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第8話 ロマンスを求める男

「もしかしたらロマンスがあるかもしれないよ?」


「でもトーカくん……好き勝手やってて追放されたって言ってなかった? しかも夢はハーレム! って……今までも似たようなことしてたんでしょ? 突っ込まなくていいトラブルに首を突っ込んで……」


 シアの背に翼が生える。彼女はふわりと浮き上がって、歩くトーカの顔をのぞき込んだ。


「ロマンスはあった? あったなら今、一人で地上に来てなくない? それともトーカくんのハーレムは天界にあるの?」


「残念ながら、ハーレムどころか恋人すらできてないんだよね……」


 トーカは顔をそらした――が、すぐさま勢い込んで、


「で、でもカップル作るのはうまく行ってたから! 僕自身にロマンスはなくても、他の人にはちゃんとあったから!」


「それって――わたしと違って普通に好感度の高い人たちのことだよね?」


「まぁ、はい、そうですね……」


「本当に、あのありさまでうまく行くと思ってる……?」


 トーカは押し黙った。シアは()ねたような顔で、飛んだままトーカの頬を指先でつついた。


「というかさ、トーカくんのほうはなんでうまく行ってないの? ハーレム作りたーいって言っておいて――」


「それはほら……スクナビコナの男は他種族に人気ないから……」


「え? そうなの?」


 シアは意外そうに首をかしげる。


「ショタコンの人とか大歓喜なんじゃないの?」


「僕は専門家じゃないから詳しく知らないけど、どうもその手のマニアからすると、スクナビコナの男は女の子女の子しすぎてるんだってさ。顔とか声とか、同性っぽさが強すぎるというか」


「女の子みたいっていうのはわかるけど……」


「絶妙にポイントを外してるらしいんだよ。で、じゃあロリコンのほうなら? っていうとこっちもダメ。そもそもついてる時点で論外で……。まぁ逆に言うと、スクナビコナの女はその手のマニアに大人気なんだけどね、男女問わず……」


 トーカは吐息混じりにぼやく。


「そんなわけで、僕の『巨乳爆乳ハーレム作ったれ計画』は頓挫(とんざ)気味なわけだけれど――」


「計画名はともかく、だからって他人のカップル成立は本末転倒じゃないかな? 目的がすり替わってるっていうか、トーカくんの目的なにひとつ果たせてないじゃん……」


「それはそうなんだけどさ。でも、そうやってカップル成立を手伝いつつ波瀾万丈な冒険をしてたら、素敵な出会いがありそうじゃないか。なにもしないよりはマシなんだし……」


「それで」


 と、シアはじーっとジト目でトーカを見つめる。


「うちのドラゴンたち、本当に助けるの?」


「知っちゃった以上は放っておくのもね……」


 トーカは苦笑いでシアを見つめ返す。


「シアだって本気で放置するのは気が(とが)めるんじゃない?」


 彼女は即答しなかったが、やがてぷいと顔をそらしてぼやくように、


「まぁ、あのあとどうなったか気になると言えば気になるけど……」


「心がすっきりするって大事なことだよ。それに素晴らしいロマンスと出会えるかもしれないわけで」


「そこは(ゆず)れないんだ……」


 シアは呆れ顔だ。


「いいことしてるんだからさ! ちょっとくらい役得があってもいいじゃないか!」


「でも追放されたんだよね? いいことしてたのに」


「た――確かに最終的には追放されているけれどもね? でもカップル成立したり夫婦の絆が深まったり感謝の手紙もらったりとかはしてたから……!」


 トーカは震え声で答えた。シアは吐息まじりに、


「わかったよー。それで? このあとはどうするの?」


「とりあえず、この人たちを引き渡して情報収集かな」


「直接()くのはダメなの?」


 シアはいぶかしげに盗賊たちを見る。宙に浮いたまま連行される姿は、なかなかにシュールな光景だ。すでに山を下って街道まで来ているから、時たま行商人や旅人とすれ違う。


 彼らは総じて、ぎょっとした顔を浮かべた。宙に浮いたまま連行されていく盗賊たちを(なが)め、それからそっとうかがうようにトーカたちを見て、厄介ごとの匂いを敏感に()ぎ取った様子で彼らはそそくさと立ち去っていく。


「なんか命令でわたしを追ってた、みたいな発言してたけど……」


「ああ、だからこそ訊いても無駄だよ。でしょ、隊長さん?」


 トーカは三頭の馬に目を向けた。騎乗していた三人は、そのまま馬に乗っけて移動させてられている。珍しく宙に浮いていない三人だ。ただ、話しかけられた男は(それ以外の二人も)ピクリとも動かない。完全に気を失ったままに見える。


 トーカはわざとらしく、音を立てて抜刀した。すると、盗賊のお頭が(あわ)てた様子で上体を起こして、


「いや起きてますって! すんません!」


 馬に乗せていたほかの二人も起き出して、油断なくトーカに目を向ける。


「知ってるよ。でも返事くらいはしてほしかったかな。起きるのが面倒でもね」


「つ、次から気をつけますんで……と、ところで旦那ぁ?」


 お頭は、もみ手で()びを売るように笑い、


「あっしらはしがない盗賊家業でして……隊長って、そんな御大層な身分じゃ――」


「その割にはすごく訓練されてたよね?」


 断言するトーカに、お頭は顔を引きつらせるのだった。

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