第16話:港湾都市の夜明けと、新しい遊び場の設計図
港湾国リーベラ。
潮風が強く吹き抜ける海沿いの広大な更地。
その中心には、昨日までフロンティアの王都の権威を揺るがしていたチートビル群とダイキチのログハウス、日本で買って運んできた従業員用のアパート群が既に建ち並んでいる。
移送用のバスから降り立った従業員たちは、海を臨む新しい光景に歓声を上げた。
王都での命懸けの経験を経て、彼らの表情には不安よりも、ダイキチと共に新しい場所でやり直すことへの、士気が満ちていた。
「わー!すごい!本当に海だ!」
「空気もきれい!もう貴族の顔色を窺わなくていいんだ!」
ダイキチは、海を背に、その光景を満足げに眺める。
この開放感が、フロンティアの閉塞感とは真逆で心地よい。
従業員たちが騒ぐ中、一人の女性が、恐る恐るといった様子でチートビルに近づいてきた。
リーベラ王国の王女、カレンである。
彼女の隣には、侍従の騎士が一人立っているが、その表情には緊張の色が濃い。
王都での制裁を知っているためか、ダイキチに対する態度は、敬意と畏怖がない混ぜになっている。
「ダイキチ様、ようこそリーベラへ。従業員様方が無事到着されたこと、心よりお慶び申し上げます」
カレン王女は深々と頭を下げた。
ダイキチは特に驚いた様子もなく、ログハウスへと促した。
「別に儀式とかいらないから、楽にしてくれよ。俺たちは今日からこの国の住民なんだし。協力し合って仲良くやっていこうや」
ログハウスのテーブルを挟んで、カレン王女と向き合う。
カレン王女は背筋を伸ばし、わずかに身を乗り出していた。
ダイキチは特に急ぐ様子もなく、アイテムボックスから取り出した、コーヒーメーカーで淹れたばかりの香りの良いホットコーヒーを啜っていた。
「昨日の王都での出来事は、隣国からも詳細に伝わってまいりました。我が国の安全が、貴方様の圧倒的な力によって担保されたこと、重ねて感謝申し上げます」
カレン王女は真剣な表情で改めて頭を下げた。
「ああ、それは良かった。もうあいつらも俺たちにケンカ売ってこないだろ」
ダイキチはカップを置いて、ふっと笑った。
「まあ、堅苦しい話はいいじゃん。このコーヒー、美味しいだろ?俺の作ったマグカップもなかなかの出来だし。そんなことよりさ、早速だけど、この土地をどう使うか決めてきたんだ」
カレン王女は、目の前で繰り広げられる男の「緩さ」に戸惑いつつも、背筋を伸ばし、耳を傾ける。
「この海沿いの広大な土地をね、『忍者と日本のテーマパーク』にする。そして、海に面したこの場所だからこそ、流通に適した港湾も作る」
カレン王女は息を呑んだ。「テーマパークと港湾開発を同時に…?(忍者?日本?何のことでしょう?)」
「そう。テーマパークは、この世界の人が見たこともない『 日本と忍者』を発信していこうかなってね。純粋に面白くて、人を呼び寄せる。 そして、流通に適した港があれば、俺たちのマンガや忍者みたいなコンテンツが、この世界中に広がりやすくなるだろ?」
ダイキチは、王女の目を見ながら、楽しそうに続けた。
「独占する事業として考えているわけじゃないよ?俺が楽しいのは、異世界人がこのコンテンツに刺激を受けて、漫画家になったり、新しい劇団を作ったり、文化として勝手に広げていくのを眺めることだ。ここは、そのための最高の流通窓口ってわけだ」
カレン王女は、その壮大かつ文化的な動機に圧倒されつつも、これが国を救う唯一の道だと確信した。
そして、国の命運をダイキチに委ねる前に、聞かねばいけないことがあった。
「ダイキチ様にお聞きしたいことがございます」
「ん?、なにかな?」
「『 日本と忍者 』とは何でしょうか?。いえ、それ以前に『 この世界の人が見たこともない』、『異世界人がこのコンテンツに刺激を受けて 』とか仰られていたのはどういう意味でしょうか?」
「あれ?、言ってなかったっけ?、俺って元々『 災厄の賢者』が異世界行って、そこで殺された現地人よ? 災厄の賢者の知識奪ってこっちに来たのよ」
「で、では、ダイキチ様はこちらの世界を、憎まれていらっしゃるのでしょうか?」
「いんや、全く?そりゃ向こうに心残りもあるけど、こっちで楽しんでるし、ミリアやシーナ、ガンド達とも会えたしさ」
「承知いたしました。この計画の実行に、リーベラ王国は全面的に協力いたします。陛下には私から詳細を説明し、必要な権限を移譲していただきます。」
協定が結ばれた直後、ダイキチは立ち上がった。
「じゃあ、サクッと始めますかね」
「さ、サクッと、ですか?手配するにも、数ヶ月は……」
「いや、今回は俺達がやるから大丈夫。カレンは見てなよ」
ダイキチは屋上に上がると、海辺の広大な土地を見下ろした。
下には、ガンドと従業員たちが控えている。
「創造魔法は連発できないから、まずは骨組みと基礎だ。あとはアイテムボックスの力で、みんなでやろうか」
ダイキチはまず、海に向け手をかざすと、創造魔法を発動した。激しい魔力の光と轟音とともに、海底から強固な岩盤が隆起し、巨大な埠頭の基礎部分が一瞬で完成した。
続いて、テーマパークの敷地の境界線が、同じく魔法によって硬い石の壁で区切られる。
ダイキチは疲労の色を隠すように笑った。
「魔法のチートはここまでだ。あとはこの重機と、俺の従業員の技術でやる。これなら、テーマパークの基礎は一週間。完成は二ヶ月でいけるだろ。港の開発も平行で進められる」
ダイキチは次の瞬間、アイテムボックスから大量の最新鋭の重機と、精密に加工された日本の建材を取り出し、広大な土地に配置していった。
カレン王女と騎士は、その超絶的な速度と、次々と現れる「道具」に言葉を失い、恐怖すら感じる目でその光景を見つめた。
「す、凄まじい……」
カレン王女は思わず呻いた。これほどの開発を、人間が短期間に行うなど、想像すらできない。
夕食時、簡易食堂で、従業員たちが新天地での再出発を祝う中、ダイキチはガンドを呼び出した。
「ガンド、いいか。ここからはお前がリーベラ事業の総責任者だ」
ガンドは恭しく頭を下げた。
「御意。全ての責務、確かに拝命いたします」
ダイキチは肩を竦めた。
「重責とか考えるなよ。お前には『忍者と日本のテーマパークの完成と運営』と、『リーベラ国内の流通と治安の管理』を任せる。俺がいなくても、この事業が面白く回り続けるシステムを作るんだ」
「俺は、お前が作ったリーベラの『忍者と日本のテーマパーク』と、発展した港が、この世界でどんな評判になるか見物させてもらうよ」
ダイキチの飄々とした態度は変わらない。
しかし、託された役割の重さと、主人の信頼の深さを理解したガンドの瞳は、忠誠心に燃えていた。
「必ずや、殿のご期待以上の結果を出しましょう。」




