第24話:電子の余波と、面倒くさい神認定
――日本・霞が関。
「警視庁本部・巨大おむつ事件」は、公式には「存在しなかった」ことにされた。
監視カメラの映像はすべて消去。
関係者の記憶は「極度のストレスによる集団幻覚」として処理。
その代わり、関係部署の上層部では、同じ言葉が繰り返されていた。
「……二度と、あの存在に関わるな」
会議室の空気は、重かった。
怒号も、責任追及もない。
あるのは、恐怖と諦めだけだ。
米国からの極秘回線では、FBIと国防総省が同じ結論に達している。
武力:無意味
包囲:無意味
管理:不可能
対話:成立しない(気分次第)
最終評価は、簡潔だった。
「人類が対処すべき対象ではない」
日本政府は、ダイキチを
「自然災害」「未定義現象」「触れてはいけない神」
として分類し、国家対応マニュアルの最下層へ封印した。
つまり――
放置が最適解。
――異世界・港湾国リーベラ。
その頃、当の本人はというと。
ログハウスのテラスで、ダイキチは足を伸ばし、ビールを飲んでいた。
潮風が心地よく、遠くではテーマパークの賑わいが聞こえる。
「……あー、やっと静かになったな」
隣では、ミリアが新しい指輪を眺めながら、機嫌よく鼻歌を歌っている。
シーナはタブレットで物流と売上を確認し、淡々と報告をまとめていた。
「ドラスコからの次便、予約が三倍に増えています。
特に『忍者』関連と、ガンド家族の絵本が好調です」
「へぇ……あいつ、ちゃんと“父親業”もコンテンツに昇華してるな」
ダイキチは感心したように頷く。
そこへ、少し緊張した様子のガンドが現れた。
いつもの仮面の奥に、わずかな迷いが滲んでいる。
「殿。……地球の件、よろしいのでしょうか」
「あ? ああ、アメリカと日本?」
ダイキチはあっさり言った。
「もういいだろ。向こうは『触ると死ぬ』って学習した。俺も、正直ちょっと飽きたし」
「……それで、次はどちらへ?」
ガンドの問いに、ダイキチは空を見上げる。
青い空。
何も問題が起きていない、最高の状態。
「うーん……しばらくは動かねぇかな」
「殿が、留まる……?」
「留まるっていうかさ」
ダイキチは笑った。
「今ここ、面倒が勝手に処理されて、金も回って、文化も育って、女も可愛い。わざわざ波風立てる理由、ある?」
ガンドは一瞬、言葉を失い、そして深く頷いた。
「……承知しました。では、私は殿が“退屈”を感じるまで、この街を完璧に回し続ましょう」
「それでいい」
ダイキチは立ち上がり、背伸びをする。
「俺はね、英雄ごっこがしたいわけじゃないのよ。面倒がなくて、面白い場所があれば、それでいいんだよね」
遠くで、子供たちの笑い声が響く。
忍者屋敷の屋根を駆け回る小さな影――リクだった。
「……あー」
ダイキチはその光景を見て、少しだけ目を細めた。
「世界ってさ。壊すより、こうやって“勝手に回る”方が、ずっと面白いんだよな」
彼はビールを一口飲み干す。
「さて。今日は何も起きない。最高の日だ」
異世界と地球。
二つの世界が、同時に一つの結論へ辿り着いていた。
――この男は、敵に回す存在ではない。
放っておくべき“災厄”であり、
同時に、ただの面倒くさがりな男である。
そしてダイキチは、そんな評価など知らぬまま、
今日も何事もなかったかのように、緩い一日を楽しんでいた。




