第6話 褒められたい少女
〔ヤバいなぁ、完全にやらかしちゃった……〕
トーカは小さくうなった。
〔まさか、こんな落とし穴がひそんでいたなんて……〕
これまでトーカは、ハーレムを目標にしつつ、よさげなカップル(になりそうな男女)がいたら問題を解決するついでにお節介を焼いてくっつけてきた。
だが、よりにもよって地上に来て初手でこんな失態を犯してしまうとは!
〔痛恨のミス……! 想定が甘かった! けど、まだ完全に失敗したわけじゃない!〕
活路はある! トーカは気合を入れ直した。
「まだだよ! 襲われていて、しかも封印の首輪をつけてたってことはトラブルつきだ! 解決に奔走するうちに新しいロマンスが――!」
「自分で口説くって発想がなんで出てこないの?? ハーレム作りたいんじゃなかったの!? さっきしれっとわたしのこと『どストライク』って言ってたじゃん! 口説こうよ、そこは! 傷心のお姉さんを口説いてやろうとかチャンスだとか思おうよ! それとも嘘だったの??」
胸ぐらをつかまれたまま、めっちゃ揺すぶられた。
「嘘じゃないよ。ちゃんと好みで――」
「というか、わたしだって里のためにいろいろがんばってたのにぃー! あの言い草はさすがにひどすぎない!? というか負担になってないか、わたしちゃんと訊いたでしょ!? 挨拶がわりってレベルで『遠慮しなくていいからね?』って言ってたでじゃん、わたし! なのに赤字ってどういうことなの!? 言われなきゃわからないよ! もうー!」
んもうー! と牛のごとくシアは叫びながら、ひっつかんだトーカを高速シェイクする。竜の膂力もあって、鍛えてない一般人なら死にかねないレベルであった。が、トーカは普通に〔しばらく待とう〕と呑気に思うのだった。
◇
「落ち着いた?」
肩で荒々しく息をついているシアに、トーカは話しかけた。彼女はじっとトーカを見つめたあと、ゆっくりとトーカを地面に下ろした。
「あの、ごめんなさい……取り乱しちゃって。助けてもらったのに」
恐縮した様子だった。トーカは手を振る。
「いいよいいよ、気にしないで。僕もちょっと迂闊だったなって……。いやー、成功体験の積み重ねって怖いね! 失敗が一度もなかったから惰性でやっちゃってたよ。これからは気をつけないと」
まさかこんなに嫌われている人がいるとは思わなかった。たとえ好かれていないと自覚ある人物でも、ひとりふたりは思いを寄せる相手がいるものだ。なのに、まさかのゼロとは想像すらしていなかった。
〔しかし映像を見るかぎり、普通に竜の里で暮らしてて、近場の村とも交流があったっぽいな〕
どういう経緯で封印の首輪をつけられたのだろう?
「それで、あらためて話を聞きたいんだけど……」
トーカが促すと、シアは深刻な顔でうなずいた。
「うん、わたしの魅力が低すぎるって話だよね?」
「違うよ? その話、続いてるの? というか続けたいの?」
「だって! わたしの好感度低すぎて……! ねぇ、泣いていい!?」
「もう泣いてるよね」
シアはすでにポロポロと涙をこぼしているのだった。
「本当にごめんね? 僕の迂闊な行動でめっちゃ傷つけて……」
トーカは手品のように手を振って手巾を取り出し、背伸びをして優しくシアの目元を拭うのだった。シアはじっとそんな様子をながめたあと、
「じゃあ、褒めて?」
「え?」
「褒めて。魅力的ならいっぱい褒めて?」
「えぇと――」
困惑して口ごもると、シアの涙がさらにたまっていく。噴火するほど大泣きする兆候だ。子供がやる仕草! 大変まずい!
「ああ! すっごい美人だよ。スタイル抜群! 胸が大きいのも僕的にはポイント高いね。性格も、会ったばかりだけど話を聞くにがんばってたのはちゃんと伝わる。巫女としての役割? を一生懸命やってたのに疎まれるなんて損な役回りだよね。でも文句を言われながらもちゃんとこなしてて、とっても偉いよ。すごいね」
「ほんと? でも、わたしのことみんな嫌いってぇ……」
「そんなの気にする必要ないよ。僕は大好きだからね」
「うん……」
と素直にシアはうなずいた。そしてチラッとねだるような目線をトーカに送る。
「軽薄に見えるかもしれないけど、見た目についてもう少し褒めさせてほしいかな。メリハリのついた体つきはすごく魅惑的だし、頭の二本の角と、長身なところが凛々しさを感じさせて、なのに顔立ちは意外とかわいい系だからギャップがあっていいよね。それに長いサラッサラの髪と、肌のハリとかキメの細やかさが――」
「あ、あの……」
語っている途中で、シアが話しかけてきた。見ると、顔を真っ赤にしてトーカから明後日の方向を向いている。どうしたのかと思えば、
「ちょ、ちょっとまって……。褒めすぎ、いきなり褒めすぎだから……。な、慣れてないから、あんまりいっぺんに褒めないで……。というか、見た目を褒められたことないから思ったより恥ずかしい……。自分の身体を褒められるのってちょっと、くすぐったい……」
今度は別の意味で泣きそうになっていた。
〔思ったより難儀な子だなぁ……〕
とトーカは思った。
「わかったよ。じゃあ慣れてきたら言うね」
「いやあの……! うん、お願いします……」
一瞬、葛藤するような様子を見せたが、褒められたい欲が勝ったらしい。
〔他人に認められることに飢えてる子なのかな?〕
少しばかり首をかしげつつ、トーカは言った。
「ところで、どうして襲われてたとか、あの封印の首輪をつけられた経緯とか、いろいろと聞きたいんだけれど?」
シアはぼうっとしていたが、すぐにハッとして、
「あ、うん! いいよ! でもどこから――」
「とりあえず襲われたときから順を追って聞きたいかな。さっき壊した首輪、自分ではめたわけじゃないんでしょ? 誰かに強制された。おっと……」
盗賊たちのうめき声が聞こえて、トーカはそちらへ目線を動かした。
「とりあえず、歩きながら話そうか」
トーカは町があるであろう方角を指さしながら言った。




