第17話:海風と情熱コミックガーデンの新しい風
港湾国リーベラ。
海岸線に並んだチートビル群と従業員用のアパート群を、潮風が強く吹き抜けていた。
その一角にある倉庫アパート。
一室で、フロンティア初期からの、古参の従業員であるケンジは大量の在庫リストと格闘している。
彼はフロンティア時代からコミックガーデンの在庫管理を担当しており、今回のリーベラへの移転でもその役割を担っていた。
「これよりフロンティアからの在庫品目と、日本から持ち込まれた建材リストを照合する。テーマパーク用の建材はガンド殿に引き渡す。コミックガーデン用在庫は、倉庫アパートの三棟に分けて保管だ」
ケンジの指示に、リーベラで新たに雇われた現地スタッフ数名が、戸惑い気味に立ち尽くしている。
彼らは日本からの商品を扱うこと自体が初めてであり、その効率的な管理方法に戸惑っているようだった。
「ケンジ様、この『マンガ』や『フィギュア』は、どこに並べるのでしょうか?」
新しく入った青年が尋ねる。
ケンジはリストから目を上げて言った。
「まだチートビルの展示フロアは準備中だからな。今は倉庫で完璧に管理する。大丈夫、この商品は世界を変える力を持っているんだ。丁寧に扱おう」
彼の表情には、王都での困難を乗り越え、ダイキチと共に新天地で事業を立ち上げていることへの、強い誇りと高揚感がある。
午後、王女カレンが建設中のテーマパークを視察に訪れた。
ダイキチの魔法で基礎が固められてからわずか一週間。
埠頭はすでに船が接岸できるレベルの岸壁が組み上がり、テーマパークの広大な敷地では、地球の最新鋭の重機が轟音を上げながら土を掘り、建材を積み上げていた。
「あれが…ダイキチ様の仰っていた重機ですか」
カレン王女は信じられない思いで、油圧ショベルの動きに見入った。
それらは巨大な魔獣よりも強力で、魔術師百人分以上の作業を一人でこなしているようだった。
その時、ケンジが埠頭の基礎部分の測量作業を終え、カレン王女の元へとやってきた。
「王女様、視察ご苦労様です。建設は計画通りに進んでいます。この重機があれば、二ヶ月でのテーマパーク完成は現実的です」
カレン王女はケンジの熱意ある姿に目を細めた。
「あなた方の働く姿には、強い情熱を感じます。ところで、この開発でリーベラ国内の労働者を雇用する計画はございますか?」
ケンジはすぐに頷いた。
「もちろんです。我々はすでに港湾、倉庫、建設補助として百名以上の国民を雇用しています。我々が教えるのは、単に作業方法だけではありません。効率と時間管理という、この世界の常識にない『新しい仕事のやり方』です。ダイキチ殿の目的は、この国を面白くすることですから」
カレン王女は深く頷いた。
ダイキチの力だけでなく、その影響を受ける従業員たちの姿勢こそが、リーベラ王国を変える希望だと感じていた。
その夜、チートビルのバーカウンター。
ダイキチは、王都からついてきた元フロンティアの富裕な平民層の顧客数名に呼び出されていた。
彼らはフロンティアのコミックガーデンの常連であり、熱心なマンガ・アニメファンだった。
「ダイキチ様、お忙しいところ申し訳ございません」
元顧客の一人である、雑貨商を営んでいた老齢のヒューゴが、緊張した面持ちで口を開いた。
「我々、この移住を機に、新しいことを始めたいのです」
「新しいこと?また珍しいものを買いたいってことか?」
ダイキチはウィスキーグラスを回しながら尋ねた。
ヒューゴは深く息を吸った。
「いえ。私たちは、貴方様が地球から持ち込んだ『マンガ』や『小説』に深く感動しました。特に『忍者』の文化や、『魔法少女』の物語には、計り知れない魅力があります」
彼の隣にいた若い女性が、興奮気味に続けた。
「フロンティアのあの閉塞した空気から解放されました。この新しい土地で、自分たちの物語を、マンガや小説として創作し、コミックガーデンで発信したいのです!今こそ、知識を誰も知らない新しい物語に変えたい!」
彼らの目には、金銭欲や地位欲ではなく、純粋な創作への渇望が宿っていた。
ああ、最高だよなぁ。
こういう奴らが、俺が撒いた種を育てて大きくしてくれる。
俺が独占するより、こういう連中が勝手に面白いものを作る方が、ずっと楽しい。
「なるほどね」
ダイキチはニヤリと笑った。
「いいよ。もちろん、コミックガーデンで扱ってやるさ。むしろ、国中に発信していく予定だよ?。ただし、俺の基準は厳しいぞ?『面白くないもの』は容赦なく在庫処分するからな」
元顧客たちは、その条件に顔を輝かせた。
「光栄です!ぜひ、ご指導もお願いいたします!」
翌朝。ダイキチはログハウスのテラスに出て、潮風を浴びている。
遠くでは重機が動き、ケンジたち従業員が指示を出し、ガンドは静かにその全てを監督している。
王都の制裁によって得られた平和と、新しい土地の活気が満ちていた。
そして、何よりも、昨日見た元顧客たちの創作の炎。
狙い通り、面白くなってき始めるきたぞ。
俺の楽しみは、金を儲けることでも、支配することでもない。
こういう予想外の熱量と、文化が生まれ育つ過程を、特等席で眺めることだ。
ダイキチは、今はまだ旅立ちを急ぐ必要はないと感じていた。
リーベラで始まった『日本の文化』の伝播と、クリエイターの誕生という、この新しいムーブメントが、どういう化学反応を起こすのか。それをもう少し近くで楽しむつもりだった。
彼は大きく伸びをした。
「よし、今日は埠頭の設計図でも見直すか。どうせなら、この埠頭から、面白いものがたくさん出てくるようにしないとね」




