第三話:最強従者とポンコツ護衛と学者女子
俺は奴隷商館の門番に会釈を返し、建物の中へ足を踏み入れた。
明るく開放的なエントランスは、高級な商館と見紛うばかりだ。だが、香水の奥にはかすかに獣の皮や、慣れない匂いが混ざっている。受付の女性はにこやかだった。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
俺は3ピースのスーツの胸ポケットから金貨を取り出し、テーブルに置いた。
これはこの世界の金貨ではなく、アイテムボックスから出した異世界の高純度な金貨だ。
「従者を探している。商談の補佐ができ、かつ、護衛も兼ねられる、腕の立つ者で。面倒なことは嫌いなんでね。最高級の者を」
女性は金貨の質に目を細め、すぐに奥へ案内してくれた
個室に通され、分厚いガラスの向こうに、いくつかの区画が見える。
「お客様が求めるのは、知識、あるいは戦闘能力でしょうか?」
「どちらもだ。そして、何より柔軟性。俺の常識は、おそらくここの常識とは大きく違う。それを頭ごなしに否定しない者」
女性は頷き、カタログを持ってきた。まずは、一般的な教養奴隷、そして護衛奴隷の項目を俺に見せる。
「知識奴隷であれば、こちらの『シーナ』。王都の学者の出で、読み書き算術に優れています。護衛奴隷であれば、『ガンド』。元傭兵で、剣の腕は確かです」
カタログに載っている写真と簡単なプロフィールを、俺は興味なさそうに流し見した。
(――ふむ。ガンドは確かに強そうだが、ちょっと頭が固そうだし護衛以外に使いどころはないなあ。シーナは細すぎて護衛にはならんよな。しかし、学者の出で商売判るなら俺の商会を任せられるか… 俺の緩い生活には、代わりに稼いでくれる人間が絶対いる)
「……この他に、戦闘と教養を兼ね備えた者はいないか?」俺が尋ねると、女性は少し難しそうな顔をした。
「実は、お客様のような高額取引をされる方にだけご紹介している、『特殊な在庫』がございまして……非常に優秀ですが、少々特殊な事情があり、お値段も張ります。そして、買い手がつくか、我々も頭を悩ませておりまして」
「見せてくれ」
女性は一旦部屋を出て、しばらくして一人の女性を連れてきた。
それがミリアだった。
黒髪で長身、堂々とした立ち姿。身長186cm、アスリートのような体躯は、3ピースのスーツにソフト帽を纏った俺よりも頭一つ分大きい。
その目には、絶望と、元B級冒険者の誇りが混ざり合っている。
女性がミリアの事情を説明する。
元商家の娘で、冒険者となり、護衛依頼でパーティーが全滅。
辛うじて依頼主は守ったが、賠償金が一億金貨となり奴隷に。
戦闘奴隷を希望するも高額すぎて売れず、夜伽も含めすべて可なのに在庫となっている、という話だった。
「なるほど、問題奴隷か」
俺は笑った。
「テンプレで面白いじゃない。お金なら何とかなるしな」
必要な額は一億金貨で、俺は手持ちの2000万円(約4000万金貨)を切ったところ。
一億金貨にはまったく足りない。
「悪いな、今持ち合わせがない」
俺はそう言って、商館の女性に名刺代わりの金貨を渡し、ミリアの確保を頼んだ。
「残りは明日。そうそう、さっきの二人は貰うよ。」
「そ、そのような大金を……」商館の女性は怪訝な顔をしたが、俺の3ピーススーツから溢れる奇妙な自信と、俺が持つ金貨の純度に気圧されて、ミリアの一時的な保留を了承し、ガンドとシーナを受け取って商館を後にした。
俺はすぐに宿の部屋を押さえ、部屋に入ると同時に、二人を連れて札幌のマンションに転移する。
ガンドもシーナも、目を見開いてピクリとも動かない。
まるでしかばねのようだ。
仕方がないので、シーナの胸を揉んでみた。
揉む揉むも…「きゃああ!」
「お、やっと動いたか。どうしたビックリして?」
「え、いや、だって此処は何処?」
「私は誰?」
「私はシーナですっ!」
「いや、そんな怒るなよ…俺、買主よ?ご主人よ?」
「あ、あ、そうでした、申し訳ござ・」
「あー、いや俺が悪いから、すまんすまん。」
「で、だ。お前いつまで固まってるの?」
「はッ! お前、ここはどこだ?!!」
ガンドは拳をを握って構えて吼える。
うるさかったし、生意気でちょっとイラっとしたので水弾で弾き飛ばしてやろうと思ったら考えるだけで水弾が出てた。
おお、これが考えただけで現象起こす「無詠唱」か!
こんなバカなことで身につくとは、思ってなかった。
俺、危うく異世界の山奥とかで特訓するところだったわw
ガントが気が付いたので、俺は二人に向けてこう言った。
「はーい、いいですかあ。これから大事なこと言いますから、聞いてくださいね。君たちを買った私、ダイキチ・コバヤシは異世界人で、今君たちは、異世界の日本という国に来ていまーす!」
再び、ガンドもシーナも、ピクリとも動かない。
まるでしかばねのようだ。
仕方がないので、シーナの胸を…
「はッ、ご主人様、シーナは大丈夫です!」
…ッチ、自分で再起動しやがったか、ガントは殴っとこうかな。
「でな、そんなわけで、俺は色々向こうの常識に欠けてたりするんだわ。二人にはそんなところをサポートして欲しいわけよ。」
「しかし主様、さっきの魔法といい、俺より主様のほうが腕が立つんじゃないんですかい?」
「そうだなあ、確かに戦ったら俺の方が強いだろうな。でも護衛を連れているってだけで余計なトラブル減るのさ。それに例えば相手を叩きのめさなきゃいけなくなった時も、護衛が叩く分には俺が衛兵に捕まる事も無くなるわけで、それも護衛を連れてる意味で金を出す意味なんだよ。」
「それにいずれはシーナに王都で店を任す気なのよ。その時の護衛にって意味でも、今回二人を買ったのさ。」
「ご主人様、王都の店とはいったいなにを…」
「そう、それ! 何売ろうか、何売れるかを一緒に見てもらおうかと、異世界に来てもらいました!」
「って主様、そんなに簡単に言われてもですね…」
「あー、うるさいうるさい、お前さあ、冒険者なのに冒険心足りないんじゃない? 異世界よ?ワクワクしない?」
「ご主人様!私は異世界見てみたいです!」
「シーナは可愛いな、美味しいもの食べさせてあげるからね。…おらっガント、しゃっきりしろや、不味い飴食わせるぞ!」
「酷え、普通、異世界に連れてこられたらこうですよ。」
「え、ねえシーナーぁ、そんなもんなの?」
「はい、正直言いますとそうです。」
「…なんかごめんね」
俺は、二人に浄化と、言語理解の魔法をかけてから風呂に入ってもらい、その間にユ〇クロで間に合わせの服と靴を買ってきた。
さあショッピングだが、数日前は、まさか若返って異世界から奴隷連れてきて、みんなでショッピングとか思わんかったわ。




