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第4話 神の力

「ありがとう」


 ひとしきり笑ってから、シアは礼を言った。首輪が破壊されたことで、驚くほど体が軽くなっている。


「あなたのおかげで厄介なコレを外せたわ」


 シアはトーカが持っている首輪の残骸を指さした。


「壊してよかったんならいいんだけどねー」


「というかなんで『壊しちゃまずいかも』って発想になったの? コレがなにか知らないで叩き斬ってたわけじゃないんでしょ?」


「力を封じるものだってのはすぐに気づいたよ。だからこそ斬ったわけだし……。ただ、せっかく解放されたはずなのにあんまりうれしくなさそうだったからさ。実は趣味で付けてるのかと」


「わたし、そんな変態じゃないから! こんなの好き好んでつける人とかいるわけないでしょ!?」

 と、シアはトーカが持つ首輪の残骸を指さした。


「だよねー」


 とトーカは笑った。


「だからサクッと斬っておいたわけだけど……」


「最初の反応は、その――だって、いろいろ突然すぎたんだもん。というか」


 と、シアはあらためてトーカをじっと見つめた。


「あなた、本当になんなの? いきなり降って――降って? 降ってきた?」


「なんで疑問形?」


「当たり前でしょ!? 普通、人間は空から降ってこないの! 言っておくけどね、わたし本当に大ピンチだったんだから!」


 シアは宙に浮く盗賊たちに目を向ける。


「コイツラに追いかけられて……もう捕まるしかない! って覚悟してたら、空から降ってきた人間が無双して窮地脱出! そんなの想像すらしたことなかったよ!」


「んー、確かに珍しいケースかも?」


 トーカは首をかしげる。


「なんで疑問形!? わたし以外にもそんな人いるの??」


 どうにもこの少年には常識が通用しない。


「それで、その……本当に何者なの? スクナビコナとか名乗ってたけど――聞いたことないよ、わたし。はじめて知った……」


「天界に住んでる小人族のことだよ。地上には住んでない……のかな?」


「そのへんは曖昧なんだ?」


「そりゃ僕もなんでも知ってるわけじゃないからね」


 トーカは肩をすくめる。


「一応、特徴はさっき言ったとおりなんだけど――」


 覚えてる? とその瞳が語りかけてくるので、


「平均身長がちっちゃくて、男は声変わりもしないしヒゲも生えない……だっけ?」


 シアの言葉に、トーカはうなずく。


「そうそう、女の子もツルペタ絶壁のまま。男女どっちも中性的っていうか、むしろ女の子ベースかな? 男の見た目も女の子みたいとか言われる奴だね。オオナムチの逆バージョンだ」


「オオナムチ?」


「ああ、そっちも?」


 トーカは意外そうに言った。


「オオナムチは巨人族だよ。平均身長が七尺五寸……えー、こっちの単位で二二七センチくらいか。まぁデカい奴らだよ。男は筋骨隆々のマッチョ、女は乳尻太ももがデカくてグラマラスっていう……」


 トーカは苦笑いで吐息を漏らす。


「スクナビコナは男女の区別が難しいって言われるけど、オオナムチは簡単なんだよね。男はみんなムッキムキだし、女は出るとこ出てて、引っ込むとこ引っ込んでるムチムチ体型だし……」


「どっちも天界に住んでる種族なんだ」


 聞いたことないなぁ……とシアは思ったものの、


「でもよく考えたらわたし、天界のことなにも知らないんだよね……」


 そもそもずっと里暮らしだったので、地上のこともそこまで詳しくない……と彼女は今更ながらに気づいた。


「まぁ地上から天界を見る――調べる方法はないみたいだからね。さて、じゃあ行こうか」


「え?」

だ。

 とシアが戸惑いを浮かべると、トーカは宙に浮かした二十人に及ぶ盗賊を手で示した。お頭をはじめ、ぐったりと馬に載せられている三人もいる。


「町だよ。こいつらを引き渡さないといけないし。ずっとここにいるつもりじゃないでしょ?」


「あ……そういえば殺してないんだ?」


 少し意外な感じがした。別段、殺気を感じたわけではない。それどころか、思い返せばトーカは相手に対する敵意さえ持たなかった……が、どうしたわけかシアは、彼らの死を――


〔ああ、こいつらはこれから死ぬんだ……〕


 という奇妙な確信を持ってしまった。だから生きていることが意外でもあった。


「一応言っておくけれど、僕は無益な殺生はしない主義だよ?」


 トーカは心底、不本意そうだ。


「殺さず済むならそれに越したことはないし……色々な意味で。それに今回は実力差がありすぎて普通に制圧できたからね。警察に引き渡して終了、でいいんじゃないかな? 殺すと()めそうだって日和(ひよ)ったのもあるんだけどね」


 ちらりとトーカは気絶した盗賊たちを一瞥(いちべつ)する。


「日和った?」


「いやほら、僕って好き放題に暴れて天界追放されてるからさ。さすがに大虐殺はまずいし、そもそも無益な殺生は我が神イセカイン・テンセーシャーンの嫌うところでもあるからね! やむを得ない事情ならともかく、無意味な殺しダメゼッタイ! 冥界の戦力も増えちゃうし!」


「なにその怪しそうな神さま……」


「僕のご先祖さまを怪しい扱いしないでほしいかな!」


「え!? 神さまの子孫なの……!?」


「子供を生んだ時点では普通のスクナビコナだったらしいけどね。そのあと修行を重ねて、夫婦そろって神になった感じ? もっとも、信仰は全然得られてないから知名度ゼロだけど」


「知名度ゼロってますます怪しい……」

「ふぅん? あくまで疑うんだ……?」


 シアはぎょっとした。明らかに不穏な気配を感じ取ったからだ。目の前の少年は、いたずらを思いついた子供のように笑っている。


〔なにか……ものすごくまずいことが起きる気がする!〕


「ならばとくと見よ! ご先祖さまから授かった奇蹟を!」


「ちょっと待っ――!」


 とシアが言いかけたところで、空中に映像が浮かび出した。同時に、音声が流れる。聞き覚えのある声がした。


『いやぁそれにしても怖気(おぞけ)が振るうな、シアの奴もよ』


「え?」


 困惑するシアの眼前で、いきなり故郷の竜の里が映し出された――見慣れたドラゴンたちの姿が見える。広場で、彼らが会話していた。

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