表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に賢者の知識と更にチート貰って異世界転生した。賢者の知識で普通に地球に戻れるんですが?  作者: だい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/44

第37話:パリの夜に忍ぶ父(後編)

 ガンドが次に転移したのは、パリ市内、古い建物の地下。

 表向きはクラブの倉庫。夜になれば音と酒で匂いを消せる。

 だが地下は別世界だ。監視カメラ、鉄扉、顔認証、見張りの巡回。

 金が通る場所は、必ず守りが厚い。


 普通なら突破に時間がかかる。

 だがガンドは普通ではない。


 シーナから渡された簡易ジャマー。電波だけを一瞬乱す。

 カメラの映像が瞬きする、その刹那があればいい。

 ガンドは扉を壊さない。壊せば音が出る。音は目を呼ぶ。


 壁の隙間、配管、点検口。

 古い建物ほど、抜け道は多い。

 そして地球の建物は、忍びにとって素直だ。魔法の結界がない。罠がない。だから――手順通りに落ちる。


 地下の会議室には、スーツの男が三人。

 武装したギャングが六人。

 端に“技術屋”が一人。ノートPCに数字を流し、暗号で金を回している。

 地図の上には、次の襲撃候補。駅、市場、観光地。人が多くて、死にやすい場所。


 ガンドは深く息を吸って吐いた。

 次の瞬間、会議室の照明が落ちる。


 闇が来た、と理解した瞬間には遅い。

 ギャングの一人が立ち上がり、腰の銃に手を伸ばす。

 だが手が届く前に、手首が折れる。折れた手首が銃を落とす。落ちた銃が床で跳ねる前に、音が消える。

 もう一人は叫ぼうとする。声帯に空気が届かない。喉元の圧で、音が出る前に潰れる。

 三人目は机を盾にする。盾は“見えない角度”を作らない。横から落ちる。


 スーツの男が椅子ごと後ろに倒れかけた。

 胸倉を掴み、ガンドが引き寄せる。


「誰の金だ」


 男は歯を食いしばる。


「黙秘する……!」


 ガンドはゆっくり首を傾げた。


「黙秘は権利だ。だが、ここは法廷ではない」


 ガンドは男の指を一本、静かに折った。

 音は小さい。けれど骨は嘘をつかない。

 男の顔が歪む。


「次。誰の金だ」


 男は吐いた。

 ギャングの上位組織。資金洗浄の名義。仲介役。

 さらに背後に、国外の“支援者”。名前は濁すが、方向性は明確だった。


 ガンドは男を床に落とした。

 会議室の資料をスマホで撮影し、ドローンへ投げる。

 証拠ではない。“次を潰すための地図”だ。


 この夜、ガンドは三つの拠点を消した。

 倉庫。地下。隠れ家。

 そして最後に、資金洗浄に使われていた口座と仲介役の連絡網も断ち切った。


 警察は翌朝、“偶然”いくつかの摘発に成功するだろう。

 だが実際は、もう中身が空だ。逃げられない者だけが残されている。

 芽は、出る前に摘まれた。


 ガンドは夜明け前、元の通りへ戻った。

 ダイキチはそこにいた。


 何も聞かない顔で、ただ立っている。

 ミリアは不安げに、シーナは眉間に皺を寄せている。


「終わったか」


 ダイキチの声は、静かだった。


「はい。今夜分は」


 ガンドは一礼し、続ける。


「テロの看板だけではなく、裏の運び屋、加工場、資金洗浄の線まで断ちました。次に同規模を仕掛けるには時間が要ります」


 ダイキチは頷いた。

 それだけでいい、という頷きだ。


 ガンドは一瞬だけ迷い、言葉を足した。


「……殿。見せてしまいました」


「うん」


「子に。ああいうものを」


「うん」


 ダイキチは短く息を吐く。

 怒りは表に出さない。

 だが、手の甲に血管が浮いている。


「だから、もう一回言うね」


 ダイキチは淡々と告げた。


「俺は、ああいうのが嫌いなんだよね。正義とか復讐じゃない。――面倒が増えるから」


 シーナが小さく頷いた。

 ミリアは胸の前で手を握りしめる。


 ガンドは深く頭を下げた。


「……御意。次は、芽が出る前に摘みます」


 その言い方が、冷酷すぎて。

 でも、今夜はそれでよかった。


 壊されたのは場所じゃない。

 何も起きないはずの夜。家族で歩けるはずだった時間。

 それを壊した連中は、もういない。


 パリの朝は、いつも通りに始まる。

 観光客はカフェで笑い、パンは焼け、川は流れる。


 世界は何事もなかったように回り続ける。

 ――それが、ダイキチの望んだ“最適解”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ