第17話 剣気と魔力の違い
〔また新しい情報が出てますね……〕
というのが、アビーの素直な感想だった。
〔龍穴にたまたま当たっただけというのも気になるんですが……〕
このまま語らせておいたほうが色々な情報が取れそうだ、と彼女は思う。
〔特に剣気については地上では未だ発展途上ですし……〕
「地上のドラゴンは慢心していっさい訓練とかしないみたいだけど、天界の竜は修行しまくりだからね」
「ドラゴンって最強種だから、別に修行しなくても強いんじゃ……?」
「本当に最強だったら襲撃されて拉致とかされないでしょ?」
「ああ、うん……。それは、そうだね……」
シアは遠い目をした。
「でもさ! 人間の姿っていうのは? ドラゴンには最強の牙とか爪とか鱗とか――あ、剣気!?」
「そう。剣気は剣にしか込められない――例外もあるけど、この基本原則はドラゴンであっても同様。だから剣を握るためにドラゴンは人の姿になる。それに武術とかも人が開発して、人が戦いやすいように研究・発展してるからね。ドラゴン用の武芸とか考えるより、人が使ってるのをそのまま利用したほうが手っ取り早いでしょ?」
「それはそうかもしれないけど――でも、本当に竜の牙とか爪より剣のほうが強いの?」
いぶかしげなシアに、トーカは笑みを浮かべる。
「その刀剣の材料、なんだと思ってるのさ。竜の牙、爪、鱗だよ? しかもドラゴン自身が鍛えに鍛えて、強化された素材。もちろんそのまま使ってるわけじゃない。色々な竜の素材に、希少な金属を混ぜ合わせて作った合金だ。そりゃドラゴンの素材そのままの肉体よりよっぽど強力だよ。霊体でも敵わないんだから」
「霊体?」
「死後の体だね。死んだ人は肉体を失う代わりに霊体を得る。霊体は肉体よりはるかに頑強で、生きながら肉体を霊体に変換できれば立派な神さまだよ。ま、強力になりすぎて、いきなり変わると剣気の扱いでちょっと苦労するらしいけど」
「剣気だけ? 魔力は?」
「そこは変わらないよ。説明しそびれたけど、魂から発する力――霊力を精神というフィルターを通して発現させたのが魔力だから。剣気は肉体、または霊体を通して発揮するものだね」
「大本はおんなじってこと?」
「同じだね。というより昔は一部の才能ある人だけが霊力を操ってたんだよ、ある種の特殊能力として。普通の人らは全然使えなかった。だから霊力をどうにか扱えないかと試行錯誤した過程で生まれたのが――」
「魔力であり剣気?」
「そのとおり」
トーカはうなずいた。
「霊力をそのまま使うんじゃなく、いったん精神を通して扱うのが魔力。肉体または霊体を通して扱うのが剣気。元は同じだけど、精神や肉体を通すことで誰でも扱えるようになっているわけさ」
「じゃあドラゴンの強さも、魔力や剣気の前では無力ってこと?」
シアの物言いはいかにも不満そうで、トーカは苦笑いだ。
「別にそういうわけじゃないよ。なんというか、初期値の差はあるからね」
「初期値?」
「例えば人間の戦士を一とすると、ドラゴンは生まれながらに五十とか一〇〇とかの強さを持つわけだ。ただ、修行すれば人間でも五十や一〇〇どころか、二〇〇、三〇〇、一〇〇〇とか、ドラゴンより圧倒的に強くなれる」
「……もしかして、ドラゴンってあんまり強くない?」
シアはちょっとショックを受けたような顔だ。
「そんなことないよ。ドラゴンだって修行すればいくらでも強くなれるんだから。それに寿命を伸ばすには、どのみち修練が必須なわけで……」
「え? 天竜って生まれながらに不老長寿なんじゃ……?」
「んなわけないでしょ」
トーカは呆れ顔だ。
「天界だろうが地上だろうが、ドラゴン――というか、知的生命体の寿命は一〇〇年前後しかないよ。……どうも天界の生き物はみんな長生き、みたいな認識っぽいけど」
「違うの?」
「そりゃ違うさ。実際は修行して不老長生の法を会得するんだよ。簡単に言っちゃえば修行して寿命を伸ばしてるだけで、なんにもしなかったら天界の人間だってドラゴンだって一〇〇年そこらで死ぬよ。そこは地上も天界も関係ない」
「……強さも?」
「もちろん」
トーカはうなずいた。
「『天竜は絶大な力を持ってる』みたいに思ってるようだけど――まぁそれは間違ってないんだけどさ。でも別に生まれながらの強者とかじゃないんだよね。みんな修行に明け暮れてるから地上の竜より強いだけ。なんにもしなかったら大差ないよ、実力的に」
「それって私でも? 修行したら強くなれる?」
ちらりと、のぞき込むようにシアはトーカに目を向けた。
「お望みとあらば稽古をつけようか? 教えられるのは剣気を含めた剣術、それに式神とかの陰陽術系の魔法を少々って感じだけど」
「お願い!」
シアはトーカの手を両手で握りしめた。
「ドラゴン的には強さはすっごく重要だから! 強くなれるならやる!」
シアは決意に満ちた顔だ。
「じゃあさっそく――」
「の前に」
とアビーがさすがに口をはさんだ。
「先ほどの龍穴についての見解をお聞きしたいんですが……」
「龍穴?」
シアはいぶかしそうに首をかしげ、
「ああ! そういえば龍穴にたまたま当たっちゃっただけって!」
言ってたねー、と彼女はトーカを見る。
「予想に過ぎないけどね」
トーカは肩をすくめる。
「ダンジョンが急激に育った理由なんて僕にはそれくらいしか思いつかないし、二回三回と続けない理由も偶然だったからじゃないかなって」
シアは怪訝な顔をした。
「場所はわかってるんだから、もう一回その龍穴にダンジョンを発生させたらいいんじゃないの?」
「ダンジョンって思い通りの場所に打ち込めるわけじゃないんだよ。大雑把な場所の指定はできるけど……例えば『魔導ユーゴー帝国のどこか』みたいなのは可能でも、『ピンポイントで龍穴のある場所にダンジョンを』ってのは無理なんだよね」
「ああ、それで一回だけだったんだ」
「多分だけどね。ひょっとしたら量産が難しいだけで、冥界の新兵器って可能性もあるわけだし」
「ですが、トーカさん的にはその確率は低そうだと?」
アビーの問いに、トーカはうなずいた。
「個人的にはね。まぁ冥界は地上と違って天界から直接の監視はできないから、実際のところはなんとも言えないんだけど……」
「ふむ……監視、ですか。つまり当然地上も……ってことですよね?」
アビーは相手の反応をうかがうようにトーカを見つめた。




