第28話:描けない大人と、読めない少年と、最初の戦隊
コミックガーデンの裏手に、あまり人が来ない空き地があった。
資材置き場として使われていた場所で、昼間は静かだ。
そこで、ひとりの中年男が頭を抱えていた。
「……やっぱ無理だ」
男の名はバルド。
元は港湾作業員で、文字は読めるが絵は描けない。
それでも、ここで働き始めて初めてマンガを読んだ。
忍者。
怪物。
派手な技。
守るために立ち上がる話。
「……くそ。話は浮かぶのに」
地面に棒で、必死に人型を描く。
だが、線は歪み、何をしているのか分からない。
紙に描けばなお酷い。
笑われはしないが、誰も続きを待たない。
「才能が無いって、こういうことか……」
そう呟いた時だった。
「それ、変」
振り返ると、少年がいた。
小柄で、服は汚れている。
リーベラの下層出身だ。
文字は、読めない。
「……変、か」
「うん。でも、面白い」
少年は地面にしゃがみ、指で線をなぞる。
次の瞬間、男の描いた歪な人型の横に、
信じられないほど滑らかな線が重なった。
「……おい」
骨格。
動き。
ポーズ。
少年は字は読めないが、形を見る目があった。
ずっと地面や壁に絵を描いて育ってきたのだ。
「……名前は?」
「リオ」
「俺は……話を作れる」
バルドは、少しだけ胸を張った。
「戦う奴らの話だ。
一人じゃなくて、何人もで」
少年の目が輝く。
「いっぱい?」
「いっぱいだ」
「強い?」
「強い」
「忍者?」
「……忍者だな」
二人は顔を見合わせた。
その日から、奇妙な作業が始まった。
バルドが話す。
リオが描く。
忍者の動きを元にした、色分けされた戦士たち。
役割分担。
合体技。
意味のない派手さ。
「これ、変?」
「変。でも最高だ」
完成した原稿を、コミックガーデンに置いた。
題名は長い。
誰も覚えない。
だが、棚から消えるのは早かった。
「……これ、忍者なのに忍者じゃない」
「でも、ヒーローだ」
そんな感想が、勝手に増える。
夕方。
ログハウスのテラスで、ダイキチは報告を聞いていた。
「文字が書ける大人と、絵だけ描ける子供が組みました」
「へぇ」
「異世界初の、戦隊物です」
「……また増えたな」
ダイキチはビールを飲む。
「才能ってさ、
単体だと役に立たないこと、多いんだよ」
でも混ざると、化ける。
「いい文化だ」
遠くで、リオが地面に新しいポーズを描いている。
バルドは、それを必死に言葉にしていた。
誰も命令していない。
誰も管理していない。
それでも、物語は生まれた。
コミックガーデンは今日も、
予定になかった才能を、勝手に増やしていた。




