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第11話 帝国の歴史

「あっさり気づかれた」


 帰ってきた式神(しきがみ)を手のひらに乗っけて、トーカはぼやくように言った。


どうかしたの(ふぉーかしたの)?」


 シアはもぐもぐとパンケーキを頬張(ほおば)っていた――宿の近場にあるカフェでのことだった。


 盗賊退治(ということになっている)によって当座(とうざ)の金は手に入った。トーカはシアを連れて手近な宿を取ると、さっそく何か食べようと評判のカフェまでやってきたのだった。


一応(いちおう)、なにかしら情報が得られるんじゃないかと思って式神を隠密(おんみつ)させてたんだよ」


 トーカは手のひらの式神をシアに見せた。


「とりあえず大雑把な盤面(ばんめん)は見えてきたかな。次期皇帝選挙のためにバルツァー王と、たぶんペルフェクティオ選帝侯(せんていこう)が対立してて、色々と裏で動いているっぽいね」


「せんていこーって何? そもそも皇帝って選挙で選ぶの?」


「ああ、そういえばそういう知識に(うと)いんだっけ……」


 式神を御札(おふだ)に戻しながら、トーカは言った。


「魔導ユーゴー帝国では、皇帝を選挙で決めるんだ。その投票権を持つのが七人の選帝侯」


 ペルフェクティオ魔導伯(まどうはく)

 ウィンクルム魔導伯。

 テンペスタス魔導伯。

 ヴァンゲンハイム公。

 レーゼル公。

 オーレンドルフ辺境伯。

 バルツァー王。


「まぁバルツァー王以外はペルフェクティオ選帝侯とかレーゼル選帝侯とか呼んじゃうことも多いみたいだけど」


「公は公爵のことだよね? 魔導伯と辺境伯は聞き慣れないけど……」


「辺境伯は国境を守る強力な上位貴族とでも思っとけば間違いないよ。魔導伯のほうは――その前に帝国魔導協会は知ってる?」


 シアはパンケーキを頬張りながら、首をかしげて怪訝(けげん)な顔をした。


「うん、まぁそうなるね……」


 トーカもパンケーキを一口食べてから答えた。


「まず中世ユーゴー帝国っていうのがあって――あってというか、あったんだよね。かつて世界で初めて大陸統一を成し遂げた大帝国で、このユーゴー帝国の建国をもって古代世界が終わって中世が始まった、というのが地上の歴史観」


 ユーゴー帝国は大陸全土を支配し、様々なものを統一・発展させた。


貨幣(かへい)や文字、度量衡(どりょうこう)(こよみ)とか……中でも力を入れていたのが魔法の開発・研究・普及・指導といった役割だね。そのために設立されたのが帝国魔導協会……魔法によって人々を導くための組織だよ」


 ユーゴー帝国そのものは、あまりにも国土が広すぎたためにやがて崩壊し、四分五裂した。だが帝国魔導協会は独立性が高く、国が崩壊してもなお組織としての形を維持していた。


 いや、むしろ中世ユーゴー帝国時代よりも強い権限を持つようになった。


「もともと食料生産に加え、水道や道路・鉄道整備とかのインフラ、治癒魔法による病院、初等教育のための学校とか……とにかくあらゆるものに関わってたから、大陸のあちこちに魔導都市があって、実質的な領主みたいになってるんだよ」


 そして、魔導ユーゴー帝国における魔導都市の領主こそが魔導伯……正確に言えば魔導伯とは単なる俗称(ぞくしょう)であり、実際は各魔導都市を統括する理事に過ぎない。


 だが魔導都市という巨大な領地における権限は、まさしく領主貴族と呼ぶほかない強さを持っている。


「だからこそ魔導伯と呼ばれ、なおかつ選帝侯にも選ばれているわけさ。まぁ選帝侯に関しては魔導王(まどうおう)――ああ、これも俗称だよ? 実際は魔導協会の会長、正確には理事長に当たる人物なんだけど、とにかくこの魔導王の影響って感じみたいだけどね」


「なんか話聞いてると、独立した大帝国みたいな感じだね?」


「間違ってないよ。実際、魔導協会ってあちこちに点在してる国みたいなものだからね。魔導ユーゴー帝国においては選帝侯である三人の理事を通じて、影響力を行使しているような感じ? 今は違うけど、前は魔導ユーゴー帝国と帝国魔導協会とで任命権闘争とか起きてたし」


「任命権?」


「魔導都市の理事とか、下部組織である魔導学園や冒険者ギルドの学園長、ギルドマスターといった人物を誰が任命するのか? って争い」


 コーヒーに口をつけながら、シアはまた首をかしげる。


「なんでそれで帝国が出てくるの? 普通に考えたら協会の会長が決めるんじゃ……?」


「その通りなんだけど、もともと帝国魔導協会はユーゴー帝国の組織なわけだ。当然、協会人事はユーゴー帝国皇帝が握っていた。ところが、中世ユーゴー帝国は崩壊して四分五裂……特に西側はバラバラと言ってよかった」


 東西に分かれた中世ユーゴー帝国だったが、東側は東ユーゴー帝国として今日まで存続している――むろん、国内の独立やら冥界からの侵攻やらで領土を(けず)られ、だいぶ小さくなってしまっているが。


 しかし、それでも完全崩壊状態の西ユーゴー帝国よりはマシだった。


「とはいえ西側も分裂したままってわけでもなくて、いったん再統一されてるんだよね。で、再統一時に『自分たちは中世ユーゴー帝国の継承国家である。よって魔導協会会長や理事の任命権は皇帝にある。なぜなら帝国魔導協会の人事は皇帝の管轄(かんかつ)であるから』と……」


 もちろん「はい、そうですか」と納得されるはずもない。当の魔導協会は当然として、東ユーゴー帝国からも抗議の声が上がった。


 とはいえ、再統一時の西ユーゴー帝国は強大であり、一方の東ユーゴー帝国は縮小の一途だった。大陸西側全土……とはいかないものの、西部の大半を傘下(さんか)に収めたこの大帝国は、確かにかつての中世ユーゴー帝国を思わせるに足る覇権国家だった。


 かつての威容(いよう)など見る影もない東ユーゴー帝国が、この飛ぶ鳥を落とす勢いの大帝国に刃向かえるはずもない。金と権力に屈してあっさりと任命権を認めてしまい、一方の魔導協会とは熾烈(しれつ)な争いが繰り広げられた。


「再統一された西ユーゴー帝国側が勝手に会長を指名して現会長を降ろしたり、その影響で冒険者ギルドの冒険者――つまり魔導協会の事実上の私兵たちと小競り合いが起きたり、食料生産やらインフラ維持やらで()めに揉めたり……ただ、最終的には再統一を維持できなくてまた崩壊するんだけど」


「ええ……。せっかく再統一されたのに?」


「そりゃ国土が広すぎてバラバラになったのを無理やり(つな)ぎ止めてたわけで……統一帝の再来ってことで再来帝(さいらいてい)なんて称されてるけど、この皇帝が死んで子供の代になったら普通に跡目(あとめ)争いでまた分裂だよ」


 結局、帝国は三つに分けられた。西部、南部、東部に……そして、西部ユーゴー帝国はフェルス王国の原型となり、東部ユーゴー帝国は魔導ユーゴー帝国を名乗って自分たちこそが中世ユーゴー帝国の後継(こうけい)と主張している。


「あれ? 南部は?」


「今は北部が北ユース共和国、中部が魔導協会領、南部はアウストラリス王国になってるね。北ユース共和国については魔導協会とのゴタゴタで、何度か魔導ユーゴー帝国に占領されたりしてたんだけど、都市国家同士で連合を組んで独立して……って感じ?」


 そしてこの北ユース共和国があるがために、魔導ユーゴー帝国は魔導協会領へと攻め込むのが難しくなった。


「いわば緩衝(かんしょう)地帯だね。だから今は小康状態……なのかな?」


「トーカくんもわかってないの?」


「そりゃ僕は地元民じゃないし」


 トーカはパンケーキを頬張った。


「ま、詳しい話は本人たちに聞けばいいんじゃないかな?」


 トーカは立ち上がると、ちらりと白い鳥に目を向けた――あの公爵令嬢の使い魔だ。

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