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神に賢者の知識と更にチート貰って異世界転生した。賢者の知識で普通に地球に戻れるんですが?  作者: だい


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第39話:父と子 ――いつかわかるために(後編)

朝のリーベラは静かだった。

潮の匂いがやわらかく、木の桟橋が陽に温められている。

昨夜の重さが嘘のように、海は何事もなかった顔で波を返していた。


ガンドとリクは、並んで腰を下ろしていた。

言葉は少ない。だが、逃げる気配もない。


しばらくして、ガンドが口を開く。


「……昨夜、殿に話したことを、すべて話そう」


それだけだった。

前置きも、言い訳もない。


ガンドは語った。

戦争のこと。

争いの理由がいかに些細で、そして取り返しがつかないかということ。

人が人を殺す理屈と、その裏にある愚かさ。

傭兵として生きてきた自分が、何を失い、何を後回しにしてきたのか。


すべてを。


リクは途中で遮らない。

分からない言葉もあっただろう。

理解できない話もあったはずだ。


それでも、リクは聞いた。

父が「一人の人間」として向き合ってくれていることだけは、分かったからだ。


波の音だけが、二人の間を満たす。


長い時間が過ぎたあと、リクがぽつりと口を開いた。


「……全部は、わからないけど」


ガンドは何も言わない。続きを待つ。


「お父さんが教えてくれたことが、

いつかわかるように……勉強する」


言葉は拙い。

でも、逃げていない声だった。


「それで……ぼくも、何か作りたい」


「作る?」


「うん。

人がこわくならないやつ。

人が、笑えるやつ」


ガンドは、ゆっくりと頷いた。


「よい。

その時が来たら、拙者もまた話そう」


約束ではない。

強制でもない。

ただ、父としての誠実な返答だった。


背後で、缶を開ける音がした。


「……終わった?」


ダイキチが、少し離れた場所に立っていた。

盗み聞きはしていないが、聞こえてしまう距離だ。


「はい」


「そっか」


それだけ言って、ダイキチは軽く伸びをする。


「じゃあさ。

今日は、地球の“嫌じゃない方”を見せとこう」


サラが、少し驚いた顔をした。


「……三人で?」


「そ。

親子水入らず。俺たちは後ろで見てる」


サラは一瞬迷ってから、リクの手を取った。


「……行こっか」


転移の門が開く。

次の瞬間、世界は色と音で満ちた。


人の波。

音楽。

叫び声と笑い声。


巨大なテーマパークだった。


「うわ……」


リクの声が、久しぶりに弾んだ。


空を飛ぶ乗り物が、頭上をかすめる。

鋼鉄のレールも、翼も見えないまま、人が宙を滑っていく。


「……飛んでる」


恐怖より先に、驚きが来た。

リクは思わずサラの袖を掴み、それでも目を離さなかった。


次に現れたのは、炎を吐く怪物だった。

咆哮。熱。赤い光。


「きゃっ……!」


サラが声を上げ、思わず一歩下がる。

だが次の瞬間、怪物は観客に向かって大げさに吠え、拍手と笑いが起きた。


「……怖いけど」


リクが言い、すぐに続ける。


「でも、みんな笑ってる」


物語の中の登場人物になりきった大人と子供たちが、杖を振る。

リクも真似をして腕を振った。


炎が、上がった。


「……え?」


一瞬、時間が止まる。


「お父さん!」


振り返ったリクの目は、きらきらしていた。


「ぼく、魔法使いみたい!」


ガンドは一瞬、言葉を失い、それから小さく頷いた。


「……ああ。立派な魔法使いでございます」


泡立つ甘い飲み物を口に含み、リクは目を丸くする。


「なにこれ……すごい」


サラは、その横顔を見て、ゆっくり笑った。

夜の影が、確かに薄れていく。


移動は、ガンドが手配した。


まずは電車。

そして、新幹線。


白い車体が滑り込んできた瞬間、リクは思わず立ち上がった。


「速そう……」


座席に座っても、落ち着かない。

窓の外が、流れ始めた途端、声が漏れる。


「……動いてる。すごく」


駅で選んだ弁当を広げる。

箱を開けるだけで、ひとつの儀式のようだった。


「これ、どれにする?」

「こっちは魚だよ」


海の匂いのする切り身に、リクは目を輝かせた。


「この世界、食べ物まで楽しいね」


東京で、空に乗り換える。


飛行機が地面を離れた瞬間、サラの手がリクの手を強く握った。

窓の外に、雲が広がる。


「……浮いてる」


怖さと、嬉しさと、理解できない感覚。

リクは声を失い、ただ見ていた。


世界は、思っていたよりずっと広かった。


飛行機で雲の上を越え、千歳に降り立つと、空気は一変した。

冷たく、澄んでいる。


レンタカーで山道を進む。

硫黄の匂い。

白く立ち上る湯気。


辿り着いた先は、登別だった。


さらに奥。

そこには、江戸の町が丸ごと残ったような場所があった。


木の門。

砂利の道。

太鼓の音。


芝居小屋では忍者が屋根から現れ、天井が割れ、床が返り、壁が倒れる。

リクやサラを含めた観客たちは、驚き、目を見張り、忍者が危険な任務を達成し、次の任務へと向かうエンディングでは、大きく拍手していた。


花魁道中では、色鮮やかな着物の女性が、ゆっくりと歩いていく。

初めて花魁を見たリクは、その妖艶な雰囲気やしぐさに目を奪われていたが、花魁と目が合い、花魁が微笑んでくれるとはにかみながらも手を振っていた。

そういう面はガンドに似たらしく、サラは将来を案じた。


子供忍者教室で鉢巻を巻き、手裏剣を投げる。

的を外し残念がるリクに、ガンドは帰ったら教える約束をした。


弓の的当てでは、ガンドが見事に中心を射抜いた。

だが、お化け屋敷では話が違った。


「……っ!」


暗闇と音に、ガンドが一歩引く。

サラとリクが顔を見合わせて、声を上げて笑った。


その夜は温泉だった。

湯に浸かり、体の力が抜けていく。


夕食のバイキングで、リクは迷った末に皿を山にした。


「……いっぱいだ」


それだけで、十分だった。


数日後。

リーベラに戻ったコミックガーデンの一角では、小さな机が並べられていた。


文字を覚えたい者。

数字を知りたい者。

物語を書いてみたい者。


リクはその中に混じり、鉛筆を握っていた。


教えているのは、元兵士、元商人の忍者たち、

そしてコミックガーデンと共に来た知識層だ。

誰も教師ではない。

教えることは、教わることだった。


少し離れた場所で、ダイキチはそれを眺めていた。


全部は分からなくてもいい。

今は出来なくてもいい。


いつかわかるようになりたいと思う人間が、ここにいる。


それだけで――今日は、十分だった。

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