第27話:コミックガーデン、才能が増えすぎて収拾がつかない
コミックガーデンは、今日も平和だった。
――平和すぎた。
午前中から受付前に人が溜まり、スタッフは紙束の山を前に遠い目をしている。
「えっと……本日の持ち込みは三十二件です」
「昨日は?」
「二十九件です」
「増えてるな」
ダイキチは特に止めない。止める理由がない。
コミックガーデンは、描きたい奴が来て、描いた物を置いていく場所だ。
売れなくてもいい。評価されなくてもいい。
ただ「出せる場所」があるだけで、人は増える。
中では簡易机が並び、そこかしこで打ち合わせが始まっていた。
「この話、忍者出てきません」
「いいじゃん」
「魔法も無いです」
「問題ない」
「え、売れます?」
「知らん」
売れるかどうかは誰も保証しない。
でも、面白いかどうかは全員が気にする。
そこが、この場所の一番面倒で、一番強いところだった。
「ダイキチさん。これ……読んでもらえますか」
若い男が原稿を抱えてくる。
「んー、置いとき」
「え、今じゃない?」
「今は他の奴が読む」
「……それで?」
「感想、勝手に付く」
男は一瞬戸惑い、それから頷いた。
ここでは作者は守られない。
でも殺されもしない。放り込まれて、勝手に鍛えられる。
それがコミックガーデンだ。
別の机では、元商人の女が頭を抱えていた。
「一話目、重すぎません?」
「重い」
「ですよね……」
「でも、最後は良い」
「本当ですか?」
「うん。削ればな」
女はメモを取り、目を輝かせる。
誰も正解は教えないが、間違いははっきり言う。
だから、残る。
夕方。原稿の山はさらに増えていた。
「……増えすぎですね」
シーナが淡々と報告する。
「棚が足りません」
「増設しよ」
「人手も足りません」
「勝手に増える」
「……そうですね」
実際、もう増えていた。
読者だった者が作者になり、作者だった者が編集役を始めている。
誰の指示でもない。誰の計画でもない。
ただ、ここに場所があった。
ログハウスのテラスで、ダイキチはビールを飲む。
「……増えすぎだな」
でも止めない。管理しない。選別しない。
「才能ってさ、増えすぎた時が一番面白いんだよ」
遠くで原稿を巡る軽い口論が起きている。
誰も怒鳴らず、誰も殴らない。全員、自分の話を通したいだけだ。
「……いい感じだ」
ダイキチはそう言ってビールを空にした。
コミックガーデンは今日も、少し増えすぎながら、勝手に育ち続けている。




