは真新しい服に包まれ、ガンドはまだどこか不満げだ。
「いいか、時間はない。奴隷商には『明日』金を払うって約束したから、今日中に全部済ませる。まずはミリアを救うための金稼がなきゃな。言語理解以外の細かい知識の詰め込みは、ミリアを連れて地球に戻ってから、まとめてやることにする。その方が面倒無くていいだろ?」
俺はそう言って、札幌用に買っておいたSUVに二人を車に乗せ、クリスタルグラスや高級香辛料、スワロフスキーといった、ギルドに高く売れそうなものを買いに行く。
買ったものに対しての、二人の評価は高く、俺が用意した秘密兵器については、大いに驚きとてつもない価値と評価されるだろうと太鼓判押してもらった。
「シーナ、お前は俺の横で、こいつらの言い値を吊り上げてくれりゃいいよ。ガンドは黙って俺の後ろに立ってろ。行くぞ」
俺は二人の手に触れ、心の中で念じた。「(転移・フロンティアの宿)」
――フロンティア・中央商人ギルド
俺は奴隷商館からすぐ近くにあるフロンティア中央商人ギルドへと向かった。
俺は3ピースのスーツにソフト帽を纏い、ビジネススーツのシーナと、ノータイでダークスーツのガンドを伴ってギルドに入っていく。
俺はカウンターにクリスタルグラスと高級香辛料を並べ、優しく微笑みかけた。
「初めまして。私はダイキチ・コバヤシと申します。本日こちらにとって、嘗てない利益を保証する物をお譲りいたしたく、参りました。」
「あ、はい…」
俺はニコリと笑い、砕けた態度と言葉使いで、
「お姉さん、このガラスを見てみな?そしてこのスパイスを嗅いでみてよ。」
俺の横で、スワロフスキーのアクセサリーで、全身飾り立てたシーナが流暢に言葉を継ぐ。
「この品は、遠方の国の品物で多大な利益を生みだします。今回の品は貴ギルドに独占販売いたしますが、いかがでしょうか?」
受付の女性は慌てて、奥の幹部を呼び出した。
幹部が現れ、応接室に場所を移し、商品の鑑定が始まると、俺は悠然と椅子に座って言った。
「さて、価格交渉は面倒だ。この品を販売することで齎す長期的な利益と、それがこのフロンティアに入るという価値を考えれば、ここにある品は、合計で5億金貨ってところかな。細々とした駆け引きをするのは俺の趣味じゃない。一発で払える奴を呼んで、すぐに決めてくれないか?」
幹部たちは品々の圧倒的な価値や、見たこともない仕立ての服やアクセサリーで飾り立てたシーナやガンド、俺の佇まいに気圧され、最高責任者を交え協議をしているが、やはり5億金貨がネックになり結論がでない。
俺は二ヤッと笑い箱を取り出し、蓋を開けてこう言う。
「おっと、そういえばこちらも有ったのを忘れていましたよ。」
と、俺が出したのは、スケルトンで自動巻きの懐中時計だ。
とはいえ日本では5万前後のものだ。
しかし、この世界では、時計とは時計塔にあるもので、公爵家に柱時計が、王家に置時計がそれぞれ家宝としてある、と言われている。
その中で、懐中時計という持ち運びができ、しかも見たこともない、曇り一つないガラスが入って、中の機構が見えるこの時計のの価値がいかほどかは、商人であれば理解できる。
王家に献上すれば、王家の覚えもめでたくなり、以後の活動で出る利益は5億金貨など霞むほどの物だろう。
オークションを行って販売しても、驚くほどの金額が付き、更にフロンティアの商業ギルドの名声は天に届くだろう。
要するに、この取引は金額は5億と多いが、どう転んでもフロンティアの商業ギルドにとっては損はないのだ。
交渉は即決。
俺は一瞬で5億金貨をアイテムボックスに収納し、商人ギルドを後にした。
最後に握手をした時に、ギルド長が俺の腕時計を見ながら言う。
「次回の取引ありましたら、その腕に付けている「モノ」もお譲りいただけるのですかな?」
「そうだねえ、こちらには気持ちよく取引してもらったしね。」
俺は笑いながら、手を振ってギルドを後にした。
「よし、これでミリアの買取金は払えるなぁ、ホッとしたわw」
――フロンティア・奴隷商館
俺は奴隷商館へ戻り、カウンターに一億金貨を積み上げた。
「約束通りだ。一億金貨。ミリアを引き取りにきたよ?」
商館の女性はニッコリと笑い、ミリアの契約書を俺に渡した。
これは、ミリア、商館、俺とすべてが嬉しい取引なのだ。
ミリアは、無理だろうと思っていた自分の契約がなされたことに、呆然としている。
「ミリア。お前は俺の奴隷になった。ついてこい。シーナ、ガンド。急いで地球に戻るぞ。祝杯のビールを飲みたいからな」
俺はミリアの手を取り、シーナ、ガンドの手にも触れるようにして、心の中で念じた。「(転移・札幌のマンション)」
――札幌・ダイキチのマンション
俺たち四人は札幌の好立地にある高層マンションの一室に立っていた。ミリアは初めての転移に言葉を失っている。
「ここは地球って異世界で、俺は異世界人なんだよ。さて、時間通りにミリアを引き取れたんで、ここからは特訓の時間だ」
俺はミリアを含む三人をソファに座らせ、語り掛ける。
「ミリア、シーナ、ガンド。
これから、お前たちにかける魔法はあくまでも理解しやすく記憶しやすくするだけの物だ。1を聞き10理解できる。でもな、0を10にはできない。」
「お前達はこれからの数日間で「地球」という世界で色んな物を見ることになると思う。もしこの地球が嫌なら、地球の記憶にロックかけたうえであっちで解放してもいい。でも、少しでも興味あってワクワクするなら頑張って地球の事を知ってみろよ。」
「俺は、色々あってお前たちの世界の人間の知識が頭の中にある。だからお前たちの世界に興味あってワクワクしてるよ?」
「いいかい、これから地球の最新のビジネス理論、秘書術、護衛術、そして日本の常識を、今から数日間かけて徹底的に叩き込もう。全部吸収していけ。それがお前たちの力になる。」
三人は一瞬、苦悶の表情を浮かべたが脳活性化の魔法に耐えた。
それからは早速知識の吸収にかかる。
元学者のシーナはもはやネットを使いこなし始めている。
残りの二人も、シーナから学習すべき内容をダウンロードされたタブレットを渡されて一心不乱だ。
その間に、俺はログハウス業者へ変更箇所を告げ、残金をオンラインで振り込み、地球での準備をすべて終わらせる。
数日後、三人は立ち上がり、俺に優雅に一礼した。
「ご主人様。この度は多大な知識を賜り、感謝申し上げます。いつでも移動可能です」
「こりゃ最高にカッコいい奴隷たちだな!」
全員の準備が整った。俺は三人を連れて、ログハウスが完成している札幌郊外の山間の土地へ車で移動した。
山間の土地には、俺の完全自立型モバイル・ログハウスが完成していた。最終チェック。「よし、ウォシュレット付きのコンポストトイレ、完璧!異世界で尻が冷える心配はねぇ!」
業者を帰らせた後、俺はログハウスの中央に立ち、三人に指示を出した。
「みんな、いくぞ。この家ごと、フロンティアの街の近くに持っていく」
俺はログハウスの基礎も含めた全体を強く意識し、(アイテムボックス)に入れる。
家は、音もなく、痕跡もなく、空間から消滅した。
俺は心の中で、「フロンティア郊外、人の目につかない、水源が近い場所」を強く思い浮かべた。
次の瞬間、俺たち四人は、フロンティアの街から遠すぎず、近すぎない、静かな森の平地に立っていた。
「うーん、どう思う?」
「街からほど近くて、よろしいかと。」とシーナ
「主が決めたなら、それでいい。」と男らしいミリア
「どうせ主様は遠いとか言い出すんだから街中で」とガンド
「…おい、ガンドお前さあ…」
「あ、いや反対ってわけじゃありませんぜ?もちろ・」
「ガンドの意見は最高だ!即採用だ!よーし街に行こうぜ」
そうよ、緩く自由に生きるって決めてたのに何遠慮してんだろ?
どうせなら街中に建てて快適に過ごしてやろう。
ガンドには「娼館に行ける券」でもやろうっと。




