第29話::神様ごっこを始めた奴が一番面倒
忍者村と日本エリアが軌道に乗り始めた頃、
コミックガーデンの片隅で、少し妙な噂が立ち始めていた。
「……あの人、神様と話せるらしいぞ」
最初は笑い話だった。
誰かが酒の席で言った冗談。
忍者村の怪談と同じ、すぐに消えるはずの話。
だが、その噂は消えなかった。
場所は、テーマパーク外れの古い倉庫。
元は資材置き場だったが、今は使われていない。
そこに、数人が集まっているらしい。
「未来が見える」
「この世界は選ばれている」
「忍者も芸者も、全部“兆し”だ」
言葉は曖昧で、内容も薄い。
だが、なぜか人が集まっていた。
コミックガーデンのスタッフが、報告書を持ってログハウスに来たのは、そんな噂が出てから数日後のことだった。
「ダイキチさん……一応、ご報告です」
「ん?」
「倉庫の件なんですが。
“物語のネタ集め”って名目で人が集まってたのが、
最近ちょっと……空気が変わってきてまして」
ダイキチはビールを片手に、特に興味なさそうに頷く。
「空気?」
「はい。
原稿を見せ合う場、って感じじゃなくなってきてます。
その……“教え”みたいな言い回しが増えてきて」
「ふーん」
ダイキチはそれだけ言って、倉庫の方向をちらっと見る。
遠い。
騒音もない。
問題が起きている気配も、まだない。
「暴れてる?」
「いえ」
「金取ってる?」
「今のところは……」
「じゃあ、まだいいや」
その反応に、スタッフは少し戸惑った。
「……放っておいて、よろしいんですか?」
「うん。
“神様ごっこ”は、勝手に転ぶから」
ダイキチはそう言って、視線を戻した。
「ただし」
少しだけ声の温度が下がる。
「“神様”を名乗り始めた瞬間から、
そいつは面倒な存在になる」
その頃、倉庫の中では、
一人の男が即席の壇上に立っていた。
「恐れることはありません。
私は“選ばれただけ”です」
集まったのは十数人。
商人、職人、元冒険者。
皆、どこか居場所を探している顔をしている。
「この街が特別なのは、偶然ではない。
忍者、芝居、物語……
すべては“導き”なのです」
拍手が起きる。
誰かが、感動したように頷く。
その様子を、少し離れた建物の影から、
ガンドが無言で見ていた。
(……ああ)
彼は、確信する。
(これは“遊び”ではない)
神様ごっこを始めた人間は、
大抵、自分が面倒になることを理解していない。
ガンドは踵を返し、
何も言わずにログハウスへ向かった。
その報告を聞いたダイキチは、
ただ一言だけ返した。
「……はぁ」
深いため息。
「やっぱ来たか。
一番、来てほしくないタイプの“物語”が」
彼は立ち上がり、
ビールの缶をゴミ箱に放り投げた。
「よし。さっさと終わらせよう」
神様ごっこは、
長引くと、ろくなことにならない。




