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最終章

「キャロライン、ローランド公爵は諦めなさい」

 まるで今日の天気の話をするかのようなさり気なさで父親のマーカスが姉に告げるのを聞き、エルストン子爵の三女マーゴは飲みかけていた紅茶のカップを宙で止めた。

 ローランド公爵デイヴィッド・エリック・フォントンは今シーズン(と言うかおそらく独身の間はずっと)社交界一結婚したい独身貴族で、遠縁ではあるがエルストン子爵家の親戚でもある。

 以前はそれほど親しくもなかったのだが、今年になって彼は頻繁に子爵家を訪れており、距離間もずっと近くなった。もっぱら主である父親かマーゴとその親友のリラに会いに来ているのだが、この絶好の機会を母と2シーズン目を迎えた姉が逃すわけがなく、隙を見つけてはデイヴィッドを捕まえて振り向かせようとしているのは確かだ。

 彼自身はキャロラインがどうというより、結婚そのものに興味がなく、だからこそマーゴやリラと過ごす事を好んでいるのだが、母や姉にとってみたら知った事ではないらしい。デイヴィッドとキャロラインが世間で噂になっているのをいいことに、他の令嬢に対して牽制したり、噂を事実にしようと躍起になったりしている。

 それでもなかなか靡かないデイヴィッドに、2人が苛立ち始めているのは知っていた。あげく先日の家族でのピクニックでは彼が2人を全くに近いほど無視し、すべて友人に託してしまった事に対しては後の怒りようが凄まじかった。ただ、デイヴィッドもそれだけ辟易しているという事だろう。そろそろ潮時である事は事実だ。

 もっとも、マーゴには母と姉がそれで納得するとは思えなかったが。

「どうしてですのお父様!?」

「そうですわ貴方!公爵はきっとキャロラインに好意を持ってくれているに決まっています!ただ、少し変わったお方だから素気なくされているだけで、あれは照れているのですわ!!」

 言いきる母親の理論の破天荒さに、マーゴは思わず口元を引き攣らせる。少しどころか、だいぶ無理やりすぎる考え方だ。もし社交界で渡り合っていくのにこれだけの勘違いぶりが必須と言うのならば、マーゴは間違いなく社交界ではおぼれ死ぬだろう。

 マーゴの内心に同意してか、傍らに座っていたリラがパタリと尻尾を揺らした。

「エレーナ、キャロライン。君たちも本当はわかっているんだろう?どう足掻いても、公爵、デイヴィッドがキャロラインに求婚してくる事はあり得ないよ。望みがない男は諦めて他に目を向けなさい。オルレッド子爵なんか、昨年から気にしてくれているではないか」

 姉には悪いが、父親の言葉は事実だ。ただ、マーゴが言えば角が立つので、彼女はあくまでお行儀よく紅茶を飲みながら聞いている。しかし本心では、父親の援護をしたくてたまらなかった。

「お父様はどうして諦めろなんて仰るの?公爵家との縁談なんてこんな名誉なことはないわ。むしろお父様が勧めてくださるべき事なのに、どうしてそんな事を仰るの…?」

 キャロラインの涙ぐむ声をどこか白けた気分で聞いてしまう事は妹として失格かもしれない。やれやれ、と皆には気がつかれないようにマーゴはこっそり溜息をつく。

 確かに、デイヴィッドが姉と結婚し公爵家とより近しい縁戚になれるならばそれは非常に名誉な事だ。

 けれどデイヴィッドが女性不信で結婚を嫌悪しているのは、友人であり愚痴の聞き役であるマーゴとリラが一番良く知っている。最近はますます憂い顔になっており、友人としては非常に心配しているのだ。

だから本当に、そろそろ母と姉には諦めてほしいのだ。結婚を望む令嬢たちから逃げに来ている親戚の家で結婚を迫るような可哀そうな事をしないでほしい。

もしこれ以上姉たちの攻勢が激しくなったら、この家に来なくなってしまうかもしれない。

彼曰く、自分たちと過ごす間は気楽でいられるそうだし、マーゴとリラにとっても彼は大事な友人である。彼がこの家を訪れなくなったら、まだ社交デビューしていない自分たちはなかなか彼に会えなくなってしまう。それがマーゴには嫌だった。

「オルレッド子爵のどこが悪い?彼も十分男前だし何よりお前を好いてくれている。デイヴィッドはお前をただの遠縁としか思っていないし、彼と結婚してもお前が幸せになれるとは私には思えないのだよ」

「そんな、ひどい…!!」

 本格的に泣き出してしまった姉に、マーカスは眉を八の字にして困った顔をする。さめざめと泣く姉の隣で、母親のエレーナが愛しい娘の背中を擦って慰めていた。

 そんな家族を少し離れたソファで見守るマーゴとリラは、いつまでも手つかずのまま放置されている3人のティーカップの中身を、勿体ないと思いながら一人黙々とお茶を飲んでいた。いろんな意味でお腹がいっぱいだとはリラ以外の誰にも言えないし、言うつもりもなかった。



 結局、決着のつかなかった家族会議を終えた翌日。

 マーゴは珍しく父親とリラと3人(?)でピクニックに出かけた。母と姉がいないのは、昨日からの気まずさがまだ残っているからだ。末娘で昔は体の弱かったマーゴを、父は他の娘より可愛がっており、時折こうして一緒に出かける。また、そんな時もリラを忘れず大切に扱ってくれる父親をマーゴもまた慕っていた。

「マーゴは昨日の事、どう思ってる?」

「お父様の言うことが正しいと思うわ。これ以上お母様やお姉様たちが迫ったら、ヴィッドは発狂しちゃうわよ」

 花畑を歩いている途中で不意に父親に聞かれて、マーゴはあの時思った事を率直に答える。歯に衣を着せない娘の言葉を、子爵は特徴的な糸目をにこにこさせながら黙って聞いていた。

 マーゴは、母と2番目の姉が自分をあまり好いていない事を知っている。どちらかと言えば存在を気にしていないと言った方が正しいかもしれない。そのため、母と姉がいる場面では本心を出す事をしないが、父親だけの時は素直に意見を出す事にしていた。

「やはりマーゴも私と同意見か。まあ、一番デイヴィッドに近いのは君たちだから、わかっているのは当たり前かな」

 そう言いながら、父娘の間を歩くリラの頭を撫でる。

「キャロラインも本当はわかっているんだろうけどね…」

 溜息を吐きながら苦笑するマーカスにマーゴは尋ねる。

「ヴィッドと結婚するのって、そんなに拘る事なのかしら。社交界の令嬢みんなの憧れだっていう事は聞いているけれど」

 眉目秀麗、十分すぎる財産と国でも指折り数えられる名家の家長。どれを取ってもデイヴィッドが夫としての条件が最高級である事は知っているが、社交界デビューもまだで、しかも世論と少し関心がずれているマーゴにはいまいち理解しきれないのも事実である。

 世間ずれしていない末娘に、マーカスはさっきとは違った種類の苦笑を浮かべて、マーゴの頭を軽く撫でる。エメラルドのような澄んだ娘の瞳を見つめながら尋ねた。

「マーゴだったら、どんな人と結婚したい?」

 唐突な質問に、マーゴは可愛らしく首を傾げ、それからおもむろに隣を歩くリラを見る。大好きな親友と顔を合わせてにっこりと笑むと父親に視線を戻した。

「リラと一緒にお嫁に行かせてくれる人かしら。今みたいに邸内で一緒に暮らす事を許してくれる人なら二つ返事でお嫁に行くわ」

 今度は違った意味で世間からずれた娘の言葉に、子爵はとうとう堪えきれず噴き出す。娘が唯一と言っていい友であるリラに執着しており、彼女と離れたくない事は知っていたが、まさか夫を探す第一条件がリラだとまでは思っていなかった。

 そんな父親の胸中を半ば察して、マーゴは不貞腐れたように顔を背ける。

「いいじゃない。だって、本当にそれが一番で唯一の条件なんだから。それさえ許してくれるなら、どんなに退屈だって堅苦しくたって我慢するわよ。私はキャロライン姉さまのように美人でもなければ、メアリー・グレイお姉さまのようにお淑やかでもないもの。高望みはしちゃいけないの。わかってるくせに、お父様の意地悪」

 2番目の姉のキャロラインは社交界で一番ではないにしろ、かなり注目を集める美人だ。金に近い褐色の髪はシャンデリアの光にいつも眩く光り、ドレスアップした姿は妹のマーゴから見ても美しい。長女のメアリー・グレイは容姿こそキャロラインに劣るものの、話上手の聞き上手で、優美で洗練された気品のある女性である。

 出来の良い2人の姉がいる上に、マーゴは幼い頃体が弱かった事もあって母親からは散々自分に対する不満を聞かされてきた。誰かに嫁ぐなどまだ遠く先のようにしか思えないが、その時は高望みをするまいという事は、小さい時から決めてきた事だ。唯一の望みでさえ、自分にとっては分不相応な事かと思う。けれどどうしてもこれだけは譲れないのだから仕方がない。

 目標として歩いてた大きな木まであと少し。残り少しの距離を小走りでたどり着くと、マーゴはくるりとスカートを翻して父親の方を向いて微笑む。

「私とリラの事、一緒にもらってくれるっていう奇特な殿方がいたらそれで大歓迎よ。20くらい年が離れていても気にしないわ。もちろん、素敵な人だったらもっと嬉しいけれどね」

「何の話をしてるんですか、一体?」

 突如割り込んできた声に、マーゴはびっくりして後ろを振り返る。すると、そこには外出用のジャケットをしっかり着たデイヴィッドが穏やかにほほ笑んでいた。

「ヴィッド!?」

「やあ、マーゴ。こんにちは、エルストン子爵」

「マーカスで構わないと言っているだろう?」

 にこやかに答える父を見て、マーゴはデイヴィッドがここにいる事が彼の企みである事に気が付く。マーカス・リースエルという人間は何かを企む事が大好きな人間なのだ。今回はたまたま嬉しい企みだし、教えてくれなかった事にさしたる不満はないが、実の娘を引っかけるのは止めてほしいと時々思う。

 そんな娘の思惑など気にもせず、マーカスはさっきまで父娘で話題にしていた事をデイヴィッドに話している。わざわざ他人に聞かせる話でもないどころか恥にもなりかねない話なので慌ててマーゴが止めようとすると、デイヴィッドが意外な事を口にした。

「なら、マーゴは私のところに来たらいいんじゃないか?」

「………は?」

 あまりにもさり気なさすぎるが中身は極めて重要なその言葉に、マーゴはピタリと動きを止める。

 そんな彼女の様子に気が付いているに違いないのに、デイヴィッドは我関せずと話を続けるのだから驚きだ。マーカスが話を止めないのも幼い少女にはよくわからない。

 デイヴィッドは過去に婚約者に裏切られてから、女性不信の上、結婚に対して嫌悪感を抱いているのではなかっただろうか。言いよる貴婦人たちを極度に冷徹な態度で追い払い、親族を始めとした年配の女性たちから持ち込まれる縁談に辟易して始終マーゴとリラに愚痴を言っていたはずだ。

 それがどうしていきなり積極的に結婚を匂わせる発言ができるのかがマーゴにはわからない。それもまだ社交界デビューしていない少女相手に、だ。

「私なら、君がリラと一緒に来てくれる事は大歓迎だ。むしろ進んで一緒に来てほしいけど」

 毒気なく笑う姿は彼の二つ名である『氷の貴公子』を覆し、むしろ太陽のような眩さだ。

 呆気にとられて口を開いたままの主人を心配してか、それとも自分の名が出た事に反応してか、リラがマーゴに身体を摺り寄せてきて、ようやくハッと我に返った。

「ヴィッド、熱でもあるの?」

 第一声をそう声かけてから、マーゴは小さな手をデイヴィッドの額に伸ばす。身長差がありすぎて、精一杯背伸びをしても額にはぎりぎり指先が届いただけだったが、どうやら熱はなさそうだ。

「ひどいな」

「だって私はまだ14よ?さっきの話だってあくまで仮定だもの。本気にするなんておかしいわ。そりゃ、お嫁に行く時はリラも一緒ってところは譲れない事実ではあるけれど」

 そう言いながら、デイヴィッドの額を軽く叩く。こんな親しい動作も、おそらく自分だから許されている事なのだとマーゴは知っているが、それも彼女がまだ社交界デビューを果たしていない14の少女だからなのだ。

 そして、そんな少女にいきなり結婚の話をするデイヴィッドが甚だ性格が悪く思えてしまった。いくら尊敬しているからといっても、そういうところはマーカスに似てほしくない。

 そう告げると、デイヴィッドは噴き出し、マーカスは情けなさそうに眉を下げる。

「マーゴ、それはひどくないかい?」

「そうかもね。でも好きよ、お父様」

 にっこりと笑って父親に近づくと、背伸びして頬にキスをする。それを嬉しそうに受け止めたマーカスは、笑いながら娘をギュッと抱きしめた。

「私も好きだよ。可愛い私のお姫様」

 そうして頬にキスを返すと、今度は真剣な顔つきでマーゴを覗き込んだ。

「デイヴィッドがお前を本気で欲しいと言っても、可愛すぎて手放したくないんだよ。でも、彼以上にお前をお前らしくしてくれる男はいないとも思ってる。だから、許したんだ」

「……ちょっと待って、お父様。それ、冗談じゃないの?」

 糸目からわずかに覗く自分と同じ色の瞳に、マーゴはようやくこの話が冗談で流していいことではない事に気が付く。

 慌ててデイヴィッドを振り返ると、慣れた手つきでリラの背を撫でていたデイヴィッドが、見た事もないくらい穏やかにほほ笑んでいた。そのどこか色気がある表情に、不意に胸が鳴ってしまったのは絶対秘密だ。

 綺麗なアイスブルーの瞳を見つめたまま動けずにいるマーゴに対して、リラはマーゴの傍らをすり抜けてマーカスと連れだってどこかへ行ってしまった。



思いがけず2人きりにされて、マーゴはものすごく焦っていた。

 デイヴィッドがゆっくりと近づいてきて、片膝をついてしゃがみこむと、形の良い綺麗な手を伸ばしてマーゴの頬にそっと触れた。

彼が浮かべている今にも蕩けそうな甘い笑顔に、マーゴの心臓は押しつぶされそうなほど痛くなる。

「もちろん、今すぐではなく4年後か5年後か、君がデビューしてからの話になるけれど…私の妻になってくれないかな、マーゴ。リラと一緒にうちにおいで。私は知っての通り女性不信だし結婚嫌いだけれど、君なら信じられる。ずっと一緒にいたいと思う。君と、リラとずっと一緒に過ごしたいんだ」

 ゆっくりと、マーゴの心に言い聞かせるように、一言一言に心を込めてデイヴィッドが告げる。

「…私、キャロライン姉さまみたいに美人じゃないよ?」

「馬鹿な事を言わないでくれ。マーゴは可愛らしいし将来絶対美人になる。私が保証するよ」

「メアリー・グレイ姉さまみたいに気遣いのできる女性でもないし、お淑やかでもない」

「気遣いなら十分できている。私が落ち込んでいる時はいつだって慰めてくれるし、私が心地よく過ごせるようにいつも工夫してくれている。お淑やかさなんて求めてないさ。少々お転婆な方が君らしくて私は好きだ」

「お母様からは、いつもどうしようもない子って言われているの」

「私にとったら、どうしようもなく可愛らしくて素敵な子だ」

「公爵夫人なんて務められないわよ」

「まだ4年もある。それまでに勉強すればいいし、私だって全力で君をフォローするよ。大丈夫だ。嫌だったら一緒に領地に引きこもってもいい」

 段々声を小さくしながら、おそるおそる尋ねるマーゴを、デイヴィッドがやさしく抱きしめる。

 マーゴは父親以外にあまり抱きしめられた事がない。上の姉は出会えばいつもやさしくしてくれたけれど、物心ついた頃には嫁いでいてあまり実家には帰ってこなかったのだ。体が弱く友人もいなかった。だからマーゴはリラが絶対唯一でその温もりが欠かせなかったのだ。

デイヴィッドは、彼ら以外で初めてマーゴを抱きしめてくれた友人になる。今までも何度かこうして抱きしめられる事はあったが、彼の腕の中はいつも温かい。今までは彼が自分に興味を無くすまでの短い時間だけと思っていたが、もしかしたらこれから何回もこうやって抱きしめられる事になるのかもしれないと思うと、少し不思議な感じがする。

「リラと、一緒でいい?お邸の中でもリラと一緒に過ごさせてくれる?」

 大きな背中を抱きしめて、ジャケットを強く握りしめながら問う。コトリと小さな頭を彼の肩にもたれかけた。

「一緒においで。もちろんいつだって一緒に過ごしていい。―――ただ、私がいる時は私も一緒に過ごさせてくれる事が条件だけれど」

 茶目っ気を出して付け加えられた言葉に、マーゴは思わず笑ってしまう。その瞳が少し潤んでしまったところを、デイヴィッドに見られなくてよかったと思う。ただ、口に出した声が少し掠れていた事には気がつかれてしまったかもしれなかった。

「お父様が、キャロライン姉さまにヴィッドを諦めなさいって言った意味がわかったわ」

「エルストン子爵…マーカスはそんな事を言ったのか。まあ、確かにミス・キャロラインには諦めてもらうしかないんだけれどね」

「私、姉さまに恨まれるわね」

「否定はできないな。どうにかして納得がいくだけのお相手を見つけてもらって、早々に結婚してもらわないと」

 心の底からうんざりとした様子で告げるデイヴィッドに、マーゴはくすくすと笑う。

 あの姉がそう簡単にデイヴィッドを諦めるとは思えないし、今日彼が告げた事を知ったら怒り狂う事は間違いないが、今ばかりはこの穏やかな幸せに浸らせてもらいたい。

 恋するとか愛するとか、そういう気持ではないかもしれない。

 けれどデイヴィッドは、父親とリラ以外に初めてマーゴをマーゴとして受け入れてくれた人物で、自分にとっては掛け替えのない人物の一人だ。

 そんな大好きなデイヴィッドが、姉たちではなく、優雅な他の貴婦人たちでなく、マーゴをたった一人として選んでくれた事が嬉しかった。 

「ねえマーゴ、プロポーズの返事を聞かせてほしいな」

 やわらかく微笑みながらデイヴィッドが視線を合わせてくれる。

 その表情は端正でとてもドキドキさせられたけれど、同時に何故か可愛らしくも思えて、マーゴは少しだけ意地悪をする事にした。

「一緒に嫁ぐ親友に相談しないといけないの。4年後までには答えを返せると思うわ」

 最上級の笑顔で彼に微笑めば、デイヴィッドは愕然とした表情で彼女を見つめていた。

「…それはないんじゃないか、マイ・ディア」

「あら、本人の意見は大切でしょう?」

「それはそうだけど…」

 情けなさそうな顔に、マーゴは笑って頬に小さくキスを落とす。仲が良い友人として過ごしてきたけれど、キスをするのは初めてだ。

 デイヴィッドも一瞬驚いたが、すぐに笑って頬にキスを返してきた。

 今の自分たちでは世間的にも精神的にもこれが限界だろう。将来を考えているにはあまりに拙く幼い関係だけれど、たぶんこれが一番いい。

「来年には、ロンドンの家にも領地のハンプシャーにある邸にもライラックを植えようと思うんだ」

 思いついたように告げるデイヴィッドは、悪だくみを打ち明ける子どものように楽しそうだ。

「君とリラの花だろう?」

 そう言えば、以前何故広い庭園の中でもライラックの傍を好むのか告げた事があった。それを覚えていてくれた事に驚きながらも感心する。そしてその打ち明け話の素晴らしさに、マーゴは歓声を上げながら再びデイヴィッドに抱きついた。歓喜のあまりもう一度デイヴィッドの頬にキスをする。

 そして大好きな、おそらく将来の婚約者に笑顔で提案した。


「4年後にはそこでお茶会をしましょうね、ヴィッド。ロンドンでも、ハンプシャーの邸でも。私と貴方と、リラと一緒に」


 …と、いうわけで完結です。

 文章も拙い、設定もしっかりしていないこんなお話に付き合ってくださりありがとうございます。


 なんとな~く話ができてなんとな~く書き進めていたら、いつの間にか6話も行ってしまったあたり、作者にも「あれ~?」な作品でした(笑)が、最終的にはかなりキャラたちもお気に入りになりました。


 なんの盛り上がりもなく、ただほのぼのとしているだけのお話ですが、それがまたこのキャラ達らしいと思います。本音を言えば、もう少しデイヴィッドの「氷の貴公子」的な部分を出してみたかった…のですが、もしかしたらそれはまた別のお話で書くかもしれません。

 その際はまたよろしくお願いします。


 ちなみに、後一編、番外編があるので、それを載せて完結マークをしたいと思いますv

 ではでわv

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