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神に賢者の知識と更にチート貰って異世界転生した。賢者の知識で普通に地球に戻れるんですが?  作者: だい


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第33話:世界遺産、結局一番平和だった

モンサンミシェルは、静かだった。

 満潮でも干潮でもない、どちらとも言えない時間帯。

 観光客は多いが、騒がしくはない。

 石畳を踏む音と、遠くで鳴る鐘の音が、妙に調和していた。


「……綺麗だな」


 ダイキチは、城壁の上から海を眺めていた。

 写真で見たことはある。

 映像でも、何度も。

 だが、実際に目の前にすると、情報として知っている景色とは、まるで別物だった。


「なんというか……主張しない強さ、って感じだ」


 隣でミリアが頷く。

 彼女は観光客の流れから少し外れた場所に立ち、建物の影と光の境目を見ていた。


「戦うために造られた場所ではありませんね。守るためでも、誇るためでもなく……ただ、在り続けている」


「うん。壊そうとしなきゃ、壊れないやつだ」


 シーナはタブレットをしまい、珍しく画面を見ていなかった。

 記録も分析も、今日は必要ない。


「数字にすると価値が下がりそうなので、今日は測らないことにします」


「正解」


 ダイキチは軽く笑った。


 ガンドは少し離れた位置で、周囲を確認していた。

 だが、警戒というよりも、癖に近い。

 彼自身も分かっているのだろう。

 今日は、何も起きない。


「殿」


「ん?」


「……ここは、忍びの出る幕がありませんな」


「だろ?」


 ダイキチは即答した。


「罠もない。陰謀もない。英雄の出番もない。こういう場所は、下手に触らないのが一番いい」


 ガンドは一瞬だけ考え、そして小さく笑った。


「忍びとしては、少々退屈ですが……人としては、悪くない」


「それでいい」


 石段を上り、修道院の中へ入る。

 天井は高く、装飾は控えめで、音が吸われるように静かだった。


 観光客の一団が前を歩いている。

 誰かが小声で感嘆し、誰かが足を止める。

 それだけだ。


「……なあ」


 ダイキチは、ふと口を開いた。


「こういう場所ってさ、昔は色んな思惑が渦巻いてたはずなんだよな」


「はい」


 シーナが答える。


「宗教、権力、戦争、統治……数えきれません」


「でも今はさ」


 ダイキチは周囲を見渡す。


「観光地で、記念撮影して、アイス食って、帰るだけだ」


「それは、平和ということでは?」


 ミリアが首を傾げる。


「うん。最高に」


 ダイキチは即答した。


「英雄が活躍しなくていい世界って、だいたい上手く回ってる」


 外へ出ると、潮の匂いが強くなった。

 干潟を歩く人々の列が、ゆっくりと伸びている。


「壊さなかったから、残ってるんだな」


 ダイキチはそう呟いた。


「征服もしなかった。利用もしすぎなかった。ただ、残した」


 誰に言うでもなく、言葉が落ちる。


「俺さ」


 少し間を置いてから、続けた。


「世界を変えたいわけじゃないんだよ」


 三人が、黙って聞いている。


「英雄ごっこがしたいわけでもない。支配も興味ない」


 風が吹き、ローブの裾が揺れた。


「面倒がなくて、面白くて、勝手に回ってくれる場所があれば、それでいい」


 それは、何度も口にしてきた言葉だ。

 だが、今日は少しだけ違って聞こえた。


「こういう場所を見てるとさ……」


 ダイキチは、遠くの水平線を見る。


「余計なことしないのが、一番の貢献なんじゃないかって思う」


 シーナが静かに頷く。


「介入しない、という選択もありますね」


「うん。今日はそれ」


 誰も反論しなかった。


 帰り道、土産物屋に立ち寄る。

 絵葉書。

 小さな置物。

 特別な魔力はない。

 特別な意味もない。


「これでいいんだよな」


 ダイキチは会計を済ませながら言った。


「壊さず、救わず、管理もせず、ただ楽しんで帰る」


 外へ出ると、夕暮れが始まっていた。

 モンサンミシェルは、朝と同じように、何事もなかったかのように佇んでいる。


「……結局さ」


 ダイキチは、歩きながら笑った。


「今日、一番平和だったのは、俺たちじゃなくて、この場所だな」


 誰も否定しなかった。


 世界遺産は、今日も世界遺産のままだった。

 英雄も、災厄も、必要とせずに。


 それを確認できただけで、

 今日の旅は、十分だった。

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