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第18話 ごちゃまぜファンタジーワールド

「ああ、監視って言い方は感じ悪いね。正しくは『観察』かな。別に地上に対して他意があるわけじゃないよ。ただ、冥界の動向を調べるのに地上の動きを見るのが一番手っ取り早いし、それに地上の発明や発展も興味深いからね」


「天界のほうがよほど発展していそうですが」


「方向性が違うだけで、地上だって十分いい感じになってるよ。特に中世ユーゴー帝国なんかは大々的に異界の文化や文明を取り入れてるから、当時は天界でも結構話題になったみたい」


「あなたのご先祖さまも統一帝と同じ世界の出身なんでしょう? 異界の文化なら一五〇〇年前の時点でいくらでも取り入れられたのでは?」


「うん、そうらしいよー」


 あっさりとトーカは答えた。


「僕も詳しくは聞いてないけど、色々相談した結果、ご先祖さまは時代劇っぽい方向で行ったみたいなこと言ってるんだよね。僕の着てる服とか刀とか? まぁ表向きは全部クーニャさん発案みたいな感じになってるけど」


 とトーカは自身の(はかま)姿や刀を手で示す。


「統一帝のほうはナーロッパっていうのを参考にしたとか? ご先祖さまに言わせると、ナーロッパってごちゃまぜファンタジーのことらしいけど」


「え? 地上ってファンタジーなの?」


 シアが困惑した顔で訊く。


「ご先祖さまからすれば、この世界は異界に比べてものすごくファンタジーらしいよ。ご先祖さまたちの故郷って魔法とかのたぐいがいっさいないらしいし。で、統一帝がもっといい感じの世界にしようとして、ごちゃまぜファンタジーワールドを参考にしたんだって。いいところだけつまみ食い、みたいな感じで」


「そうだったんだ……」


「だからなんか色々混じってるらしいね、異界の文化が脈絡なくあれこれ」


 アビーは静かに息をついた。


「話を聞いてるだけで一日が終わりそうですね……」


〔いえ、一日じゃ済みませんね、これ〕と彼女は思い直した。


「俺としてはスクナビコナって種族のほうが気になっちゃうけどね」


 横合いからクラウスが(あご)()でながら言った。


「女の子はどうなんだろう? エルフとかドワーフとかと違って、ちゃんとツルペタなのかな? とか」


「いきなり何言ってんですかこの弟は!?」


 アビーは目を()いた。クラウスは悪びれた様子もなく、


「いやー、だって姉さんだって気になるでしょ? そりゃ姉さんは目の前のトーカさんの性別がわからないくらいのポンコツだけどさ……。それでも隠れロリショタ好きのひとりであることに変わりはない。このままだと永遠に結婚できず独り身のままなんだから、ちゃんと疑問を――」


「ちょっと黙りなさい!」


 だが、つかみかかろうとしたアビーをクラウスはさらりとかわしてみせた。


「姉さん、この件は姉さんだって気になってるはずだ。俺の疑問は姉さんの疑問でもあるんだ!」


「勝手に人の心を代弁しないでください!」


「そういえばトーカくん、スクナビコナはみんな貧乳で幼児体型だから同族はダメって言ってたよね? 天界の小人族で――」


 言いかけたシアが急に言葉を止め、


「あ、そういえば襲ってきた人、なんか巨大化してたけど、あれって――ええと、なんだったっけ……? あの……」


「オオナムチ、だね」


 トーカが答えた。


「スクナビコナとは逆、巨人の種族。ちなみにスタイルもスクナビコナとは正反対」


「ああ! それだ! スクナビコナと違って、胸もお尻もビッグサイズなんでしょ?」


「襲ってきたヤツは男だったけどね」


「あはは、すっごいマッチョだったね。巨大化して超パワー出してたし」


「パワーについては大きくなっても変わらないけどね」


「え? 変わらないの?」


 シアは驚いた顔だ。


「天界でも誤解してる人がたまにいるけど、別に巨大化してもパワー上がったりはしないんだよね、あれ」


「つまり見掛け倒し? 実は貧弱パワーだったりする?」


「いやパワーは変わらないけど、攻撃範囲や射程は伸びるんだ。あの男の例で言うなら、町全体に剣気を張りめぐらせて一気に爆発させようとしたのは巨人化したからこそできたはず。ノーマル状態じゃ、もっと溜めに溜めないと撃てなかったと思うよ」


 僕が防いじゃったから不発だったけど、とトーカは付け加える。


「じゃあ、一応(いちおう)巨大化した意味はあったんだ」


「あの状況でさすがに無駄行動はとらないよ。実際逃げられてるしね」


「そういえばあれ、結局どういう繋がりなの? 敵――というか、バルツァー王と魔導協会で対立してるんだよね?」


 シアがアビーに目を向ける。


「まだ話の途中でしたからね」


 アビーはそっと息をつく。


「端的に言いますと、何ヶ月経っても次のダンジョン爆発が起きないので、さすがに次期皇帝をどうするか決めるべきだという話になりまして」


 ずいぶん悠長な話であったが、いつまでも空位のままというわけにもいかない。


「そこで、さて困った事態になったわけです」


「皇太子――つまり次の皇帝でしょ? その人も亡くなっちゃったんでしょ? 確か……」


 アビーはうなずく。


「はい。それどころか、皇帝の一族がまるまる全滅という事態です。通常なら皇帝と皇太子が亡くなっても、血縁者から新たな皇帝を選出して……という流れになるわけですが」


「一族全部亡くなっちゃったんだよね?」


「なので皇帝の親族から誰か適当な人を……という手も使えない。じゃあ誰に次の帝位を渡すべきか?」


 アビーは人差し指を立てる。


「ここが本当に難航してましてね。有力候補として名乗りを上げたのがバルツァー王です。七選帝侯(せんていこう)のひとりでもあって、実力も知名度も十分……ですが」


「逆に実力者すぎて困ってるって聞いたよ」


 トーカが言った。


「あとフェルス王も、祖母が先々代皇帝の姪っ子だからって理由で名乗りを上げてるとか」


「フェルスって、ええと確か――」


「西にある国だね。魔導ユーゴー帝国とは別の王国なんだけど、血縁的に見れば自分にも継承権はあるって強弁してるみたい」



「本当によくご存じですね……」


 アビーは呆れた。


「バルツァー王は強権的です。かつての強大なユーゴー帝国を取り戻そうと皇帝権の強化を目指すでしょう。当然、魔導協会も傘下に入れる。かといってフェルス王はもっとダメです。彼が帝位についたらフェルス王国と魔導ユーゴー帝国が合体した大帝国の誕生で、やっぱり皇帝の権力が絶大なものになる」


「え? 権力が強くなったらダメなの?」


 シアの疑問に、アビーは一瞬答えにつまる。

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