第18話:ガンドの憂慮と、最初の海を越える船
リーベラ王国の新しい港湾施設。
建設開始から三週間が経過していた。
ガンドは、自らの陣頭指揮のもと、主題である「忍者村」の櫓の最終確認中だ。
埠頭の基礎工事がダイキチの創造魔法で一瞬で終わったとはいえ、その上の木造建築や装飾は、地球から持ち込まれた重機と、リーベラ国民と従業員の共同作業でつくっていく。
ガンドの指揮は冷静かつ正確だった。
彼の忍術の知識は、単純な戦闘術に留まらず、地理、気象、そして集団を統制する情報管理術にも応用されている。
リーベラ国民の労働者たちは、彼の厳格だが公平な指導、そして決して無駄のない作業効率に、畏敬の念を抱き始めていた。
( 殿は我に「この事業を面白く回し続けろ」と命じられた。
それは即ち、この国の安全保障と経済を掌握するに等しい。
私の務めは、殿がいつ旅立たれても、この基盤が揺るがぬように、万全を期すこと。)
ガンドは作業の進捗を確認した後、王女カレンとの密談のため、チートビルの一室へと向かう。
「カレン王女様、この度のフロンティア王国との貿易再開に関する公文書、ご確認いただけたでしょうか」
カレン王女は、目の前の資料の山を前に、緊張した面持ちで頷いた。
「はい。すでにフロンティアは我々に対し、最大限の友好を示す姿勢に変わっています。ダイキチ様のお力添えに感謝いたします」
「それは表面的なことです」
ガンドは静かに言った。
「殿の力が失われたと判断された時、彼らが再び牙を剥かないという保証はどこにもありません。そこで、ご提案がございます。このチートビルの運用システムの一部と、物流の管理権限を、殿が不在の間に王女様と我々で共有できるように、今から取り決めておきたいのです」
ガンドは、王女に対し、チートビルのセキュリティシステムの概略と、非常時の対応手順を慎重に説明した。
それは、主人であるダイキチがいつまでもリーベラに留まらないことを前提とした、周到な準備であった。
カレン王女は、その姿勢に改めてガンドの忠誠心の深さを知る。
その翌日、リーベラの港湾は初めて本格的な船の到着を迎えようとしていた。
ダイキチはチートビルから埠頭へと向かう。
海上に浮かぶのは、隣国ドラスコから来たという大型の貿易船である。
船員たちは、一晩でできたという噂の、真新しい埠頭とその背後に聳え立つ異形の建物群に、戸惑いを隠せない様子だった。
「お、来た来た。あれがドラスコの船か。さあ、リーベラから最初に海を渡る商品だ」
ダイキチは、岸壁に山積みにされた梱包箱を指差した。
中には、元顧客たちが情熱を込めて創作したマンガや小説の試作品、そして、リーベラで新たに生産された地球の雑貨のコピー品が詰まっている。
ケンジは目を輝かせながら、元顧客の一人であるヒューゴと船の積み込み作業を見つめていた。
「ダイキチ殿のおかげで、私たちの物語が、本当に海を越えるのですね!」
ヒューゴは興奮を抑えきれない様子だった。
ダイキチは、それを見て、ただ楽しそうに笑っている。
「船長さん、いいか。この荷物はな、金になるかどうかより、面白いかどうかが大事なんだ。特にこの紙の束は、世界を変える力がある。ドラスコの街で、これを広めるんだ。面白いと思ったら、どんどん真似していいんだぜ?」
船長は、ダイキチの常軌を逸した言葉に困惑しながらも、その圧力に押され、荷物を請け負うのだった。
初めて海を渡るコンテンツを乗せた船は、潮風を受けて静かにリーベラの港を離れていく。
ダイキチは、埠頭の端まで出てその船を見送った。
隣には、元顧客やケンジたち従業員が、熱い視線を送っている。
(ああ、 最高に面白い瞬間だ。フロンティアの王様には、これがどれだけの価値を持つか、一生理解できまい。俺の楽しみは、こういう熱量が広がるのを眺めること。この世界はまだまだ面白くなるぞ。)
ダイキチは、腕を組みながら満足げに呟いた。
「港湾都市リーベラ、まずはコンテンツの輸出港として世界デビューだな。さて、この最初の波が、ドラスコでどんな波紋を呼ぶか、もう少し様子を見るとしよう」
彼はまだ、この新しい遊び場での成功を、しばらくの間、楽しむつもりでいるようだった。




